【本編完結】攻略対象その3の騎士団団長令息はヒロインが思うほど脳筋じゃない!

哀川ナオ

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第五章 終わりの始まり

正解は結果次第


 昼食を終えてラウンジから特別棟に戻り、教室に入るとロベルタにこっそり手招きされた。
 エルンスト殿下が席に着いてクラスメイトと談笑しているのを確認して、殿下に席を離れることをひとこと断ってロベルタと教室を出る。


「なに?」
 怒っているのだから怒られるのだろうと身構えて声をかけると、ロベルタが長い髪を苛立たしげに掻き上げながら大きなため息をついた。
「ナニ?」
 そのため息にちょっと気を悪くして、今度は半音高く繰り返す。

「お前さ、なんで僕に連絡してこなかったの?」
「え?」
 それはいつの話だ?
 確かにテオフィル卿のところで会ってから連絡をとっていなかったけれど、連絡をしてこなかったのはロベルタだって同じなのではないだろうか。

「ミケルセン侯からいきなり召喚鳥が飛んできた僕の気持ち、想像できる? ミケルセン侯の召喚鳥って綺麗な翡翠色のハリドリなんだな。っていうか、いつの間に魔力登録されてたワケ? 僕、ミケルセン侯の召喚鳥に魔力登録した覚えがないんだけど!」

 学園にいるのにずいぶんと言葉が乱れているのは、よほど衝撃的だったのだろう。
 確かに可愛らしくて美しいハチドリが、親父の虎が低く唸るような声で喋るのは違和感がある。
 翡翠色は母上の瞳の色だから仕方がないとして、もっと違う鳥には出来なかったのだろうか?
 例えばハゲタカとか。

「多分、命名式の時にしたんじゃないか? ウチのマティアスの命名式の時に、ウチの家族と一緒にホーク侯爵も召喚鳥に魔力登録してたから」
「そうなのか……! って、それは良いんだよ!」
 それはいいのか?
 ウチの親父から召喚鳥が飛んできたことに対する文句なのかと思ったんだけど……

「エマ・ピルツァが死んだ、ってミケルセン侯に伝えられた時、お前の魔力がかなり乱れてたって聞いた。ひとりで処理するのが難しいようだったら手を貸してやってくれ、って」
「えっ?」
 それは……ずいぶん過保護なことだ。
「そして、相談してこなかったら、あった時に伝えてほしいって言われたことがある」
 改まった表情で言われて背筋を伸ばす

「『感情を飲み込んでひとりで解決するヤツが偉いんじゃねぇ。荒れてる感情を宥めてくれるヤツを見つけてるヤツの方が偉いんだ。そういうヤツの方が長生きできる』ってさ。

 結局今回はお前が自分で感情を処理できたから、ひとりでどうにかしたのも不正解ってわけじゃないと思うけど、僕と話をして感情を解放した方がより良かったかもしれないだろ?
 こういうのって、多分正解はないから、『貴族なら荒れた感情はひとりで処理できて当然』って思ってる人にとっては、ミケルセン侯の言葉は『ひとりで感情の処理もできないなんて未熟だ』って思うかもしれないけど、ミケルセン侯からしたら『いつまでもひとりでグチグチ悩んでるって友達いないのか?』って感じかもだしね」

 なるほど。
 ロベルタと話をしたいと思いながらも我慢して、自分でどうにか折り合いをつけようとしたことが親父にはお見通しだった、ということか。

「分かった。長生きしたいから話したいことがあったらなんでも相談するようにする」
「ちょっと惜しいかな?」
 宣言したらダメ出しされた。
 正解が分からず首を傾げると、
「『長生きしたいから』じゃなくて『ロベルタの声が聞きたいから』で、『話したいことがあったら』じゃなくて『いつでも』が正解」
 と揶揄うような笑顔で言われた。

