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記録十七:裏町鍛冶屋〜冒険者ギルドにて
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キノクニの殺気がアモンを襲います。アモンはただでさえ曲がった腰を更に曲げ、作業台に手をつき耐えています。
「がっ…がはっ……待てっ…待たんかっ……」
「…」
「キノクニ!キノクニ!!止めえや!!カナンちゃん倒れとる!」
グリモアに諭され、やっとキノクニは殺気を消しました。
カナンはぐったりとしています。
キノクニはカナンを抱えると背中に手を当て…
「ふん!」
「かふっ!」
軽く掌底を打ちました。
カナンは息を吹き返し、目を覚まします。
何が起きたか分からない様子です。
「お…おじちゃんありがとう…なんかちょっと寝てた…」
「…すまんな。」
「えー?何が?」
「…カナン…上でジュースでも飲んで来い。俺は恩人と話がある。」
「…うん!わかった!やー!」
カナンは元気に上へと登っていきました。
アモンは椅子に腰かけ、一息つきます。
「はぁ……こりゃドワーフより厄介な奴に目をつけられたか…?」
「爺ちゃん!コイツに顔無しは禁句やねん!それは…コイツの存在に関わることやし…それに、顔無しで散々酷い目におうてるしな…」
「そうか……久々に腰に来た……あっ…つつつっ…ああ。はー…」
「…『聞こえるか。魔鍛治師。』
「はっ?!急に恐ろしい男の声がっ…」
「お前…音魔法を爺ちゃんの頭ん中に届けたんか…器用やな…」
「簡単な魔力操作ができれば造作も無い。『剣と鎖を返せ。魔鍛治師。別のツテを探す。』
「ああ?!なんでだよ!!」
『貴様とて顔無しの武器など扱いたく無かろう。寄越せ。』
「関係無えよ!!」
『何…?』
「こちとらそんな生半可な覚悟で魔鍛治師名乗っちゃいねえよ!!それに武器にはなんの罪も無えしな!!がっがっがっがっ!…顔のことはすまねぇ。踏み入り過ぎた。興味本位だ。」
『これを見てもか。』
キノクニは編笠とフードを取り、顔の無い顔をアモンに見せます。
「おっ…こりゃ……生で見るとすげぇな…がっがっがっ!!中々男前だ!!俺には負けるがな!」
『…そうか。』
キノクニはフードと編笠をかぶり直しました。
『何故顔が無いと分かった。』
「ああ?!明らかに鼻が低い!布を巻いていてもな!それと目が無えのが丸わかりだ!やはり凹凸がないからな!」
『貴様ならどうにかできるか?』
「ほぉ?…てこたぁ、おれに武器も預けとくってことか?」
『質問に答えろ。』
「…まぁ、可能だ。しかし、素材がいくつか足らねえ。おめぇ、竜の鱗は持って無えか?!」
「無い。」
「そうか…あと1枚、竜の鱗がありゃすぐにでも良いもんができるが…」
『では取ってくる。その間に武器を整えておけ。』
「あっ!おい!良いのか…」
『貴様の覚悟とやら、見せてもらおう。魔鍛治師アモンよ。』
キノクニは、目の無い目でアモンを見つめます。
「……がっがっがっ!とんでもねぇ主人だな!グリモア!おめぇ、役不足じゃ無えかよ?」
「うっさいわ!これから釣り合う予定じゃ!ほっとけ!」
「武器が無いとキツかろう!持ってけ!」
アモンが黒い鎚を投げ渡して来ます。
真っ黒で、装飾も真っ黒です。
「…本よ。」
「ほいほい!」
__________________
名前:逢魔の戦鎚
分類:呪物 Lv.8
数値:攻 580
:魔 100
特性:低確率守備貫通。
:呪い「鈍足」
説明
とある悪魔が用いたとされる戦鎚。あ
らゆる魔物や生物の生き血を吸い、ど
す黒く変色している。もちろん怨念も
相応に纏っており、使用者の体に纏わ
りつき、足の動きを鈍らせる。
__________________
「ふむ。役には立ちそうだ。」
「がっがっがっ!おめぇの武器に負けず劣らずの逸品だぜ!貸してやるよ!持ってきな!」
キノクニは背中のホルダーを調整し、戦鎚をかけました。
「おめぇならその呪いも物ともしねえだろ!!むしろ力になりそうだなあ!がっがっがっ!」
「やかましい。さっさと武器を整えろ。」
キノクニは振り返ることなく、上に登っていきました。
床板をくぐる時には、かちゃかちゃと道具を出す音が聞こえていました。
上に出ると、カナンがカウンターでジュースを飲んでいました。
