上 下
29 / 37
~神聖ザカルデウィス帝国 旅禍篇~

~神聖ザカルデウィス帝国前編~ 暴虐

しおりを挟む
 ゼイフォゾンは、カオウスの目の前に躍り出た。その表情は厳しく、カオウスと対照的になっていた。カオウスは儚げな表情を崩さなかった。この場合、誰が哀れであろう。ゼイフォゾンの芝居が哀れなのか、カオウスの傲慢が哀れなのか、それを決めるのは他ならぬ雌雄を決する二人だけであった。神聖ザカルデウィス帝国の五大竜騎士団最強の将軍の力と、ドグマ大陸の救世主の力がぶつかるのは時間の問題であった。ゼイフォゾンはあえて、男たちにこう命令していた。決して殺さない事である。それ以外に一つ頼みを言っていた。クセルクセスの砂漠の城下町が自分によって陥落した場合、民主的なやり方で王を決め、皆で支え合う事。これはゼイフォゾンの疑問を解き明かす材料になると、自分で思っていた。他ならぬカオウスの執政を待っていてはクセルクセスの砂漠の城下町は良くならない。それよりも、カオウスを決起させ、団結する事で、この神聖ザカルデウィス帝国は変化しよう。そう思っていた。カオウスはそうとは知らず、ただ単に皇国レミアムのソード・オブ・オーダーが乱心したとばかり思っていた。それは間違いなく、そうだったのかも知れない。何故なら、ゼイフォゾン自身も正気とはかけ離れた場所で主義主張を唱えていたのだから。しかし、これも仕方のない事であった。ゼイフォゾンは民主主義を貫き通そうとは考えてはいたが、長年、社会主義を貫いてきた神聖ザカルデウィス帝国は今更変える事はできない。だが、ここから変わる第一歩になるはずであると考えていた。カオウスという人間が変われば、より自分たちは動きやすくなる。それは混乱を引き起こす事ではない。何が間違っていたのだろう、何がそうさせたのであろう。彼らはどうすれば良かったのであろう。ゼイフォゾンは何をして正しい改革を起こせたのだろう、カオウスはその悲哀をどう原動力に変えれば良かったのであろう。この戦いに正しさは求められないのかも知れない。数々の間違いは彼らを強くさせるのだ。ゼイフォゾンは無慈悲に、残酷に、厳しく、神剣ランゼイターを召喚した。ゼイフォゾンの闘気は絶対の漆黒に包まれ、クセルクセスの砂漠を埋め尽くすほどに大きかった。カオウスは邪竜王グラムに跨り、その死の瘴気を惜しげもなくばら撒いた。それは城下町に届くほどであった。その瘴気を抑えたのが、ゼイフォゾンの放つ漆黒の闘気であった。ぶつかり合う漆黒と漆黒、絶対の死と絶対の死。交わるのは神剣ランゼイターとテトラグラマトンである。どうなるかは分からないが、これは闇黒の戦いである事には変わりなかった。