「分かった。ロベルタの声が聞きたいからいつでも連絡する。──その代わり、お前も連絡してこいよ?」
 揺れる金色を一房掴んで言い返すと、ロベルタは満足そうに笑って頷いた。



 話も終わったので教室に戻り、エルンスト殿下を中心に話をする。
 ラウンジで結論を出さなかったのは、ここで結論までの経過をクラスメイトに聞かせることで一方的な批判を避ける作戦だ。

「聖女派、っていうのは結局何なの? 聖女様を崇めてる、っていうのは分かるんだけど、何をする派閥なの?」
 アンネマリー嬢の根本的な質問に答えてくれたのは少し離れた場所にいたオディール嬢だ。
「聖女派は何をする、というわけではないんだが、聖女様が素晴らしい方だった、というのを忘れないように広めていこう、という考えの学生の集まりなんだ」
 にこやかに会話に入ってきたオディール嬢にエルンスト殿下もにこやかに返す。

「ああ、オディール嬢、久しぶりだね。演習の時は召喚鳥を飛ばしてくれて助かったよ。おかげで僕の隊は魔物が召喚される前に召喚門を燃やすことができたからね」
「召喚門を燃やしたのかい?」
 驚いた様子のオディール嬢に、エルンスト殿下が悪戯っぽい顔で「僕の隊には高位聖魔法のアズレイム・ピラーを使える学生がいたんだ」と明かした。

「アズレイム・ピラー……すごいな。もしかして聖女様の所縁の方なのかな?」

 それを聞いて、エルンスト殿下と俺とロベルタとリンジー嬢が顔を見合わせる。
「おや、違うのかい? 聖魔法といえば教会関係かと思ったんだが」
「ミケルセンの寄子で教会関係者ではないよ」
 俺はあえてネイトの詳細を伏せておくことにした。


 アンネマリー嬢の問いかけに答えた台詞で予想はついていたけれど、どうやらオディール嬢は聖女派に属しているらしい。

「グラヴェンハルトは地竜が三体も出現した、と言っていたけど大丈夫だったのか?」
 とりあえず、どういう経緯でオディール嬢が聖女派になったのか、過程が知りたかったので演習の話を向けてみた。

「ああ、自分たちの小規模野営地に夜、小型の魔獣が入り込んで食料を食べられてしまったから一緒に行動させて欲しい、と四人の令嬢がやってきてね。お腹を空かせていたようだったし、着の身着のままやってきたから、野営地に入れてテントをひとつ渡してくつろいでもらってたんだ。そしたら、その翌日の早朝、突然魔獣が現れて、その令嬢たちに貸していたテントは既に魔獣に踏み潰されて跡形もなくて……
 野営地の真ん中から次々に魔獣が溢れてきたら、召喚門があるだろうことは予想できたんだが見つけられなかった」

 そう言って無力さを噛み締めるように目を閉じて首を振る仕草に、オディール嬢はアレが生贄召喚だったことに気づいていないのだと理解した。
 騎士団の調査でも魔術師団の調査でも、生贄召喚だったと結論が出ているにも関わらず、グラヴェンハルト辺境伯に伝わっていないのだろうか?
 それともグラヴェンハルト辺境伯がオディール嬢に伝えていないのだろうか。

「地竜は一体を残して野営地から遠ざかっていったので、なんとか足止めすることはできたけど、他にもたくさん魔獣がいて、退却するのも難しいところへカスパル殿下と聖女様が来てくださったのだ」
 そう言うオディール嬢の瞳は、まるで夢見るように潤んでいて、普段の理性的な姿とはかけ離れている。

「なるほど、帰還時の召喚鳥で『不思議なのだが』と言っていたのは、突如現れた召喚門と聖女様のことか」
「ああ、あの時は興奮していたからどんな内容の鳥を飛ばしたかあまり覚えてはいないのだが、どちらも不思議で印象的だったからね。聖女様は怪我をしたウチの騎士たちの治癒までして、また次の魔獣に向かわれていた。
 以前は多少、あまり良くない噂も聞いたが、実物を見れば頭が下がるばかりだ。
 そんな方が、スタンピードに立ち向かわれて戦死されるとは……」