「あ!おじちゃん!話終わったー?」
「ああ。待たせたな。」
「やー!おじちゃんの武器、2人とも面白そうだったから楽しみー!!おじちゃんも楽しみにしててねー!」
カナンはパタパタと駆け足で床板をくぐり、降りて行きました。
「ええ子やな…お前、もうちょい力の使い方考えや。出来ん訳ちゃうんやから。お前はあの子を殺しかけたんや。」
「…力には責任が伴う。」
「ん?」
「……お前の言う通りだ。グリモア。」
「お…おおう…なんや素直やな…ま、分かれば良いんや。」
キノクニはマスターに目も向けず扉を開けて出て行きます。
「またのお越しを…ウヘヘ…」
マスターの不気味な笑い声を背に受けながら、朝日が昇り白んでいく裏町に、歩み出て行きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マリアンは冒険者ギルドの酒場カウンターでしょぼくれていました。
頭には先日の決闘で負った傷を塞ぐための白い布が貼り付けてあります。
SSS級なのにただの旅人に負けたってよ…
ダセぇなあ…見ろよあの頭…
ぶふっ…いい気味ね…あたしあの子前から気に食わなかったのよ…
「くっ…言わせておけばっ…」
手下が立ち上がろうとしますが、マリアンはそれを手で制します。
「良いのよ…言わせておきなさい…それに…事実ですわ……」
「しかしマリアン様…」
手下の冒険者達はしょぼくれるマリアンをどうしたらいいか分からず、一緒にしょぼくれるばかりです。
しかし、当のマリアンはただしょぼくれている訳ではありません。
_____あの時、あの瞬間にぶつけられた殺気…_____
マリアンはキノクニの事が頭から離れなくなっていたのです。
_____初めて殿方に睨まれて、初めて体の芯が痺れましたわ…この、今も続く痺れは、一体なんなのかしら…_____
マリアンは、キノクニの事を考えると、頭がぼうっとして、背筋が震え、何故だか他の事に集中出来なくなっていました。
その時です。
「あーら!そこにいらっしゃるのはSSS級魔導師のマリアン様ではありませんか?!決闘で無様に負けたと噂の!!」
「…サイケ…」
「アハハ!見事に消沈してるわね!いい気味!大体あなたにはSSS級は早過ぎたのよ!!」
同じSSS級の冒険者で、マリアンと同じく揃いのコスチュームを着させた手下を引き連れた女性…サイケが近寄って来ました。
「アハハハ!天才魔導師が聞いて呆れるわね!魔法を放つ間もなく一瞬でやられたそうじゃない?!貴女、それでSSS級なんて名乗って恥ずかしくないのかしら?!あたしならすぐさまその称号を辞退しますけどねぇ!アハハハハ!」
サイケの笑い声に合わせて、周りの手下達も笑います。
マリアンの手下達は悔しげですが、マリアンは上の空です。
「しかしこれでは名家ステューの名も地に落ちたのと同然ですね!!まあ!貴女の家がどこまで落ちようが知ったことではありませんが…看過せざるを得ないのは、SSS級冒険者の地位も軽んじられることです!!」
「…」
「その旅人について詳しく教えなさい!あたしが直々に叩き潰してやります!この大華槌ソメイの錆にしてくれますわ!」
「…」
「…ちょっと?!聞いているの?!」
「はぁ…」
いつもなら犬猿の仲であるマリアンとサイケは、本当の犬や猿のように罵りあうのですが、やはりマリアンは上の空です。
サイケはなんだか肩透かしを食らったような気分です。
「ちょっと!!あたしを無視するなんて…」
「何してるんだ!」
その時、男の声が割り込んで来ました。
「あら…これはルーク様…ご機嫌いかがでしょう。」
サイケは先程までの態度とは打って変わって、猫撫で声でスカートをつまみ上げ、男…ルークに挨拶をしました。
「…不機嫌だな。つまらぬ言い争いを耳にして。」
「言い争ってはいません…マリアンがあたしを無視するので、少しムキになっただけです…」
「…マリアンは傷心中なんだ。放っておいてやれ。」
「あら…お優しいこと…皆さん!行きますよ!」
サイケは手下達に声をかけ、その場を後にします。
去り際に、こんな言葉を残して。
「ルーク様…お付き合いなさる人間は、選んだ方が良いかと思いますよ…それでは。」
ルークは去っていくサイケの背を睨むと、視線をマリアンに移し、隣に座りました。
