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第十三章 もう一人の指導者
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「あのノッポの娘と話し合ってずいぶんこの世界のことがわかってきたようだったが、その後はどうだ。」
「この世界が、私の妄想の世界だろうということは想像がついています。でもあの娘は私の妄想の中なのか・・・」
「そのとおりだ。ここはお前の妄想の世界だ。そしてお前だけの世界であって、あのノッポの娘の世界ではない。あの娘はあの娘として自分で妄想を抱え妄想の世界を持っている。」
「でも一緒に色々話し合いもできました。具体的なこともです。お互いに体に触れることもできました。」
「あの娘も実在の人間だからだ。実在の人間どうしは何でもできる。」
「私の妄想の世界なのにできるのですか。」
「あの娘もお前と同じ妄想を抱いていたのだろう。同じような妄想の世界が、時折共鳴しあっているのではないか。」
「同じ妄想をしている者どうしが、妄想の世界で遭遇するというのですか。」
「たぶんそうだ。でも私はこの世界を研究し分析しているわけではないので、くわしくはわからない。」、
「あの娘も、同じような人が二人いたと言ってました。私も最近ピンクハウスの服を着た人にも会いました。その人たちもそうなんでしょうか。でも私はどこにもここに似た別の世界に行ったことはないし・・・」
「ノッポの娘がこの世界に迷い込んだという証拠はない。お前が向こうに迷いこんでいたのかもしれないがその証拠もない。そもそも、ノッポの娘とお前が一緒にいて一緒に見ているつもりの光景も、本当に同じものなのかどうかもわからない。「あなたが今見ているあの店員はどういう人?」とその都度相手に聞いてそれを自分の見ているものと比較して初めて同じものかどうかわかる。それは、この世界でもお前がいた元の世界でも同じだ。」
「同じ絵を見て、美しいと思う人もいれば、不気味と思う人もいる、ということですか。」
「まあ、だいたい似たようなことだ。そもそもこの世界はお前の想念だ。お前が思っていることが「事実」として具象化している。だから、同じ物を見てもその人が感じた「想い」が異なれば実質的に違うモノとなってしまう。自分が見ている光景を、目の前にいる人も同じものを見ているに違いないと誤解しているだけなのかもしれない。」
「私が見ているこの世界は、私が思っていることがそのまま具象化したもので、他の人はどう見えているかわからないということですか。」
「だいたいそのようなものだと思う。しかし、単に「思っていること」というわけではない。こうでありたいと「思っていること」だ。」
「でも、あの嫌なOLの上司は何なのですか。私はああいう人と仕事をしたいとは何一つ思っていません。」
「だから、背景だ。我々が「こうありたいと思っていること」はわずかなことしかない。だから、思っていることだけでは世界は構築できない。絵を画くにもカンバスがいる、画きあがっても額がいる、ただ絵を画いた紙しかなかったとしてもその絵を置く場所がいる。思っていることをより具体化させるための道具だ。」
「司令官もですか。彼女も背景なんですか。」
「額縁と壁のちがいだ。思っていることを具体化させるため、その背景自体の来歴や位置付けを明確にしてあたかも実在にように存在しているものと、単なる壁紙との違いだ。それでも壁紙は自分の意図が入るが、コンクリート壁には意図は入れられない、それでもコンクリート壁は選べるが外に放置しただけでは選ぶことすら必要がない。背景にも濃淡があるということだ。」
「セーラー服の人と・・・」
「お前の妄想だ。自分の好みが形に現れたに過ぎない。」
「あの、本部の美少女も・・・」
「お前がこの妄想の世界をうまく立ち回るために、自ら構築した自立した共演者だ。背景が奥行のない大道具のようなものとすれば、あの二人は助演女優だ。あの二人をうまく使っていくことが大事だ。」
「わかりました。でももうひとつどうしてもわからないことがあります。」
「なんだ。」
「リーダー、リーダーは・・・」
「知らなくてもいい。」
「でも、そんなに変わってしまって、あんなに若くて美しくて、どんなに殴られてもリーダーに憧れて、理想の女性で・・・」
「変わったのはお前だ。お前はすっかり女になった。あのフリヒラ女を見ろ。お前がこの世界に来たばかりのころは、あんな状態だった。女の服をきた醜い男だ。しかし、お前は今、誰からも、どんなところでも、どんな状況でも、美しい女、そのものだ。私は単に歳をとっただけだ。」
「・・・」
「もう、私にはお前に話してやることはひとつもない。もう行け、あのセーラー服の二人とうまくやっていけ。」
リーダーは口を閉ざした。いくら私が話しかけても返事をしてくれなかった。目を閉じ、塑像のように微動だにしなかった。私はやむなくベンチから立ち上がった。
「わかりました。お世話になりました。」
リーダーに向かって深々と頭を下げた。何でだかわからないが涙が溢れ止めどなく流れ出してきた。そして、やはり何でだかわからないが足は自然と「本部」のほうへ向いた。何度振り返っても、リーダーは向こうを向いたままベンチに腰かけ、その姿勢は全く変わらなかった。