 口火を切ったのは邪竜王グラムであった。その口から放たれたブレスは真っ白で扇状に広がっていく。その威力は凄まじく、砂漠の砂を凝固させてほとんどがガラス状になっていく。その熱量はオアシスの水を干上がらせるほどで、それがゼイフォゾンに向って容赦なく放たれた。岩肌が崩れる。そのブレスを神剣ランゼイターで叩き斬って上空に逃がしたのはゼイフォゾンであった。このブレスの向かう先はクセルクセスの砂漠の城下町である。当たったら最後、民たちは全滅する。ゼイフォゾンにとってこの戦いは防衛のための戦いでもあった。カオウスは、クセルクセスの砂漠の城下町の事などどうでも良かった。滅びているような町の事などどうでも良かった。消えようがどうしようが、関係ない。カオウスにはそういう傲慢さがあった。その儚げな表情の裏には、元帥ギルバートが正しいのだという思惑が隠れていた。国とは、執政とはそういうものだという諦めと、それに対する、自分に対する怒りが、相反する想いがあった。諦めは傲慢さとなり、怒りは正しくもあった。しかし、目の前で起きた事を確認した時、カオウスは信じられないといった表情を現した。邪竜王グラムのブレスが弾き返された事に。この神聖ザカルデウィス帝国の竜王のブレスの中でも邪竜王グラムのブレスは強力無比であった。これに対抗できるのは灼竜王ダーインスレイヴぐらいである。それを単身で叩き斬って弾き返した。ゼイフォゾンの戦力が疑わしいものになった。何故だろうか、自分が神聖ザカルデウィス帝国最強の将軍と呼ばれてから敗北を知った事はない。上には上がいるなど知らなかった、それだけではない。神聖ザカルデウィス帝国の将軍である事自体、自分たちは七英雄と並んだものと思っていた。なのに、この男はそれを軽々しく超越していくのか。ならば、今までの自分の力とは?そう考えたカオウスは、自分の力を信じられなくなってきた。だが、退くわけにはいかない。邪竜王グラムを駆って、テトラグラマトンをゼイフォゾンに振り下ろした。その攻撃は確実にゼイフォゾンの肩を捉え、それが直撃したが、ゼイフォゾンは厳しい表情を崩さなかった。効かないのだ。傷一つ負わない。ゼイフォゾンは神剣ランゼイターをカオウスに振り上げた。それを辛うじて防いだが、腕が痺れて言う事がきかなくなってしまった。圧倒的過ぎるゼイフォゾンの前に、カオウスはテトラグラマトンを握りしめながら、力を振り絞った。テトラグラマトンには運命変動因子を変化させ、相手に死の呪いをかける事ができる力がある。傷一つ付かなかったゼイフォゾンにとってそれは無意味であった。


「この僕が、ここまでしてもビクともしない。君はいったい……」

「一振りの剣、なのだろう?私はドグマ大陸のみならず、このコル・カロリの世界を正しく導く。これは私のわがままではなく、帝王ゴーデリウス一世も望んだものだ。私は自分が正しいと感じた事のままに動く。それに何の矛盾もない。では訊くが、お前はその傲慢さをどう説明する?」

「僕が傲慢だと?」

「そうだ。カミシニの国の言葉を借りれば、井の中の蛙だ。自分より強い存在を知らなかったのだろう、しかしそれは罪ではない。だが、その力をなぜ関係ない人間にまで振るおうとする?この私の後ろには城下町だ。ブレスは放つ、瘴気も放つ。届けば皆死ぬ。それが分からぬ男ではあるまい。しかしお前はそれを関係なく放った」

「あの町はとっくに滅びている。今更……」

「生きる人間にそれが言えるか!この瞬間を必死に生きている人間にそれが、同じ事が言えるか!あの町は確かに救いがないかも知れん、だが誰かが正さなくてはいけない。それができるのはお前だけではないのか!元帥ギルバートの言葉に抗ってみろ。それができなければ、私がお前を殺そう」

