のっぺら無双

やあ

文字の大きさ
21 / 43

記録二十一:主狩り〜帰路

しおりを挟む
 主のヘソは、辺りの平原から一段下がった地形に位置しており、草が生い茂った岩に囲まれた場所です。

 主の姿は無く、卵どころか火の息による焦げ跡すら見つかりません。

 「主は…どこに居ますの…?」

 「…」

 「なぁキノクニ…オレ、ある噂を聞いたことがあるんやけど…話してもええか?」
 
 「何だ。有益な話か。」

 「まぁ聞けや…平原の主たる竜は、並々ならぬ膂力と胆力を持ち、知能は時に人をも凌駕する
 …全ての竜の技を使える程に…」

 「…ならば何故お前が鑑定した時に、その情報が出なかった…
 全ての竜の技など、書かれていなかったぞ…」

 「そら鑑定があれば隠匿もある…
 意識的に情報を制限…つまり鑑定を邪魔する技や…」

 「…ならば竜は…」

 その時でした。

 キノクニが微かな地響きを感じます。

 「これは…飛べ!!魔導師!!!」

 キノクニはグリモアをマリアンに投げ渡し、叫びました。

 「えっ!?は、はい!"フライ"!」

 マリアンはぎこちなくもグリモアを受け取り、呪文を唱えると浮かび上がり、ヘソから脱出します。

 「キノクニ様っ…」

 ゴオオオオオオオオオオ!!!!

 マリアンがキノクニを案じ、ヘソの方向へ振り返るのと、ヘソから凄まじい火炎の奔流が溢れでるのはほぼ同時でした。

 「きゃああああ!!!」

 マリアンは思わず、手に持っていたグリモアで顔を隠します。

 「うわあちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!!!あか~~~~~ん!!!」

 やがて火炎は収まり、次いで羽音が聞こえてきます。

 忌々しい風を纏った、あの羽音です。

 「グロロロロロロ…」

 余裕と風格漂わせる竜達の王、平原の支配者たる主が、ついに姿を現しました。

 ヘソはどうやら下穴になっていたようです。

 主がその鋭い爪と地竜の穴掘り技を使い作った巣でした。

 「グロオオオオオオオオオオオ!!!!」

 マリアンは地に降り立ち、杖を構えて魔力を纏います。

 キノクニに習ったように。

 「あかん…あかんで…マリアンちゃん1人では…明らかに……」

 「…やれることを全て、全力でやる。たとえ仲間が…キノクニ様が死んだとしても……
 それがわたくしの、冒険者としての"覚悟"であり、矜持ですわ!!!!」

 マリアンはさらに障壁を展開し、来たる攻撃に備えます。

 「グロオオオオオオオ!!!」

 ガギギギギギッ!!!

 障壁に主の爪が圧し付けられ、悲鳴を上げています。

 「くっ…この程度でっ……」

 マリアンが障壁に力を込め、弾こうとします。
 しかし、横からは尻尾が槍のように迫ってきます。

 「はっ!!しまっ…」

 ズバッ!!

 マリアンは紙一重で身を翻し、尻尾を避けましたが、肩をかすめて血が舞い飛びます。

 「くぎっ…!」

 「マリアンちゃん!!あかん!逃げんと…」

 「"ボルテクス"!!」

 マリアンは主から目を離さず、雷の矢を5発撃ちます。

 「グロオオオオオオ!!」

 主も対抗して炎弾を5発吐き出し、相殺させてしまいます。

 「負けませんわっ…"ウェットスピ…」

 「グロオオオオオオオオオオオ!!!」

 「きゃあっ!!」

 主は風を竜巻のように放ち、マリアンを舞い上げてしまいました。

 「グロロロロ!!!!」

 マリアンの落下地点で、主が口を開け待ち構えます。食べてしまうつもりなのでしょう。

 しかし、マリアンは負けじと杖を構えます。

 主の口を目掛けて。

 「…ふー…大雑把で良い…"フレイボム"!!!!」

 凄まじい威力を秘めた光の玉が、主の口に吸い込まれます。

 「グロッ?」

 バクン!

 主は思わず口を閉じてしまいました。

 その瞬間…

 ドバァアアアアアアアン!!!!

 主の顔が内側から膨れ上がり、破裂してしまいました。

 マリアンは爆発の反動を利用し、体勢を立て直すと、なんとか着地しました。

 「はぁ…はぁ…どう…ですっ…」

 マリアンは油断なく主を睨みます。

 顔から上がる白煙が晴れると、そこには…

 「グ……ロ……」

 顔の3分の2が吹き飛んだ主が居ました。

 「………グガッ…!!」

 ドズゥゥウン…!!