「この世界が、私の妄想の世界だろうということは想像がついています。でもあの娘は私の妄想の中なのか・・・」
「そのとおりだ。ここはお前の妄想の世界だ。そしてお前だけの世界であって、あのノッポの娘の世界ではない。あの娘はあの娘として自分で妄想を抱え妄想の世界を持っている。」
「でも一緒に色々話し合いもできました。具体的なこともです。お互いに体に触れることもできました。」
「あの娘も実在の人間だからだ。実在の人間どうしは何でもできる。」
「私の妄想の世界なのにできるのですか。」
「あの娘もお前と同じ妄想を抱いていたのだろう。同じような妄想の世界が、時折共鳴しあっているのではないか。」
「同じ妄想をしている者どうしが、妄想の世界で遭遇するというのですか。」
「たぶんそうだ。でも私はこの世界を研究し分析しているわけではないので、くわしくはわからない。」、
「あの娘も、同じような人が二人いたと言ってました。私も最近ピンクハウスの服を着た人にも会いました。その人たちもそうなんでしょうか。でも私はどこにもここに似た別の世界に行ったことはないし・・・」
「ノッポの娘がこの世界に迷い込んだという証拠はない。お前が向こうに迷いこんでいたのかもしれないがその証拠もない。そもそも、ノッポの娘とお前が一緒にいて一緒に見ているつもりの光景も、本当に同じものなのかどうかもわからない。「あなたが今見ているあの店員はどういう人?」とその都度相手に聞いてそれを自分の見ているものと比較して初めて同じものかどうかわかる。それは、この世界でもお前がいた元の世界でも同じだ。」
「同じ絵を見て、美しいと思う人もいれば、不気味と思う人もいる、ということですか。」
「まあ、だいたい似たようなことだ。そもそもこの世界はお前の想念だ。お前が思っていることが「事実」として具象化している。だから、同じ物を見てもその人が感じた「想い」が異なれば実質的に違うモノとなってしまう。自分が見ている光景を、目の前にいる人も同じものを見ているに違いないと誤解しているだけなのかもしれない。」
「私が見ているこの世界は、私が思っていることがそのまま具象化したもので、他の人はどう見えているかわからないということですか。」
「だいたいそのようなものだと思う。しかし、単に「思っていること」というわけではない。こうでありたいと「思っていること」だ。」
「でも、あの嫌なOLの上司は何なのですか。私はああいう人と仕事をしたいとは何一つ思っていません。」
「だから、背景だ。我々が「こうありたいと思っていること」はわずかなことしかない。だから、思っていることだけでは世界は構築できない。絵を画くにもカンバスがいる、画きあがっても額がいる、ただ絵を画いた紙しかなかったとしてもその絵を置く場所がいる。思っていることをより具体化させるための道具だ。」
「司令官もですか。彼女も背景なんですか。」
「額縁と壁のちがいだ。思っていることを具体化させるため、その背景自体の来歴や位置付けを明確にしてあたかも実在にように存在しているものと、単なる壁紙との違いだ。それでも壁紙は自分の意図が入るが、コンクリート壁には意図は入れられない、それでもコンクリート壁は選べるが外に放置しただけでは選ぶことすら必要がない。背景にも濃淡があるということだ。」
「セーラー服の人と・・・」
「お前の妄想だ。自分の好みが形に現れたに過ぎない。」
「あの、本部の美少女も・・・」
「お前がこの妄想の世界をうまく立ち回るために、自ら構築した自立した共演者だ。背景が奥行のない大道具のようなものとすれば、あの二人は助演女優だ。あの二人をうまく使っていくことが大事だ。」
「わかりました。でももうひとつどうしてもわからないことがあります。」
「なんだ。」
「リーダー、リーダーは・・・」
「知らなくてもいい。」
「でも、そんなに変わってしまって、あんなに若くて美しくて、どんなに殴られてもリーダーに憧れて、理想の女性で・・・」
「変わったのはお前だ。お前はすっかり女になった。あのフリヒラ女を見ろ。お前がこの世界に来たばかりのころは、あんな状態だった。女の服をきた醜い男だ。しかし、お前は今、誰からも、どんなところでも、どんな状況でも、美しい女、そのものだ。私は単に歳をとっただけだ。」
「・・・」
「もう、私にはお前に話してやることはひとつもない。もう行け、あのセーラー服の二人とうまくやっていけ。」
リーダーは口を閉ざした。いくら私が話しかけても返事をしてくれなかった。目を閉じ、塑像のように微動だにしなかった。私はやむなくベンチから立ち上がった。
「わかりました。お世話になりました。」
リーダーに向かって深々と頭を下げた。何でだかわからないが涙が溢れ止めどなく流れ出してきた。そして、やはり何でだかわからないが足は自然と「本部」のほうへ向いた。何度振り返っても、リーダーは向こうを向いたままベンチに腰かけ、その姿勢は全く変わらなかった。
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