「僕を殺す?」

「そうだ」

「できるのかい……僕は不死身だよ?」

「この私なら可能だ。どのような奇跡も正しく、矛盾なく否定してみせよう」

「奇跡を否定する力……まるで悪魔じゃないか。どんな魔族よりも残酷だね」

「そうだ。私はどこまでも冷酷になれる、お前を殺す事など容易い。いいのか?お前は絶対の死を目の前にしてまだ悪あがきを続けるのか?」

「テトラグラマトンは僕の母が遺した最強の得物だ。君みたいな男に敗れるわけがない!」

「元帥ギルバートの言葉に抗うか!それとも力に溺れた情けない人間のままに生きるか!」

「クッ!うるさい!僕は僕のままだ!グラム、あの敵を討て!」

「この馬鹿者がぁ!!」


 邪竜王グラムがゼイフォゾンに向って飛翔し、その爪で引き裂こうと迫った。その後にテトラグラマトンによる二段構えの攻撃を仕掛けようというのである。それを完全に見切っていたゼイフォゾンは神剣ランゼイターで邪竜王グラムの爪を弾くと、テトラグラマトンによる攻撃を受け流し、そのまま振り払うと、カオウスの手からテトラグラマトンが吹き飛んだ。その後にゼイフォゾンはカオウスの脇腹を殴った。邪竜王グラムから落ちたカオウスはその場で転がり、血を吐いた。ゼイフォゾンは神剣ランゼイターをカオウスの首に向けるとそのまま切り落とそうとした。カオウスは死を覚悟し、目を瞑った。しかし、ゼイフォゾンはカオウスを殺さなかった。


「僕を殺さない理由を教えてくれるかな」

「生きるのだ。お前は神聖ザカルデウィス帝国に必要な将軍だろう、私にここまで追従できた者はそういない、しかしお前は私に一撃を加える事ができた。確かに神聖ザカルデウィス帝国最強の将軍なのだろう。あのゲンドラシル・ジェノーバさえも超える将軍だとは分かる」

「ゲンドラシルを知っているのかい?」

「知っている。私たち旅禍を良く歓迎してくれた最初の将軍だ」

「彼の強さは家族と、そして何にも負けない不屈の精神だ。僕にはないくらいの強い心を持っている。そして、この神聖ザカルデウィス帝国の将軍のなかでも頭抜けて強い。アイゼンやソーンもエアラルテも彼には勝てない。それだけの価値が、ゲンドラシルには備わっているんだ。僕を抜きにして考えれば、彼は確かに最強の男だ。いや、武力だけで言えば僕が勝っていても、彼はそれを上回る何かがあるよ」

「ゲンドラシルの事、随分と買っているのだな」

「あの男には驚かされるばかりさ。敗戦の数だけ強くなるんだ、それも将軍という垣根を超えて国民からの信頼も厚い。例え戦いに駆り出される兵士にも手厚く、そしてよく話を聞く。もしかしたら、神聖ザカルデウィス帝国最強の将軍は僕じゃなく、彼かも知れないね」