 主はそのまま前のめりに倒れました。

 「や…やりましたわ……!」

 「…すごいな…マリアンちゃん…!」

 グリモアもマリアンも放心状態です。

 「すごいで!マリアンちゃん!見直したわ!めちゃくちゃ強い魔法やったな!」

 「…キノクニ様の…助言があったからですわ…キノクニ様は?!キノクニ様!?」

 マリアンは立ち上がろうとしますが、足が震えて転けてしまいます。

 ゴッ!

 頭を地面に打ち付けました。

 「あたたー!大丈夫かいな!少し落ち着きや!アイツなら大丈夫やて!なんだかんだで生きとる…」

 「しっ!待って…何か…聞こえますわ…」

 マリアンは打ち付けた頭をそのままに、地面に耳を澄まします。

 ズ………………

 ズ…………ン…………

 ズン!……ズン!……………

 「地中にまだ…何か居ますわ!!」

 マリアンは這いずり、巣穴を覗きに主のヘソの淵まで向かいます。

 「…あれは?!」

 そこでマリアンは目にしました。

 巣穴の底で炎が迸っているのを。

 炎は1つは極大で、何かを排除しようと飛び交っているのを。

 その周りを小さな炎が飛び交い、極大の炎をサポートしているのを。

 そして、そのどれとも違う、眩い輝きを。

 キノクニが、漆黒のドラゴンと死闘を繰り広げているところを。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ギャオオオオオオオオ!!」

 キノクニは気付いていました。

 ヘソの下から炎が迫って来ていることに。

 しかも、それとは別に大きなドラゴンが迫って来ていることに。

 まさしくその通りでした。

 極大の炎は漆黒のドラゴンが吐いたもので、大きなドラゴンはただの赤い飛竜でした。

 「ぬあああああ!!」

 ガヂィン!!!

 漆黒竜の爪とキノクニの輝く拳がぶつかり合い、火花を上げます。

 そして、キノクニの拳からは、血が飛び散ります。

 「ギャオギャオギャー!!」

 「キャオキャー!」

 漆黒竜は周りの子竜達に指示を飛ばし、キノクニに向けて炎を発射させて来ます。

 「ぬん!!」

 キノクニは拳を奮い子竜を薙ぎ払います。

 「ギャオギャオギャオ!!」

 漆黒竜はまるで笑うように鳴くと、再び炎を吐こうと口を開けます。

 ビシュンッ!

 「ギャウッ?!ゲギャッ!!ガハッ!」

 漆黒竜の口に何かが入りました。

 とても痛くて熱い塊です。

 それは、マリアンが放った核魔法でした。

 「キノクニ様!わたくし、支援いたしますわ!!」

 「ぬえやああああ!!!!」

 漆黒竜が怯んだ隙に、キノクニは周囲の子竜達を根こそぎ殲滅しました。

 「さすがですわ!!」

 「ギギャッ!ギャオギャー!!」

 漆黒竜は上を見上げるとマリアンに狙いをつけ、炎弾を連射します。

 「きゃああ!!」

 「魔導師!!まともに防ぐな!横から魔力をぶつけて反らせ!!」

 「はっ……はいぃっ!!」

 マリアンはなんとか無事のようです。

 子竜を軒並み片付けたキノクニは、両腕、両足に輝きを集中させます。

 「ぬうううううう……」

 マリアンへ向け、炎弾を吐いていた漆黒竜ですが、キノクニの異様な気配に気付くと、猛突進して来ました。

 「ギャオギャオギャー!!!!」

 ブシュアッ!!

 「ああ…そんな……」

 キノクニの腹を、漆黒竜の角が貫いていました。

 「き…キノクニさまぁ!!!!」

 「落ち着きてマリアンちゃん!!アイツは消し炭にでもならん限り大丈夫…」

 そうグリモアが言った時です。

 ゴアアアアアアン!!!!

 漆黒竜が角をキノクニに刺したまま、極大火炎を吐き出しました。

 キノクニの姿は炎に呑まれ、視認できません。

 「あ…嘘…」

 「うああああ!嘘やろ……キノクニィ!!!!」

 これにはさすがのグリモアも心配の声を上げます。

 しかし、それどころではありません。

 漆黒竜は次にマリアンに狙いをつけ、足に力を込め始めます。

 「キノクニッ…くっ……あかん!マリアンちゃん逃げえ!こんまんまやとあの角に貫かれんで!!」

 「キノクニ様が……そんな…」

 マリアンは目の前でキノクニが消し飛ぶ様を見て、ショックで腰が抜けてしまっていました。

 「マリアンちゃん!!!」

 「あっ…」

 「ギャオアアアアアア!!!」

 気付いた時にはもう遅過ぎました。

 漆黒竜は穴の底から跳躍し、マリアンの眉間に寸分狂わず角を突きつけました。

 まさに角がマリアンを貫かんとしたその刹那…

 「……ぬううううううりゃああああああ!!!!」

 ズブチャンッ…!!!!

