深い森の彼方に

とも茶

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第九章 深まる疑問

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「おい、何をしているんだ。」
いきなり背後から声が聞こえた。振り向くとリーダーだった。
「仕事はどうしたんだ。今日は平日だぞ。」
「仕事といっても、あのオフィスにはもう誰も・・・」
「お前のせいだ。生活費はどうするんだ。」
「まだ少しは・・・」
「もう金の底はつくぞ。働け。」
「はい。」
「ここから、お前の家のほうにむかって2区画先、左側の8階建てのガラス張りのビルの2階、203号室へ行け。中に初老のショートカットの女がいる。その女の指示を仰げ。」
「何というオフィスですか。」
「いちいち聞くな。さっさと行け。」
これだけいうと、リーダーは私の家とは反対方向に足早に去っていった。
どう考えてもリーダーには私の行動が読めているようだった。生活費のことも気にかかり、ひとまずリーダーの指示にしたがい、そのビルに行くこととした。
203号室の扉を開けると、何の変哲もない事務室だった。パーテーションの奥には事務机がたくさん並んでいたが誰もいない。入口そばに向い合せに置かれた席の片方にリーダーの言っていたような初老の女が机に向かってうずくまり、何やら机の上に積み上げられた書類を一枚づつ一心不乱にチェックしていた。
「こんにちは。」
声をかけても返事がない。
「すみません。」
声を張り上げ3回目くらいでようやく顔をあげた。
「何の用だい、お嬢さん。」
「ここに来て、指示に従えと言われて・・・」
「ああ、あの短気なリーダーだね。さっき連絡があったよ。仕事を与えてくれってね。」
「よろしくお願いします。」
「事務所に座らせておいてはだめだ、あとはまかせたで、それっきりさ。いつもながら強引な姉さんだね。」
「それじゃ、何をやれば・・・」
「あわてるんじゃないよ。昨日の今日で何にも準備なんかしてないからね。とりあえず外回り、まあ世間じゃルート営業といっているやつをやってもらおうじゃないか。お客さんに見積書や企画書を持っていくこと。明日から頼むよ。」
「それでは、明日の朝来ます。でも、履歴書とか採用していただくのに書類が必要なんでは。」
「そんなもの必要ないさ、じゃあ、また明日。」
「よろしくお願いします。」
「ああ、そうそう。そんなチャラチャラした服じゃだめだ、ちゃんとスーツを着てこい。わかったな。」
思わす自分の身なりを見た。ベージュのカットソーに濃い茶色のフレアスカート、世間では十分地味な服装だったつもりだった。
「スーツなんて・・・」
「なけりゃ買え、そのくらい頭を働かせろ。」
「はい、わかりました。」
短気なリーダーと言っていたが、同じくらい十分短気な女だった。
なけなしの金をはたいて、リーダーが着ていたものと同じようなダークグレーのスーツを買いいつものコーヒーショップに行った。長身の彼女に、今日のことを話したかったからだ。30分ほど店にいたが現れなかった。店を出て30分くらい周辺を歩きまわっていたが、出会うことはなかった。

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