 本来のオディール嬢を詳しく知らないので評価のしようもないけれど、辺境伯の令嬢としてもっと現実的で理性的な人物だと思っていたので正直なところ幻滅してしまっている。
 しかし、聖女派と呼ばれる人たちがみんなこんな調子で聖女を崇めているとなるとかなり面倒くさそうだ。

 案の定、オディール嬢は今日の放課後に教会で行われる告別式に、俺たちもぜひとも出席するようにかなり強く迫ってきた。


「なるほど、オディール様は聖女様が『侯爵家の落ちこぼれの犬』と呼んでいらしたアルバート様に、聖女様の犬として馳せ参じるべきだ、とおっしゃるのね?」
 リンジー嬢の言葉に教室が静まり返った。
「えっ、……そ、そういうつもりは一切ない。それに、そのようなことを聖女様がおっしゃるとは、」
「おっしゃっていらっしゃいましたわ。何度も。気の迷いとおっしゃりたいでしょうけど、気の迷いではないと思いますわ。入学式の早朝、面識もない時から『アルバート様は犬』と言い続けていらっしゃいましたから。そして、一度の謝罪もありませんわ」

 普段、おっとりとしてふわふわした雰囲気のリンジー嬢がオディール嬢を正面から見つめて、オディール嬢の言葉を遮って断言する姿は衝撃的だったのだろう。
 誰もが成り行きを見守っている。

「だね。私も聞いたよ。『アルバートは犬なんだからいうこと聞きなさいよ』だったかな? そんな感じのことを見かけるたびに言ってたね」
「いいえ、アンネマリー。正確には『アルバートは侯爵家の落ちこぼれでいらない子なんだから抗議されるなんておかしい! ソレに婿って何よ! ソコのぶりっ子悪役令嬢が何かしたの?! どうせアンタたちだって脳筋で家族に愛されてないアルバートのこと、ちょっと可愛がって懐かせて犬扱いしてるんでしょ?!』ですわ」

「彼女は入学式の時からずっと、名前を呼ぶ赦しも与えていないのに、エルンスト様、ロベルタ様、と名前を呼び、アルバートのことは「アルバート」と、何度注意しても呼び捨て続けてたからね。エルンスト殿下に注意されてもやめなかった。
 オディール嬢は、ピルツァ男爵令嬢と縁のある僕たちに告別式に出て欲しい、と言うけど、僕らが彼女と関わり合いになりたくない気持ちはわかってもらえないかな?」

 暴言の詳細までは知らなかったのだろう。教室内が非難の声でざわめく。
 それを聞いても「でも、」や「だって、」と言い訳を並べようとするオディール嬢に引導を渡すことにする。

「オディール嬢、あなたにとって聖女様は恩人なのだから、あなたはその恩に報いればいい。
 ただ、ミケルセン家にとってピルツァ男爵令嬢は私を散々愚弄して謝罪もしない相手だ。
 確かに聖女様は善行を行って、亡くなったのだろう。
 しかし、いくら善行を積んだから、もう亡くなったのだからと言われても、謝罪しない相手を許すことは貴族家としてあり得ない。
 私が聖女の告別式に出席するという行為は、ミケルセンはいくら愚弄しても死ねば許される、と他家に判断される行いだ。
 それでも貴女は私に出席を強要するのか?

 そうなれば、──グラヴェンハルトからミケルセンに対する宣戦布告と判断するが?」


 静まり返る教室内で、背中から水を浴びせられたような顔をしたオディール嬢が頭を下げる。
「……申し訳ない。グラヴェンハルトはミケルセンを愚弄するつもりは一切なかった」
 その後に続きそうな言い訳を、グッと飲み込んだオディール嬢は唇を噛み締めたまま自分の席に戻っていった。
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