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第2章:現状を把握デス

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 ゼウスが我輩の目の前に、雷霆ケラウノスを携えて現れる。

 我輩は為す術もなく跪き、ただただその光景を見ることしかできない。

___我が弟よ。オリュンポスの永久なる栄華のために散れ。___

 そして、雷霆は我輩の魂を貫き、我輩は…

 「ホギャア!!!」

 夢か…!!

 我輩は眠っていたのか…まだ頭がまどろみ、意識がはっきりしない。

 視界もぼやけている…

 我輩は目を擦り、手を目から離し、愕然とする。

 「ギャッ……!?」

 肌の色は間違いなく我輩の色…光って見える程白い肌…しかし、その指はぷっくりとした肉で覆われている。

 いや、それ以前に、我輩の手も腕も縮んでしまっているでは無いか…

 これは一体どうしたことだ…?!

 「フギャア…」

 「おお、エウレス。起きたのか。
 マリアンの乳を飲んで、腹一杯になって眠くなったようだな。
 マリアンは今湯浴みに行ってるぞ。
 どれ…」

 我輩の傍に寝ていたタイタンの男が、我輩を両脇から掴み高く掲げた。

 何を無礼な…!!

 「ほうら!高い高い!!
 はっはははは!!!」

 「フギャフギャ…!」

 止めろ!止めろと言っている…!!

 魂を引き剥がすぞ!!

 「ホギャア…!」

 我輩は男タイタンの腕に掌を当てると、思い切りひっぱった。

 しかし、魂を剥がすどころか、傷の1つもつけられない。

 「はっははは!
 痛いじゃないかエウレス!めっ!
 はっははははは!!」

 まさか…死の支配者たる力を、失ってしまったと言うのか!?

 なんと言う…

 「ホァ…」

 「んん?どうした!?エウレス!
 大丈夫か!!?嘘だぞ!!?
 俺は全然痛く無かったぞ!!
 ほーら、高い高い!」

 「フギャア!」

 ああ…なんと言うことか…

 死の神と恐れられ、冥府の王として君臨していた我輩が、まさかタイタン族の無名の男にいいようにされる程に堕落するとは…

 やはり、死の支配者たる我輩ですら、ゼウスは殺し切ったということか。

 あの忌々しい兄に、勝つことはできないのか…

 「あなた。上がりましたわ。
 あらまぁ。エウレスちゃん。
 パパに遊んでもらっていたの?
 良かったわねぇ。」

 何ぃ…?

 「それが、マリアン。
 エウレスがなんだか元気が無いんだ。
 やはり病み上がりだからだろうか?」

 パパ…父親か…?

 「きっと疲れたのよ。
 今まで寝てたし、久しぶりのご飯を食べて、安心して気が抜けたのよ。
 ね?エウレスちゃん。」

 「ダゥ…」

 我輩の父は巨神王クロノスだ…母は女神・レアだぞ…

 無名タイタンなどが両親では、断じて無いっ…!!!

 「さぁ。もう寝ましょう。
 あなた、エウレス。
 今日は私も疲れたわ…」

 「そうだな…おやすみ。マリアン。」

 「おやすみ。ジョー。」

 再び2人のタイタンは、我輩の上で口付けをする。

 しかし、最早我輩には、そんなことはどうでも良かった。

 何が起きている…?!

 我輩はどうなった??!

 兄・ゼウスに殺された後、我輩に何があったというのだ…!?

 その夜、我輩は眠ることなど、出来る筈が無かった。

 夜が明けるまで、自分の身に起きていることについて、考えふけっていたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ホギャア~~~~!!!」

 「あらあらまぁまぁ!!朝かしら?!
 よく寝たわ!!
 おはよう!エウレスちゃん!」

 朝。

 我輩は放っておくといつまでも寝ていそうなタイタン…いや、女を、偉大なる叫び声で起こした。

 なにせコイツに抱えられなければ、今の我輩は歩くことも、立つことすら出来ないのだ。

 我輩は夜通し考えた結果、自分が何らかの因果によりこの人間の夫婦の子として生まれてしまったということを、仮ではあるが受け入れることにした。

 でなければ何も変わらないという答えに至ったからだ。

 赤子である内はしっかりとこの人間どもに育ててやらせるが、ある程度自由が手に入れば、こんな身体はすぐに捨て去り、神としての魂を取り戻してくれる。

 とりあえずは腹が減った。

 乳をよこせ。

 「オギャア!オギャア!
 オギャア!!」

 「あらあらまぁ。お腹が空いたのね。
 はい。どうぞ。ゆっくり飲むのよ。」

 我輩は女の乳房を鷲掴み、昨日と同じように乳首に貪りつき、乳を飲み始めた。

 この乳だけは、感嘆に値する。

 我輩が今まで味わった事のないものだ。

 「あらあらあら。うふふ。
 こんなにしっかり飲んでくれるなんて…昨日より大分元気みたいね。」

 「ふぐ…ふぐ…ふぐ…」

 「…ん…くあああっ…はあ…
 おはよう…マリアン…エウレス…」

 「あらあらまぁまぁ。
 ホラ、エウレスちゃん。
 お寝坊なパパのお目覚めよ。」

 「ふふ…美味そうに飲んでるな。
 エウレス。ママの乳は美味いだろ?」

 「ふぐ…ふぐ…」

 なんだその物欲しそうな目は。

 これは我輩のものだ。
 貴様にはやらぬ。

 我輩はもう片方の乳房を左手で掴むと、そちらも口に頬張った。

 「おいおい…凄いなエウレス…
 こんなに元気になるとは…」

 「ええ。本当に。
 まさか自分の子供が黒斑病にかかるとは思ってなかったけれど…
 不治の病が治るなんて本当に奇跡だわ…
 ありがとうね、エウレス。
 私達のところに、戻って来てくれて…」

 女が我輩を乳房から離し、顔の目の前に持ち上げると額に唇を当てる。

 止めろ!我輩は腹が減って仕方がないんだ!!

 「ホギャア!ホギャア!!」

 「あらまぁ、うふふ…
 そんなに美味しいの?嬉しいわ。
 はい。どうぞ。」

 「はっははは!この調子なら、教会に連れて行っても大丈夫そうだな!」

 「ええ。そうね。あなた。」

 教会…教会だと!?

 ちょうどいい!好都合だ!

 教会とは、いわば天上への入り口、オリュンポスへの門。

 そこからオリュンポスへ入り込み、我輩の力を、ひいてはゼウスの命を奪ってくれよう!!

 フハハハハハ!!!

 我輩は男と女の会話を聞きつつ、両乳房から乳を吸い、英気を養うのだった。

 
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