「器も大きいのか。ゲンドラシルという男は……ならばお前はどうだ。最強の将軍と呼ばれるようになってから……」

「いいや、僕は器じゃない。せいぜいこの辺りが打ち止めだよ。しかし、よくもこう強く殴ったね、僕まだ痛いんだけど」

「すまないな。あの竜王からお前を離すにはこうする他なかったのだ」

「そうだ……グラムは、グラムはどこに行った?」

「いかん!町へ向かって行ってしまっている!」

「まずい……あの距離だと届かない。ゼイフォゾン、君の策は?」

「使ってみるしかあるまい。しかし、手綱は引き絞れるのだろうな?カオウス」

「やってみせよう」

「では私に触れてくれ。神術であの竜王の背まで跳躍する」

「頼む、でなければグラムはあの瘴気をばら撒いて町の人間を皆殺しにしてしまう」

「行くぞ!」


 カオウスはゼイフォゾンの肩に触れ、空間を跳躍した。文字通りのテレポートである。魔術でもテレポートはある。それは段階によって分かれており、初歩のテレポートから禁術である無差別制限解放の距離を選ばないテレポートまであるが、神術のテレポートは文字通りの自由自在なテレポートである。魔術のテレポートと違うのは空間と空間を繋ぐ扉を開く事で跳躍するのと、異界の門にアクセスしてそれを開いて空間を繋ぐゲートを出現させて跳躍するのとでまったく性質が違う。前者が魔術で、後者が神術である。そのどれもにタイムラグは生じないが、神術は異界の門にアクセスするのでまったく違う世界…例えば魔界や冥界にもテレポートが可能になる。二人はテレポートで邪竜王グラムの背中に乗ると、カオウスが首に触れて落ち着かせると、大人しくなったように見えた。しかし、邪竜王グラムは逆に暴れだした。その瘴気をばら撒きながら、城下町に近づいていく。ゼイフォゾンもカオウスも焦っていた。邪竜王グラムは瞬間、首を縦に振り下ろすと瘴気が城下町を覆うように放たれた。全てが遅かった。瘴気は城下町を埋め尽くし、全てが廃棄物と化した。人間も、建物も。最悪の出来事である。ゼイフォゾンはカオウスが叫んだ姿を見て、これは仕方のない出来事だったのだと思うのと同時に、自分の無力に苛まれた。今、神聖ザカルデウィス帝国において最強最悪の黒竜騎士団の団長の乗る竜王という恐ろしさに気付いた。確かに光都エリュシオンには相応しくないのかも知れない。クセルクセスの砂漠の城下町は消え、そこに広がっていたのは灰にまみれた砂漠が広がるばかりの場所になってしまった。そこに一つの小型戦艦が降り立った。そこから出てきたのは、アルティスとゲンドラシルであった。やっと邪竜王グラムを落ち着かせたカオウスは、遠くに降り立ち、二人で砂漠を歩き、アルティスとゲンドラシルのもとへと行った。その表情は悲しく、落ち込んでいた。


「ゼイフォゾン、様子は戦艦から見ていた。お前もお前の戦いをしていたんだな」

「すまないアルティス、ゲンドラシル。町を失った……そこにいた人々も消え失せた。私には、カオウスにも止められなかった。これは私の責任だ。私が全て悪いのだ」

「いいや、君じゃない。グラムの怒りを抑えられなかった僕が悪い。ゲンドラシル、君にどう説明したらいいか……」

「お前はよくやったんだ。どの道、あの城下町は正さなくなくてはならなかった。だが消えてしまった今はどうにもならないが、お前は悪くない。全て元帥ギルバートの思惑がそうさせたと思ったほうがいい。そう思わなければ、やってられない。いいかカオウス、俺たちは元帥ギルバートの執政を何とかしなくてはいけない。こうしている間にも重い税に苦しむ村や町がある。それを救わなければ、どうにもならん。我々は一つとなって、この国難を乗り越えなくてはいけないのだ」

「罰はいくらでも受けよう。元帥ギルバートが神聖ザカルデウィス帝国の行方を握っているなど僕も我慢できない。その戦い、僕にも参加させてくれ」

「ゼイフォゾンよ、いいか。俺はお前が全て悪いなんて思っちゃいねぇ、俺はアルティス・ジ・オードだ。全てを知っているし、分かっている。俺はお前の相棒だぜ。それは今も後も変わらねぇよ」

「ありがとう。アルティス、お前の言葉にはいつも救われてばかりだな」

「僕のグラムはどうしたらいい。光都エリュシオンに降り立った瞬間、終わるよ」

「私の神術で跳躍させる。位置を教えてくれたら、そこにな」

「頼むよ、ゼイフォゾン」


 どうやら光都エリュシオンには邪竜王グラム専用の檻があり、そこに転移させれば安全であるとカオウスが言った。ゲンドラシルも灼竜王ダーインスレイヴ専用の檻があると言っていたし、それは確実である。小型戦艦のレーダーを使って位置を特定し、ゼイフォゾンは邪竜王グラムを跳躍させ、安全な場所に置く事に成功した。ゼイフォゾンとアルティス、ゲンドラシルとカオウスは小型戦艦に乗り込み、光都エリュシオンに向かった。どうやらソーンは光都エリュシオンに戻ってきたらしく、そのまま帰れば、会えるとゲンドラシルは言っていた。そうなのかも知れないが、ソーンは気まぐれで怒らしたら神聖ザカルデウィス帝国の将軍のなかでも特に危険であるという。暗殺者の頂点を極める女帝で、戦いになれば暗殺を主とした隠密活動をやると言っていた。ゲンドラシルとカオウスも彼女の事は怒らせたくないらしく、接触するのはくれぐれも気を付けるようにと念を押していた。ゼイフォゾンとアルティスの事だから心配はしていないが、光都エリュシオンでソーンと事を構えるのは止しといたほうがいい。それは確実なようだ。ゲンドラシルとカオウスは一緒に行動し、元帥ギルバートの行動を監視すると言っていた。そしてそろそろアイゼンが謹慎から解放されるので、これからの行動には慎重になったほうがいいという事であった。アイゼンは聖竜王ズフタフに乗っていたゲンドラシルの同門で、相当の実力を持っている。危険な思想の持ち主で、元帥ギルバートの力を崇拝している事から何をするか分からない。小型戦艦は光都エリュシオンにそろそろ着く頃であった。ゼイフォゾンはその光都エリュシオンを見ると、あの消えた城下町の格差に愕然としていた。これは人間の作り出した差別、これを強制的に面倒を見るようになったカオウスが精神をおかしくするはずである。悲しい現実である。光都エリュシオンがこんなに煌びやかなのに、何故他の村や町は重税を課されるのであろう。光都エリュシオンの発展しか見ていないのか、それでこの神聖ザカルデウィス帝国は存続すると思っているのか。甚だ疑問であった。そんな訳がない、このままではいけない。だからこそ変えなくてはいけない。元帥ギルバートの執政そのものを。

