深い森の彼方に

とも茶

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第八章 消えていく人たち

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呆然として建物を出た。しかし、街の様子は変化はなかった。女性たちが行きかうショップもオフィスもカフェも今朝と変わりがなかった。私がしつこく質問攻めにすると、ひょっとしてこの人たちも消えてしまうのだろうか。でも、忙しそうに行き過ぎるOL風の女性たちには声をかけることはできなかった。
ふと振り返ると、コンビニの前に、授業をサボったのか不良になりかけの制服姿の女子高校が所在なげにしゃがみこんでいた。
「あの、ちょっと尋ねたいことがあるんだけど。聞いていい?」
女子高生は不審げな目付きで私を見上げた。
「何よ、いったい。あたしに何のよう?」
「ここの住所教えてくれない?」
「何であたしにそんなこと聞くのさ。」
「ごめんなさいね、初めて会ったのに、いきなりこんなこと聞いて。なんか私、道に迷っちゃったみたいで、それで聞いたの。丁目や番地はいいから、町の名前だけでいいから教えてくれる?」
「知らねえよ。」
「じゃあ、あなたの通ってる学校は何ていうの?学校は近所よね。学校名がわかればここがどのあたりか分かるかもしれないから。」
「なんでそんなこと、あんたに答えなきゃならないのよ。」
ふてくされた回答だけど、OLたちの言い方とは違ったのでなんとなく期待がもてた。
「あなたの家はどこなの?  学校のそば? せめて町の名前だけでもいいから教えてくれる?」
「なんでそんなこと、あんたに答えなきゃならないのよ。」
「ここでも学校でもあなたの家でも、なんでもいいから教えてくれる?」
「なんでそんなこと、あんたに答えなきゃならないのよ。」
「町の名前じゃなくても、ここは何区なの?  それとも市? 都道府県は? 私わからなくなっちゃったの。私を助けると思って何でもいいから何か答えて、お願い。」
「なんでそんなこと、あんたに答えなきゃならないのよ。」
ふてくされた態度をとっていた彼女は、次第に表情を失くしていった。
「ここはどこなの?  あなたはこの国の人なの?  ここで生活してるんでしょ?ねえ教えて。」
「なんでそんなこと、あんたに答えなきゃならないのよ。」
次第に声も小さくなっていった。やっぱり私のいたあのオフィスの女性と同じだった。OLと女子高生ということで答えの言い回しがちょっと違っているだけだった。すっかり表情を無くした彼女の顔の前に身を乗り出して叫んだ。
「ねえ、どうしたの? きちんと答えて。」
「なんでそんなこと、あんたに・・・」
彼女の姿と言葉は静かにフェイドアウトしていった。

ベンチに座っていたOL風の女性にも声を掛けてみた。ドラッグストアのビラ配りの女性にも、信号待ちの年配の女性にも。私がしつこく相手の個人情報を聞きだそうとすると、表情から生気が消え声が小さくなりそして最後には消滅していった。
リヤカー風の移動式屋台でクレープを売っていた女性の場合は、屋台ごと消滅してしまった。一人で店番をしていた小さなアクセサリーショップの女性店員もショップごと消滅した。ビルの一室だったので建物は消滅せず、私が空店舗の中に一人取り残された状態だった。どんなしつこい質問でも相手の女性は怒ることなく消滅していくだけだった。
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