「大丈夫かい?マリアン。あんなの気にすることないよ…」
「…」
「…無理も無いね。ただの旅人に負けたなんて落ち込むよね…でもきっとなにかの間違いさ。君が…SSS級魔導師が、ただの旅人に負けるはずないじゃないか。な?そうだろ?」
「…」
「マリアン…」
すると、マリアンは急に立ち上がりました。
「…少し、外の空気を吸って来ますわ。」
「マリアン…ああ、皆はここに居てくれ。僕が付き添う。」
マリアンは本当は1人で行きたかったのですが、そんな事にも構わず、ルークと連れ立ってギルドの外へむかいました。
後には困った様子の手下達が、残されるばかりでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おかしいですわ。
いつもならサイケにもきちんと反論するし、ルーク様に胸が高鳴るはず…
おかしい。
全てがどうでも良いですわ…
一体わたくしは、どうしてしまったの…
「んっ…はぁ!今日は曇りだね!雨でも降りそうだ!」
ルーク様が話しかけてくださる…キノクニ様とは違って、優しいし、わたくしと同じSSS級冒険者ですし…
だと言うのに…
これではまるで…
いけませんわ。
少し伸びをしたら、中に戻りましょう。
「んっ………はあ。さて、ルーク様!中に戻り……」
「んっ……?どうしたんだい?」
わたくしはその時見つけてしまいました。
あの方を。
何やら黒い槌を担いでいましたが、間違いありません。
キノクニ様…
その瞬間、わたくしの足は動き出していました。
「まっ…待って!待ってくださいませ!!」
「あっ!どこへ行くんだい!?マリアン!!」
ルーク様が追ってくるのも構わず、あの方を追いかけてしまっていました。
一体この気持ちはなんなのでしょう?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キノクニは竜を取りに平原へ向かいます。
その道中を、マリアンは見つけたようですね。
ルークも追いかけて行ってしまいました。
さて、この後、どうなるのでしょうか。
空には厚い雲が渦巻き、今にも雨を落としそうでした。
それはまるで、キノクニの行く末を暗示しているようでした。
続きは次回のお楽しみです。
「がっ…がはっ……待てっ…待たんかっ……」
「…」
「キノクニ!キノクニ!!止めえや!!カナンちゃん倒れとる!」
グリモアに諭され、やっとキノクニは殺気を消しました。
カナンはぐったりとしています。
キノクニはカナンを抱えると背中に手を当て…
「ふん!」
「かふっ!」
軽く掌底を打ちました。
カナンは息を吹き返し、目を覚まします。
何が起きたか分からない様子です。
「お…おじちゃんありがとう…なんかちょっと寝てた…」
「…すまんな。」
「えー?何が?」
「…カナン…上でジュースでも飲んで来い。俺は恩人と話がある。」
「…うん!わかった!やー!」
カナンは元気に上へと登っていきました。
アモンは椅子に腰かけ、一息つきます。
「はぁ……こりゃドワーフより厄介な奴に目をつけられたか…?」
「爺ちゃん!コイツに顔無しは禁句やねん!それは…コイツの存在に関わることやし…それに、顔無しで散々酷い目におうてるしな…」
「そうか……久々に腰に来た……あっ…つつつっ…ああ。はー…」
「…『聞こえるか。魔鍛治師。』
「はっ?!急に恐ろしい男の声がっ…」
「お前…音魔法を爺ちゃんの頭ん中に届けたんか…器用やな…」
「簡単な魔力操作ができれば造作も無い。『剣と鎖を返せ。魔鍛治師。別のツテを探す。』
「ああ?!なんでだよ!!」
『貴様とて顔無しの武器など扱いたく無かろう。寄越せ。』
「関係無えよ!!」
『何…?』
「こちとらそんな生半可な覚悟で魔鍛治師名乗っちゃいねえよ!!それに武器にはなんの罪も無えしな!!がっがっがっがっ!…顔のことはすまねぇ。踏み入り過ぎた。興味本位だ。」
『これを見てもか。』
キノクニは編笠とフードを取り、顔の無い顔をアモンに見せます。
「おっ…こりゃ……生で見るとすげぇな…がっがっがっ!!中々男前だ!!俺には負けるがな!」
『…そうか。』
キノクニはフードと編笠をかぶり直しました。
『何故顔が無いと分かった。』
「ああ?!明らかに鼻が低い!布を巻いていてもな!それと目が無えのが丸わかりだ!やはり凹凸がないからな!」
『貴様ならどうにかできるか?』