 ソーン・ロックハンス、ラーディアウス・ロックハンスの実の妹で、ロックハンスの一族の長女。この世の暗殺者たちを支配し、統括し、それを力で引っ張っている最強の女帝。暴竜騎士団の団長で、朧竜王カッツヴァルゲルを相棒としている。神聖ザカルデウィス帝国の将軍の紅一点だが、光都エリュシオンに留まる事は稀で、いつもどこかに行っている。彼女は気まぐれだが、反面、常識人で話が分からないわけではない。そのソーンに協力を頼むのだが、ラーディアウス曰く、ソーンとは猫のような者であると言っていた。ロックハンスの一族のなかでも最強の身体能力を誇り、その動きについてこられる人間は皆無に等しいものになっている。そんな女を怒らせるような真似をしてしまったらまずい。光都エリュシオンは暗殺術を行使するのに恰好の場所である。ゼイフォゾンとアルティスはとにかくこのソーンが光都エリュシオンのどこにいるのかを情報収集するように決めた。小型戦艦が光都エリュシオンに降り立った。ゲンドラシルとカオウスは別で動くため、どこかへと行ってしまった。残りの二人はまずどうしようかを話し合った。ソーンを探すにしても、情報収集するにしても光都エリュシオンの事がまず分からない。とにかく土地勘を働かせなくてはいけない。アルティスは別々で行動するのは危険だとして、二人同時に行動する事を選択した。それに同意したゼイフォゾンは、ため息を吐いた。これからどうなるのか…クセルクセスの砂漠の城下町のような惨劇にならないようにどう動くべきなのか。全く見当もつかなかった。あれは仕方がなかったとは言え、生きていた人間に仕方がなかったで済ますのは酷である。現に人間と建造物がゴミに変わってしまったのだ。あんな思いはしたくない。できればソーンに接触するのは穏便に済ませたいものである。


「暗い顔するなって。もう過ぎた事は忘れよう、あれは確かに惨劇だったがな。俺たちは振り向いちゃいけない。まずはソーン・ロックハンスの探索だ。暗殺術の頂点に立つ女だ、多分普通の探し方で見つかるわけがないだろう。さて……どうするか。この光都エリュシオンは俺たちには広すぎて、骨が折れそうだぜ」

「確かにそうかも知れんな。だが、あの辺りは人間がよく集まる街のようだ。そこで情報収集を試してみないか?」

「そうだな……多数の人間のなかに紛れていたらもっとややこしくなるが、それはそれとして、何か知ってそうかもな。俺は賛成だ」


 ゼイフォゾンとアルティスはかくして二人となった。別々の道から、また交わる道。そこに嘘偽りはなかった。しかし、ソーン・ロックハンスは危険な女である。あのラーディアウスの妹というだけで、ただの人間ではない事は確かであった。
しおりを挟む

処理中です...