のっぺら無双

やあ

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記録十八:タツノオ平原関所付近〜平原岩場地帯

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 キノクニは都の関所をくぐり、平原へと向かいます。

 「また一悶着あるんとちゃう?なんせトラブルメーカーやからな!お前。」

 「引き裂くぞ。」

 「えぇっ?!いつもの冗談やん。そんな怒らんどってよ…」

 そんな会話をしながら関所を通りましたが、ゼドがくれた黒い札を見た衛兵は急にかしこまり、すんなりと通してくれました。

 おかげでなんの問題も無く、揚々とドラゴン狩りに向かえます。

 いえ、問題は2つ…いや、2人いました。

 「なぁ…さすがに無視でけへんのとちゃう?オレが気付いてんねや。お前が気付いてへんわけない。…あの女と変な男、付いてきとるで。」

 「…はぁ。」

 キノクニは溜息をつくと、近場の木に素早く上りました。

 しばらくすると…

 「はぁ、はぁ、待って…はぁ…おかしいですわ…ここで魔力が消えた…」

 マリアンが木の下にやって来て、座り込んでしまいました。

 キノクニは、木の葉の隙間から下を見ています。

 本当はマリアンが通り過ぎるのを見計らって降りよう思っていたのですが、当てが外れてしまいました。

 「なぁ…これもう詰みやあれへん?潔く降りようや。ラチがあかんで…」

 「邪魔な女だ…このまま付いて来られれば、竜狩りに支障がでる。」

 「せやかてなぁ…てかサラッと言うてるけど、普通竜て狩るもんちゃうからね?あのジジイも無茶振りしよるわー…」

 キノクニ達が木の上で喋っていると、今度はルークが走って来ました。

 「待ってくれよマリアン!そんなに急いでどうしたんだい?」

 「こちらにキノクニ様が来たはずですの…しかし、魔力反応が消えてしまって…」

 ルークはマリアンの隣に座ります。

 「キノクニって…君を負かしたって言う旅人の?……なんでそんな奴を追いかけてるんだい?」

 「…会ってみなければ分かりませんわ…」

 「…やれやれ。しょうがないお姫様だな。僕の気配察知で探してあげるよ。」

 この会話を聞いていたグリモアは大慌てです。

 「ヤバイでキノクニ!もし見つかったら絶対変態扱いされてまう!なんで木の上になんか逃げたんやもう!!」

 「…跳ぶか。」

 「は?跳ぶ?」

 キノクニは足に力を込め始めました。

 メキメキと筋肉が膨張します。

 「ん?なんの音だ?」

 ルークの耳がその音を捉えたまさにその時です。

 バザンッ!!

 キノクニは木の上から地面と平行に跳び出しました。

 まるで砲弾のようです。

 「うわあああああああ?!お前はホンマあほおおおおおおおお!!!!」

 ぐんぐんと速さを増し、キノクニは飛んで行きます。
 先程の木は、最早見えません。

 「…撒いたか。」

 「ちょっと!?何故逃げますの!?」

 しかし、マリアンはどこから取り出したのか杖にまたがり、キノクニを追って来ていました。

 「お待ちになって…!…というか貴方このままだと…」

 メキメキメキメキッ…!

 キノクニが再び足に力を込めます。

 「ぬんっ!!」

 バウッ!!

 キノクニは空を蹴り、更に勢いを増しました。

 マリアンは引き離されます。

 「なっ…?!まさか魔具っ…?!」

 マリアンが驚愕する間にも、どんどん距離が離れていきます。

 これで今度こそ振り切れた。

 そう思った時です。

 「むっ。」

 何かが音も無く飛んで来ました。

 カキンッ!

 仕方なく、得体の知れない物を、戦鎚で防ぎます。
 しかし、戦鎚を抜いてしまったため、呪いが発動し、勢いが死んでしまいました。

 「ああああ…落ちるでキノクニ!!」

 「黙っていろ…はああああっ!!」

 キノクニは戦鎚を振りかぶると腕を膨張させます。

 そして、地面に激突する次の瞬間…

 ドガアアアン!!!

 思い切り地面を叩きつけ、落下の衝撃を相殺してしまいました。

 「……っぶなああ…毎度お馴染みの無茶やったな…!!」

 「無茶では無い。できるからやっている…それより出て来い。光の矢を放った者よ。」

 キノクニには飛んで来た物が見えていました。
 光そのもののような矢です。いえ、弾いた途端消えたので、ようなではなく光そのものなのでしょう。

 「…ははっ!君が噂の旅人君かい?初めまして。僕は…」

 ルークが岩影から出てくるのに合わせて、キノクニの戦鎚が飛んで来ました。

 「わあっ!?」

 ドガアアアン!!!