「ほぉ?…てこたぁ、おれに武器も預けとくってことか?」
『質問に答えろ。』
「…まぁ、可能だ。しかし、素材がいくつか足らねえ。おめぇ、竜の鱗は持って無えか?!」
「無い。」
「そうか…あと1枚、竜の鱗がありゃすぐにでも良いもんができるが…」
『では取ってくる。その間に武器を整えておけ。』
「あっ!おい!良いのか…」
『貴様の覚悟とやら、見せてもらおう。魔鍛治師アモンよ。』
キノクニは、目の無い目でアモンを見つめます。
「……がっがっがっ!とんでもねぇ主人だな!グリモア!おめぇ、役不足じゃ無えかよ?」
「うっさいわ!これから釣り合う予定じゃ!ほっとけ!」
「武器が無いとキツかろう!持ってけ!」
アモンが黒い鎚を投げ渡して来ます。
真っ黒で、装飾も真っ黒です。
「…本よ。」
「ほいほい!」
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名前:逢魔の戦鎚
分類:呪物 Lv.8
数値:攻 580
:魔 100
特性:低確率守備貫通。
:呪い「鈍足」
説明
とある悪魔が用いたとされる戦鎚。あ
らゆる魔物や生物の生き血を吸い、ど
す黒く変色している。もちろん怨念も
相応に纏っており、使用者の体に纏わ
りつき、足の動きを鈍らせる。
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「ふむ。役には立ちそうだ。」
「がっがっがっ!おめぇの武器に負けず劣らずの逸品だぜ!貸してやるよ!持ってきな!」
キノクニは背中のホルダーを調整し、戦鎚をかけました。
「おめぇならその呪いも物ともしねえだろ!!むしろ力になりそうだなあ!がっがっがっ!」
「やかましい。さっさと武器を整えろ。」
キノクニは振り返ることなく、上に登っていきました。
床板をくぐる時には、かちゃかちゃと道具を出す音が聞こえていました。
上に出ると、カナンがカウンターでジュースを飲んでいました。
「あ!おじちゃん!話終わったー?」
「ああ。待たせたな。」
「やー!おじちゃんの武器、2人とも面白そうだったから楽しみー!!おじちゃんも楽しみにしててねー!」
カナンはパタパタと駆け足で床板をくぐり、降りて行きました。
「ええ子やな…お前、もうちょい力の使い方考えや。出来ん訳ちゃうんやから。お前はあの子を殺しかけたんや。」
「…力には責任が伴う。」
「ん?」
「……お前の言う通りだ。グリモア。」
「お…おおう…なんや素直やな…ま、分かれば良いんや。」
キノクニはマスターに目も向けず扉を開けて出て行きます。
「またのお越しを…ウヘヘ…」
マスターの不気味な笑い声を背に受けながら、朝日が昇り白んでいく裏町に、歩み出て行きました。
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マリアンは冒険者ギルドの酒場カウンターでしょぼくれていました。
頭には先日の決闘で負った傷を塞ぐための白い布が貼り付けてあります。
SSS級なのにただの旅人に負けたってよ…
ダセぇなあ…見ろよあの頭…
ぶふっ…いい気味ね…あたしあの子前から気に食わなかったのよ…
「くっ…言わせておけばっ…」
手下が立ち上がろうとしますが、マリアンはそれを手で制します。
「良いのよ…言わせておきなさい…それに…事実ですわ……」
「しかしマリアン様…」
手下の冒険者達はしょぼくれるマリアンをどうしたらいいか分からず、一緒にしょぼくれるばかりです。
しかし、当のマリアンはただしょぼくれている訳ではありません。
_____あの時、あの瞬間にぶつけられた殺気…_____
マリアンはキノクニの事が頭から離れなくなっていたのです。
_____初めて殿方に睨まれて、初めて体の芯が痺れましたわ…この、今も続く痺れは、一体なんなのかしら…_____
マリアンは、キノクニの事を考えると、頭がぼうっとして、背筋が震え、何故だか他の事に集中出来なくなっていました。
その時です。
「あーら!そこにいらっしゃるのはSSS級魔導師のマリアン様ではありませんか?!決闘で無様に負けたと噂の!!」
「…サイケ…」
「アハハ!見事に消沈してるわね!いい気味!大体あなたにはSSS級は早過ぎたのよ!!」
同じSSS級の冒険者で、マリアンと同じく揃いのコスチュームを着させた手下を引き連れた女性…サイケが近寄って来ました。
「アハハハ!天才魔導師が聞いて呆れるわね!魔法を放つ間もなく一瞬でやられたそうじゃない?!貴女、それでSSS級なんて名乗って恥ずかしくないのかしら?!あたしならすぐさまその称号を辞退しますけどねぇ!アハハハハ!」
サイケの笑い声に合わせて、周りの手下達も笑います。
マリアンの手下達は悔しげですが、マリアンは上の空です。
「しかしこれでは名家ステューの名も地に落ちたのと同然ですね!!まあ!貴女の家がどこまで落ちようが知ったことではありませんが…看過せざるを得ないのは、SSS級冒険者の地位も軽んじられることです!!」
「…」
「その旅人について詳しく教えなさい!あたしが直々に叩き潰してやります!この大華槌ソメイの錆にしてくれますわ!」
「…」
「…ちょっと?!聞いているの?!」
「はぁ…」
いつもなら犬猿の仲であるマリアンとサイケは、本当の犬や猿のように罵りあうのですが、やはりマリアンは上の空です。
サイケはなんだか肩透かしを食らったような気分です。
「ちょっと!!あたしを無視するなんて…」
「何してるんだ!」
その時、男の声が割り込んで来ました。
「あら…これはルーク様…ご機嫌いかがでしょう。」
サイケは先程までの態度とは打って変わって、猫撫で声でスカートをつまみ上げ、男…ルークに挨拶をしました。
「…不機嫌だな。つまらぬ言い争いを耳にして。」
「言い争ってはいません…マリアンがあたしを無視するので、少しムキになっただけです…」
「…マリアンは傷心中なんだ。放っておいてやれ。」
「あら…お優しいこと…皆さん!行きますよ!」
サイケは手下達に声をかけ、その場を後にします。
去り際に、こんな言葉を残して。
「ルーク様…お付き合いなさる人間は、選んだ方が良いかと思いますよ…それでは。」
ルークは去っていくサイケの背を睨むと、視線をマリアンに移し、隣に座りました。
「大丈夫かい?マリアン。あんなの気にすることないよ…」
「…」
「…無理も無いね。ただの旅人に負けたなんて落ち込むよね…でもきっとなにかの間違いさ。君が…SSS級魔導師が、ただの旅人に負けるはずないじゃないか。な?そうだろ?」
「…」
「マリアン…」
すると、マリアンは急に立ち上がりました。
「…少し、外の空気を吸って来ますわ。」
「マリアン…ああ、皆はここに居てくれ。僕が付き添う。」
マリアンは本当は1人で行きたかったのですが、そんな事にも構わず、ルークと連れ立ってギルドの外へむかいました。
後には困った様子の手下達が、残されるばかりでした。
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おかしいですわ。
いつもならサイケにもきちんと反論するし、ルーク様に胸が高鳴るはず…
おかしい。
全てがどうでも良いですわ…
一体わたくしは、どうしてしまったの…
「んっ…はぁ!今日は曇りだね!雨でも降りそうだ!」
ルーク様が話しかけてくださる…キノクニ様とは違って、優しいし、わたくしと同じSSS級冒険者ですし…
だと言うのに…
これではまるで…
いけませんわ。
少し伸びをしたら、中に戻りましょう。
「んっ………はあ。さて、ルーク様!中に戻り……」
「んっ……?どうしたんだい?」
わたくしはその時見つけてしまいました。
あの方を。
何やら黒い槌を担いでいましたが、間違いありません。
キノクニ様…
その瞬間、わたくしの足は動き出していました。
「まっ…待って!待ってくださいませ!!」
「あっ!どこへ行くんだい!?マリアン!!」
ルーク様が追ってくるのも構わず、あの方を追いかけてしまっていました。
一体この気持ちはなんなのでしょう?
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キノクニは竜を取りに平原へ向かいます。
その道中を、マリアンは見つけたようですね。
ルークも追いかけて行ってしまいました。
さて、この後、どうなるのでしょうか。
空には厚い雲が渦巻き、今にも雨を落としそうでした。
それはまるで、キノクニの行く末を暗示しているようでした。
続きは次回のお楽しみです。
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