9 / 16
4-1
しおりを挟む
ヒートの間ずっと、マシレたちに気を遣われて過ごした。
生殖活動以外の何もかもができなくなる時期だ。貪欲に男を欲しがって、しとどに濡れる内側を持て余し、自慰に耽るしかないリュカを、城の者たちは見ない振り、聞かない振りをしてくれた。それに、アルファたるマシレはリュカに指一本ふれなかった。自分の感覚を封じまでして。
ヒートになるとベータの家族にさえ白い目で見られ、初めて出会ったアルファには手籠めにされたのに。それなのに、あのひとは。
(……マシレ様)
発情したオメガをアルファが襲うのは、当然のこととリュカは思っていた。なのに、マシレは自分の身体を不自由にさせてまで、リュカを守ってくれた。
その事実が、肺腑を満たし、切なくさせる。
マシレは、どんなひとよりも優しく、誇り高いのだと思った。そのひとに、たまらなく、ふれてみたい。
彼を思い出すと胸が温まるのに、オメガの本能は彼を裏切った。
あの優しいひとに欲の目で見られ、貫かれたいと思いながら、指を自らに突き入れる。それが、怖いほどに気持ちが好い。
(マシレ、さま)
金髪と緑の目はあの王子を想起させ、怖かったはずなのに、マシレを構成するその要素は、もはやリュカに甘い疼きをもたらすようになった。
「はぁ……っ、あん、マシレ、さま」
日差しに愛された褐色の肌で、いとけない表情をして香りを語る彼を脳裏に浮かべながらする自慰は、今までのどんなものより気持ちよかった。
やっとヒートが終わり、マシレが寝室に帰ってきたとき、その表情には疲労の色が濃かった。書斎には一人掛け用のソファしかないようで、横になれずにそこで無理矢理眠っていたらしい。
それなのに。
「オメガ性は大変なのだな。つくづく理解した」
そう言って、魔法の香水作りへの気持ちを新たにしてくれた。
そんな彼を眩しく、胸の鼓動が狂うような目で見てしまうのは、ヒートのせいではなかったのだ。それに気が付いたリュカは、どうしようもない気分になった。なのに、気持ちは止まらない。
(このひとと番になれたらどんなに良いだろう)
いつものようにスイートマジョラムの魔法の香水を使って眠るマシレの寝顔を見ながら、そんな風に思った。
リュカの身勝手な我が儘だ。
マシレにはこんな浅ましい下心を持って近づいた男なんかより、もっといい相手がいるはずなのに。
だって、リュカの運命の番はあの第一王子だ。マシレには別の運命の番が居て、マシレと出会うのを待っているに違いない。
(でも、でも僕は)
最初にマシレの優しさを見つけた。
運命の番が現れるまででいいから、リュカの番になってほしかった。いつか捨てられてもいい。だから。
そう思いながらも、口に出せずに、マシレの寝顔を見つめるしかなかった。
生殖活動以外の何もかもができなくなる時期だ。貪欲に男を欲しがって、しとどに濡れる内側を持て余し、自慰に耽るしかないリュカを、城の者たちは見ない振り、聞かない振りをしてくれた。それに、アルファたるマシレはリュカに指一本ふれなかった。自分の感覚を封じまでして。
ヒートになるとベータの家族にさえ白い目で見られ、初めて出会ったアルファには手籠めにされたのに。それなのに、あのひとは。
(……マシレ様)
発情したオメガをアルファが襲うのは、当然のこととリュカは思っていた。なのに、マシレは自分の身体を不自由にさせてまで、リュカを守ってくれた。
その事実が、肺腑を満たし、切なくさせる。
マシレは、どんなひとよりも優しく、誇り高いのだと思った。そのひとに、たまらなく、ふれてみたい。
彼を思い出すと胸が温まるのに、オメガの本能は彼を裏切った。
あの優しいひとに欲の目で見られ、貫かれたいと思いながら、指を自らに突き入れる。それが、怖いほどに気持ちが好い。
(マシレ、さま)
金髪と緑の目はあの王子を想起させ、怖かったはずなのに、マシレを構成するその要素は、もはやリュカに甘い疼きをもたらすようになった。
「はぁ……っ、あん、マシレ、さま」
日差しに愛された褐色の肌で、いとけない表情をして香りを語る彼を脳裏に浮かべながらする自慰は、今までのどんなものより気持ちよかった。
やっとヒートが終わり、マシレが寝室に帰ってきたとき、その表情には疲労の色が濃かった。書斎には一人掛け用のソファしかないようで、横になれずにそこで無理矢理眠っていたらしい。
それなのに。
「オメガ性は大変なのだな。つくづく理解した」
そう言って、魔法の香水作りへの気持ちを新たにしてくれた。
そんな彼を眩しく、胸の鼓動が狂うような目で見てしまうのは、ヒートのせいではなかったのだ。それに気が付いたリュカは、どうしようもない気分になった。なのに、気持ちは止まらない。
(このひとと番になれたらどんなに良いだろう)
いつものようにスイートマジョラムの魔法の香水を使って眠るマシレの寝顔を見ながら、そんな風に思った。
リュカの身勝手な我が儘だ。
マシレにはこんな浅ましい下心を持って近づいた男なんかより、もっといい相手がいるはずなのに。
だって、リュカの運命の番はあの第一王子だ。マシレには別の運命の番が居て、マシレと出会うのを待っているに違いない。
(でも、でも僕は)
最初にマシレの優しさを見つけた。
運命の番が現れるまででいいから、リュカの番になってほしかった。いつか捨てられてもいい。だから。
そう思いながらも、口に出せずに、マシレの寝顔を見つめるしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる
雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。
ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。
「フェロモンに振り回されるのは非合理的」
そう思っていたのに――。
新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。
人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。
「先輩って、恋したことないでしょ」
「……必要ないからな」
「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」
余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。
からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。
これは、理屈ではどうにもならない
“ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた
雪兎
BL
あらすじ
全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。
相手は学年でも有名な優等生α。
成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに——
めちゃくちゃ塩対応。
挨拶しても「……ああ」。
話しかけても「別に」。
距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。
(俺、そんなに嫌われてる……?)
同室なのに会話は最低限。
むしろ避けられている気さえある。
けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、
その塩対応αだった。
しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。
「……他のαに近づくな」
「お前は俺の……」
そこで言葉を飲み込む彼。
それ以来、少しずつ態度が変わり始める。
距離は相変わらず近くない。
口数も少ない。
だけど――
他のαが近づくと、さりげなく間に入る。
発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。
そして時々、独占欲を隠しきれない視線。
実は彼はずっと前から知っていた。
俺が、
自分の運命の番かもしれないΩだということを。
だからこそ距離を取っていた。
触れたら、もう止まれなくなるから。
だけど同室生活の中で、
少しずつ、確実に距離は変わっていく。
塩対応の裏に隠されていたのは――
重すぎるほどの独占欲だった。
【完結】偽装結婚の代償〜リュシアン視点〜
伽羅
BL
リュシアンは従姉妹であるヴァネッサにプロポーズをした。
だが、それはお互いに恋愛感情からくるものではなく、利害が一致しただけの関係だった。
リュシアンの真の狙いとは…。
「偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜」のリュシアン視点です。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる