深い森の彼方に

とも茶

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第八章 消えていく人たち

8-5

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長身の娘と約束のコーヒーショップに入ったが、少し早かったのでたまたま隣りにいた私と同年代の女性に声をかけた。
「すみません、ちょっとお聞きしてよろしいですか?」
「え、はあ。」
「ブラジャーのサイズ教えてくれませんか?」
「アンダー70のBカップですけど。」
「服は何号なんですか?」
「9号です。でもちょっときついのもあって。」
「靴のサイズは?」
「23.5cmですけど。何でそんなこと聞くんですか。」
「すみません、理想的な体形でうらやましいなって思ったものですから。背もかなりあるんでしょ?」
「ええ、170cm近くあるんです。」
「小さい頃から背が高いほうだったんですか?」
「ええ、小学校のころからずっと。」
「そうなんですか。どちらの小学校だったんですか? 」
「え・・・」
「市内のご出身? それとも県外? どちらなのかしら。」
「何で私に、そんなこと聞くんですか?」
「ごめんなさい、昔のこと持ち出しちゃって。今、どちらにお住まいなんですか?」
「何で私に、そんなこと聞くんですか?」
「すみません。私、最近この街に越してきたものですから。この街のことやお住まいの人たちのことつき聞きたくなって。この近くにお勤め?  差支えなければ何ていう会社か・・・」
「何で私に、そんなこと聞くんですか?」
声が小さくなってきた。それに表情も。でも、体形とか服のサイズなんていうプライバシーそのものの質問のときは何ともなかったのに、何で急に。
「この方、お知り合い?」
長身の娘が私の前の席に座っていたのに気がつかなかった。
「いえ、ちょっと早く着いちゃったんでお話ししてたの。」
隣りの女性は会話が途切れたことで徐々に生気を取り戻してきた。すっと立ち上がりレジに向かった。
私はあわてて彼女に声をかけた。
「ごめんなさいね。変なことばっかり聞いて。」

「会話をしてたって雰囲気じゃないわね。あなたが一方的に彼女に色んなこと聞いてたんじゃない?」
「ええ、実は・・・」
私は彼女にオフィスでの出来事を打ち明けた。そして、街に出てきて色んな人に聞きまくってきたことも話した。
「それで、たまたま隣りに座っていたあの女性に話しかけたっていうわけね。」
「でも、ブラジャーのサイズなんてプライバシーそのものなのに、全然消滅していくような気配はなかったの。ひょっとしたら、この人私たちと同じなのかと思ったんだけど。でも出身とか住んでるところとか聞き始めたとたんにやっぱり変ってきちゃって。」
「ああいう風に能面のように表情がなくなってきて、それから存在が希薄になって、そして消えてしまうのね。」
「そう。でもあの人は話を途中でやめたので消えなかった。」
「消えてしまった人たちにはどんなことを聞いたの?」
「仕事は何してるのかとか、どこに住んでるのかとか、ここはどこなのかとかそんなこと。」
「服のサイズなんてきいたことあるの?」
「彼女が初めて。」
「そう・・・」
沈黙が続いた。彼女は必死にどんな現象が起こったのか考えているようだった。
「わかったわ。やっぱり周りの女性たち、といっても女性しかいないけど、全員背景なのね。」

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