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また来る、との言のとおり、王子はシズを連れて、次の日もやってきた。リュカは泣きたくなった。実験室のマシレの後ろに逃げ込んで、半泣きで言う。
「王子殿下、もう来ないでください。婚約はお断りしたはずです」
姿を見ると惑ってしまう。彼を悲しい目に遭わせるのは、番として正しくないと、身体が叫ぶのだ。彼に服従し、そうして運命のオメガとしての役割を果たしたい。彼の子を成して、その精で絶頂したいと。肉体も、心も全て捧げよとオメガの本能は言う。だが理性はこの王子を嫌悪していた。矛盾がリュカの精神をずたずたにする。
「聞かんぞ! お前を連れ帰るのが俺の第一王子としての使命だ。運命の番たるお前となら、子を成し、共に育てていけると俺は確信している」
「思い込み激しい奴って嫌ですね。リュカ殿、さっさとこいつ、ひっぱたいてやってください。目が覚めるかも」
「シズ!」
王子の強い言葉に翻弄される。冷静なシズの言葉こそが、リュカの本当に実行してやりたいことだと理性は言うのに、本能がそれを屈服しにかかっている。
だが、ふと、優しい温度がリュカの震える手を掴んだ。見上げると、マシレが真摯な目でこちらを射貫いた。
「リュカ。そなたの気持ちを正直に言ってやれ。大丈夫だ、そなたは私が守る」
「マシレ様……」
オメガの衝動に支配されていた心が、別の感情に覆い被される。マシレへの信頼、マシレへの恋心に。それは、混迷の底に居たリュカに、光を差した。このひとが側に居てくれるならば、迷わずにいられる。
マシレの手をぎゅっと握ってからゆっくり放し、王子の前に進み出た。
怖くない。マシレが居るから。
「……王子殿下。僕にはもう、番になりたいひとがいます」
そう告げてしまうと、存外に身体は平静だった。あれだけリュカの心を二つに裂いていた本能を、制御できている。
「ですって。帰りますよ馬鹿王子」
「……どうしてそのような悲しいことを言う。お前の身体に刻んでやったろう、至上の快楽を。運命の番の交わりの好さを」
「王子殿下、僕が求めるのは快楽でも、番としての衝動でもありません。僕がそのひとを好きになれるかです」
「リュカ……」
王子の見開かれた眼窩の淵から、ぽろぽろとしずくが落ちる。それが可哀想だと思う。だがそれだけだ。
「僕は、運命なんていりません。好きなひとと結ばれたいんです」
真実からの言葉を吐いて、ふっと笑うと、王子は膝から崩れ落ちた。呆けた表情でリュカを見つめ、くしゃっと顔を歪める。
「貴様、そのように笑うのだな。俺のためには一度も笑わなかったくせに」
「すいません。心は偽れませんので」
打ちひしがれた王子に背を向ける。
「お帰りください、王子殿下」
「強姦王子に良い顔してやる暇はないですって。帰りますよ、王子。帰ったら城下でやけ食いしましょ」
ずっと飄々としていたシズの、口の端に笑みが浮かんでいる。何となく、ぴんときた。
そのざっくばらんな言動は本音を隠すためなのかもしれない、と。
(シズ殿なりに、王子殿下のこと心配してたのかな)
ああいうひとが側に居てくれたら、王子の傷も早く癒えるかもしれない。
晴れ晴れとした気持ちで、ずっと一緒に居てくれたマシレを見上げると、困った顔をしていた。
「マシレ様、どうなされたんですか」
「リュカ、そなた、好きな男が」
「いますよ。好きなひとは気付いてくれないし、相手にもしてくれないけど」
あなたのことです、とは言えない。昨日の告白は、そうと捉えられすらしなかったらしい。鈍感すぎる男に苦笑したくなる。
「……そうなのか。罪深いな、その男は」
「ええ、本当に。まったく、どうしてくれましょう」
「王子殿下、もう来ないでください。婚約はお断りしたはずです」
姿を見ると惑ってしまう。彼を悲しい目に遭わせるのは、番として正しくないと、身体が叫ぶのだ。彼に服従し、そうして運命のオメガとしての役割を果たしたい。彼の子を成して、その精で絶頂したいと。肉体も、心も全て捧げよとオメガの本能は言う。だが理性はこの王子を嫌悪していた。矛盾がリュカの精神をずたずたにする。
「聞かんぞ! お前を連れ帰るのが俺の第一王子としての使命だ。運命の番たるお前となら、子を成し、共に育てていけると俺は確信している」
「思い込み激しい奴って嫌ですね。リュカ殿、さっさとこいつ、ひっぱたいてやってください。目が覚めるかも」
「シズ!」
王子の強い言葉に翻弄される。冷静なシズの言葉こそが、リュカの本当に実行してやりたいことだと理性は言うのに、本能がそれを屈服しにかかっている。
だが、ふと、優しい温度がリュカの震える手を掴んだ。見上げると、マシレが真摯な目でこちらを射貫いた。
「リュカ。そなたの気持ちを正直に言ってやれ。大丈夫だ、そなたは私が守る」
「マシレ様……」
オメガの衝動に支配されていた心が、別の感情に覆い被される。マシレへの信頼、マシレへの恋心に。それは、混迷の底に居たリュカに、光を差した。このひとが側に居てくれるならば、迷わずにいられる。
マシレの手をぎゅっと握ってからゆっくり放し、王子の前に進み出た。
怖くない。マシレが居るから。
「……王子殿下。僕にはもう、番になりたいひとがいます」
そう告げてしまうと、存外に身体は平静だった。あれだけリュカの心を二つに裂いていた本能を、制御できている。
「ですって。帰りますよ馬鹿王子」
「……どうしてそのような悲しいことを言う。お前の身体に刻んでやったろう、至上の快楽を。運命の番の交わりの好さを」
「王子殿下、僕が求めるのは快楽でも、番としての衝動でもありません。僕がそのひとを好きになれるかです」
「リュカ……」
王子の見開かれた眼窩の淵から、ぽろぽろとしずくが落ちる。それが可哀想だと思う。だがそれだけだ。
「僕は、運命なんていりません。好きなひとと結ばれたいんです」
真実からの言葉を吐いて、ふっと笑うと、王子は膝から崩れ落ちた。呆けた表情でリュカを見つめ、くしゃっと顔を歪める。
「貴様、そのように笑うのだな。俺のためには一度も笑わなかったくせに」
「すいません。心は偽れませんので」
打ちひしがれた王子に背を向ける。
「お帰りください、王子殿下」
「強姦王子に良い顔してやる暇はないですって。帰りますよ、王子。帰ったら城下でやけ食いしましょ」
ずっと飄々としていたシズの、口の端に笑みが浮かんでいる。何となく、ぴんときた。
そのざっくばらんな言動は本音を隠すためなのかもしれない、と。
(シズ殿なりに、王子殿下のこと心配してたのかな)
ああいうひとが側に居てくれたら、王子の傷も早く癒えるかもしれない。
晴れ晴れとした気持ちで、ずっと一緒に居てくれたマシレを見上げると、困った顔をしていた。
「マシレ様、どうなされたんですか」
「リュカ、そなた、好きな男が」
「いますよ。好きなひとは気付いてくれないし、相手にもしてくれないけど」
あなたのことです、とは言えない。昨日の告白は、そうと捉えられすらしなかったらしい。鈍感すぎる男に苦笑したくなる。
「……そうなのか。罪深いな、その男は」
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