 間一髪でルークが避け、岩場は盛大に砕け散ってしまいました。

 「いきなり何…をっ?!」

 キノクニはルークが戦鎚に気をとられている隙に詰め寄り、首に手を回していました。

 「えっ…うそっ…」

 「ぬんっ!!」

 キノクニが首を折ろうとしたその時です。

 「待ってくださいませっ!!キノクニ様っ!!!」

 すんでのところで、マリアンが追いつきました。

 キノクニは折るのをやめて、首に手を回し直し、マリアンの方へ向き直ります。
 ルークを盾にして。

 「貴様…何の用だ。このポーチは私の物だと決闘で決まったはずだ。」

 キノクニは、マリアンが魔法を撃って来ることを警戒しています。

 「ええ!わたくしも納得していますわ!!」

 「では何故私を追い回す。」

 「それはっ…そのっ…」

 「目的は何だ。言え。さもなくば貴様の仲間の首をへし折る。」

 ルークは首を上向きに抑えられ、呪文を唱えられません。

 「それは…なんというか…」

 「10秒以内に言え。ただでさえ時間が無い。」

 「そんなっ!…あああ…えっとぉ…」

 「7…6…5…」

 「そのっ…ええっと…」

 「4…3…2…1…」

 「貴方に…」
 「ギャオオオオオオオオ!!!」

 不運とは重なるものです。

 赤い鱗をもつ飛竜が、獲物だと言わんばかりに飛来しました。

 辺りを猛烈な風が吹き荒れます。

 「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 「あかんっ…キノクニ!!地竜とは比べもんにならんくらい凶暴な竜や…!」

 キノクニの目に情報が映ります。

__________________
 名前:なし

 分類:レッドドラゴン Lv.9
   :特殊個体「平原の主」

 数値:攻 1350
   :守 2800
   :魔 5380
   :運 380

 特性:高速飛行、火炎の化身、毒牙、王
    者の気迫

 説明
 世界に最も多く、最も有名な火の飛
 竜。その中でも取り分け強く、特殊な
 選ばれたレッドドラゴンのみが、平原
 の主になれる。
__________________

 「力も強大や…!丁寧に毒まで持っとるで……!!」

 キノクニは風に耐えながらも、戦鎚を拾いに行きます。

 戦鎚を持つと、風圧の影響が減りました。どうやら鈍足の呪いの効果が吉と出たようです。

 「これならば事足りるだろう……!!」

 「はあ?!まさかお前…主を狩る気かいな?!そりゃ今度こそ無茶や!!消し炭にされてまうどー!!?」

 ゴウウウウウウ!!

 風はますます強くなります。

 ルークは岩に掴まり耐えています。

 マリアンも結界を張って耐えていますが、周りが見えずに反撃できません。

 ズドンッ!ズドンッ!

 キノクニは両足を地面にめり込ませました。

 これなら風に飛ばされません。

 「ぬうううう…」

 そして、今日1番に腕を膨張させます。
 まるでボウリングの球のように丸々と膨張しました。

 「うううう…えりゃあっっっ!!!」

 ブオンッ!!

 キノクニは戦鎚をハンマー投げよろしく投げます。戦鎚は風を物ともせずに綺麗に飛んでいきました。

 ドムンッ!!!!

 「グギャアアアアアアア!?」
  
 まさかこの風の中、反撃されるとは思っていなかった平原の主は、頭に飛んで来た戦鎚に驚き、頭を襲う鈍痛に驚き、混乱して風を止めてしまいました。

 「ギャッ?ギギャッ!?グギャアッ!?!」

 主はフラフラと上昇し、見えなくなりました。

 ヒュー…………ドズンッ!!!!
 
 遥か上空から戦鎚が落ちて来ました。微かに辺りが揺れます。

 「仕留め損なったか…やはり目から手を入れ、脳を潰すしかあるまい。」

 「いやいやいや…もう大概驚かへんて密かに決めとったけど……言わさしてもらうわ。どないやねんっ!!!!」

 キィーン…

 キノクニの頭にグリモアの金切り声が響きます。キノクニは顔をしかめました。

 「何だ…やかましい…」

 「何だもヘチマまもへったくれもあるかいっ!!お前アホちゃうか!?何を主に喧嘩売っとんねん!!しかも何を撃退しとんねん!!!相手はこのドラゴンだらけの平原の王!食物連鎖の頂点やぞ!!?お前がやったんは蟻が人間を拳骨して「去ね!」言うて、それを大人しく実行さすくらい不可能なことや!!普通不可能なんや!!それを何成功さしとんねん!!!」

 「黙れ…食物連鎖など知らん…私は私が欲しい物を狩る…竜だろうが主だろうが、頂点だろうが。」

 「ほんっま命がいくつあっても足らんて!!止めて!ほんまに止めて!」

 「ではお前はあのまま大人しく喰われろと言うのか。」

 「むぎっ…そうは…言わへんけど…逃げるとかあるやろ……」

 「アレは飛ぶ。逃げきれん。それにここは平原だ。隠れる場所もほぼ皆無。ああするしかあるまい。」

 「……ああっもう!とにかく反省しいや!ありゃ運が良かっただけや!次も上手くいくとは限らんからな!!ええな!?」

 「運も己の力の内だ…」

 「聞く耳持たへん!もうええわい!」

 キノクニ達が言い合う中、マリアンとルークは眼を見開き、信じられない物を見る目でキノクニを見ていました。

 「アレは…間違いなく特殊個体でしたわ…それを1人で撃退するなんて…」

 「馬鹿な…こんな事…認められない…何かの嘘だ……あんな旅人風情が……そうだ。主は弱ってたんだ…でなければ怪我を……きっとそうだ…」

 キノクニは2人をどうしたものかと睨みます。
 グリモアはギャアギャアと喚き続けていました。

 続きは次回のお楽しみです。
 
 
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