 キノクニが穴の底、煙の中から飛び出して、漆黒竜の顔面を殴りつけ、胴体と頭を切り離したのです。

 血さえ漏らさず、断末魔の悲鳴さえ上げず、漆黒竜は空中で即死しました。

 「えっ……!!」

 「嘘やろ……!消し炭になっても生きとった…!!」

 キノクニは空中で漆黒竜の頭と胴体を掴むと、地上に放り投げ、自らも地上に降り立ちます。

 「ふー……」

 キノクニの輝く体は深呼吸と共に眩さを落とし、消えていきました。

 「…キノクニ…様…」

 「…」

 「すいません…でした…わたくし…目の前で貴方が消え去るのを見て…頭が真っ白に……
 ダメだと分かっていても……体が動きませんでした……すいません…」

 安堵と共に、今迄と同じ不甲斐ない自分が情けなくなり、マリアンはボロボロと大粒の涙を流します。

 キノクニはそれを黙って見た後、グリモアをマリアンの手から掬い、口を開きました。

 「…目の前で何かが死ぬことに慣れるな…
 お前のその涙は、私には無いものだ…それを無くすな。
 それもお前の強さだ。」

 「ひっく…えっ…どういう……こと……ですのっ…?」

 「…お前がこの先、もっとずっと強くなれば、分かることだ。」

 「…わたくしは……強く…なれたでしょうかっ……」

 「…それはお前が1番分かっているはずだ。」

 「…はいっ!!………ぐすっ…ひっく…」

 キノクニはマリアンをそっとしておき、漆黒竜の死体に近付きます。

 「なんやお前…デレの分量多くなってきてへん?」

 「貴様の言う事は時々分からん。それよりこれを鑑定しろ。燃やし尽くされたいか。」

 「ツンや!!最近で1番のツン来たわ!!てか燃やすは100歩譲ってええとしても尽くすなや!!…分かったからそんな怖い気を放つなや……ほいよっ!」

__________________
 名前:黒龍ケイオス(幼体)

 分類:龍種

 数値:測定不能(死体)

 説明
 異次元の奥底で孵化すると言われる、
 黒龍の幼体。幼体ながら、竜種程度な
 らば全て支配できる程の力を持ってい
 る。
__________________

 「なななな…なんやとぉ!?」

 「なんだ。やかましい。引き裂くぞ。」

 「いや、ツン多すぎ…ってそれどころやなしに!!コイツやコイツ!
 龍種やと?!有り得へん!龍種は遥か昔に絶滅したはずや!
 それがなんでこんな平原の真っ只中に巣を作っとんねん!」

 「知ったことか…最早死骸だ。関係ない。」

 キノクニは漆黒竜をポーチにしまうと、がなり立てるグリモアを無視して、マリアンに近付きます。

 「目的は達成した。ご苦労だった。あの主はお前の物だ。」

 「えっ…でも、わたくし…」

 「お前が倒した。お前の物だ。」

 「…はい。いただきますわ…ありがとうございます!」

 「では、都に戻るぞ。」

 「あ…あの…わたくしのマジックポーチは、貴方の物のように何でもは入りませんわ…
 その…」

 「ふん。私の物では無い。私のポーチに入れることはできないが…
 コレの鱗数枚と引き換えならば、運んでやろう。」

 「あっ…ふふっ…はいっ!お願いいたしますわ!」

 「何がおかしい…」

 「いえ!ただ…キノクニ様って、素直じゃなくて可愛いと思いまして…」

 そう言うと、マリアンは顔を真っ赤にしてうつむき、黙ってしまいました。

 「可愛いやて?!ぶほっ!わしゃしゃしゃしゃしゃ!!キノクニが…可愛いやてー!!わしゃしゃしゃ…」

 メキャッ!!!

 「ぎゃあああああ!!!」

 「やかましい…魔導師よ。おかしなことをほざくな。」

 「だっ…だって…そう思ったから言っただけですもの…わたくしの勝手でしょう?」

 「…ふん。好きにしろ…」

 「…ふふふっ。はいっ!好きにいたします!」

 マリアンは上機嫌で軽やかに、キノクニは主を背負って、グリモアは絶叫しつつ、昼下がりの平原を、都へと戻ります。

 平原のドラゴン達は主を引きずるキノクニ一行を、恐怖の眼差しで見つめ、こうべを垂れていました。

 平原の主は、今迄の主を倒した者がなる。

 マリアンは、知らず知らずにタツノオ平原の主となってしまっていました。

 そして、キノクニは数々のドラゴン達を屠ったことから、平原の殺戮者として、ドラゴン達に忌避されていました。

 とにかく、帰り道はとても静かで快適だったということです。

 続きは次回のお楽しみです。






 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...