のっぺら無双

やあ

文字の大きさ
上 下
36 / 43

記録三十六:備蓄庫にて〜最後の試練、アル中の話

しおりを挟む
 キノクニはウンザリした雰囲気を醸し出しながら、居住区でリーダーを探し歩いていました。

 『オッサーン!一緒に呑もーや!
 腐れ酒~!ひっくぅい!』

 『お前口くせぇんじゃ!
 腐っとるもん呑むなぁ!』

 『オッサンも物好きだなぁ!
 海賊になりたいなんてさぁ!』

 『ああ…ごめんなさい……許して…
 ひゃあ。…夢か…』

 海賊達は好き好きに騒ぎ、キノクニに絡んできます。

 それを無視して進んでいくと、トントンと背中を突かれました。

 「…?」

 『おい、オッサン!本気かよ?!』

 「…何がだ。」

 『しーっ!声がデカイ!…
 こっちに来い。』

 1人の海賊が話しかけてきて、キノクニを住居と住居の間の物陰に引っ張りこみます。

 『オッサン、海賊になるってのがどういうことか分かってんのか?
 俺らの仲間になるってことだぞ?』

 「…どういうことだ。」

 『それは…つまり……そのだな…』

 『おおい!オッサン!そんなところにいやがったのか!…何してんだ?』

 『あああ!り、リーダー!い、いえ、俺っち、オッサンとヤバイクスリでもやろうと思って…』

 『てめぇ!!アル中!まだシビレクラゲの粉末なんざスーパッパしてんのか!!
 いい加減、てめぇの頭蓋骨かち割ってやろうか?!』

 『ひいいい!!許してリーダー!』

 アル中と呼ばれた海賊は、悲鳴を上げ、一目散に逃げてしまいました。

 『ったく…アイツは酒が死ぬほど好きでな。
 あまりに呑んで仕事しやがらねぇから、酒を禁止にしたら、今度はヤク中になっちまった。
 アイツの言うことはまともに聞くなよ。』

 「…そうか。」

 『そんなことより、試練三を無事合格できたみてぇだなぁ!!
 最近行き詰まってやがる、メガネくんの刺激になればと思ったが、思った以上にいい刺激だったらしい!
 ケタケタケタ!!試練も残すところ、あと2つ…』

 ウーーーーーーーーーーー!!

 その時です。

 アジト中にサイレンの音が響きわたり、赤い光が随所で点滅し出しました。

 『このサイレンは… 
 A級の敵か!?』

 わー!きゃーー!!

 海賊達は、ドタバタカタカタ逃げまどっています。

 ___ザザッ…ピー…ガッ…うっうん…総員に告ぐ!ただ今、最下層備蓄庫において、脅威度A級の危険生物が、クルーを襲っているとの報告が上がった!
 総員、直ちに臨戦態勢、もしくは避難態勢をとれ!繰り返す…___

 『なんてこった…おい、オッサン!お前ぇは最下層に行ってくれ!
 俺はここで混乱している野郎どもを収める!!
 仲間を救ってやってくれ!
 この窮地を突破すれば、残りの試練は全て合格ということにして良い!
 キャプテンもきっとお許しになられる!』

 「なんだと?!」

 『ふっ。良いってことだ!
 特例だぜ!』

 リーダーは逃げまどっている海賊達を叩いて落ち着かせながら、眼窩を狭めて器用にウインクをしてきました。

 しかし、そんな特例などは全く望んでいないキノクニは、リーダーを睨みます。

 『わかるぜ…さすがのオッサンでも、A級の危険生物なんざ怖えだろう。
 だが、勇気を見せろ!海賊に一番必要なのは勇気だ!
 後で必ず、会おうぜ!!』

 そう言うと、リーダーは人混みならぬ骨混みに、怒鳴りながら消えて行ってしまいました。

 「…どないすんの?」

 「…こうなれば正々堂々と試練とやらを突破し、あの頭蓋骨をすり潰し、真正面から船を貰う。」

 キノクニは骸骨達がギュウギュウに詰まった出口を見て、この負のループから抜け出すことを諦めていました。

 「わしゃしゃしゃ!人生、腹をくくるんも大事や!」

 「人でも無い本に言われたくなど無い。」

 「おっ!良いツッコミやな!
 わしゃしゃしゃ!!」

 「…もう黙れ。」

 こうして、キノクニとグリモアは、最下層を目指し、通路を下降して行ったのでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最下層はかなり暗く、暗さなど関係ないグリモアが地形を鑑定しながら、慎重に進んでいました。

 キノクニが光魔法で照らすこともできたのですが、それでは危険生物とやらに見つかる可能性があるので、やめました。

 「…うん。ここは左右に分かれとる。どっち行く?」

 「…左だ。」

 キノクニは左に行きました。

 話し声や足音は、音魔法で消しているので、響かず、聞こえません。

 もちろん、気配も外套とフードのおかげで消えています。

 「あ、なんか広い部屋が見えるで…もうじき着くで!」

 キノクニは双剣を構えてゆっくりと部屋に入っていきました。

 「…何か見えるか。」

 「いや、食いもんの山だけや…他にはなんも…」

 『ああああ…』

 「!」

 「山の向こうや!」

 キノクニが足早に食料山の向こうに回りこむと、明かりがほんのりと灯った机があり、その机の下に頭蓋骨が落ちていました。

 『ああああ…やめて…やめてくれ…』

 「気ぃつけや、キノクニ。」

 「…」

 そして、キノクニはゆっくり近付き、その危険生物の正体を見ました。

 「キャン!」

 犬でした。

 どこから紛れ込んだのか、小さな白い、雑種犬です。

 「…」

 キノクニは思わず双剣を落としそうになりましたが、鎖が巻きついてくれてなんとか落とさずに済みます。

 「キャン!キャン!」

 「ちっこいな~。可愛いな~。
 犬コロちゃん!
 なんでこんなとこおるん?」

 「キャン!スンスンスンスン…」

 ペロペロペローッ

 『ぎゃああああああ!!やめてくれ!
 俺の肋骨!食わないで!!嫌だあああ!!』

 「…おい。鑑定だ。」

 「よしよしよしよし…ん?おう!」

__________________
 名前:なし

 種別:雑種犬 幼体 Lv.5
__________________

 「子犬や。紛れも無い子犬。」

 「…なんなのだコイツらは…」

 「キャンキャン!」

 すると、子犬は満足したのか、キノクニの脇を通って、部屋から出て行ってしまいました。

 しばらくして、放送が流れます。

 ___ガガッ…ピー…うんっ…総員に告ぐ!ただ今、A級危険生物がアジトから出て行ったことが確認された。
 総員、厳戒態勢を解け。繰り返す…___

 『あ…あああ…ありがとう!オッサン!アンタは命の恩人だ!
 本当にありがとう!!』

 「…そんな大げさなことでは無い。」  

 『なんて奴だ!自分の偉業を当然のごとく思ってやがる!
 アンタこそ本物の勇者だ!
 あんな奴ら勇者じゃねぇ!』

 「…何?勇者がいたのか?」

 『おおよ!俺たちの空飛ぶ船を寄越せと言って来やがったから、キャプテンがボコボコにしちまったんだ!
 まぁ…俺らは勇者どもにボコボコにされたけどな。』

 「いつの話だ…」

 『1週間ぐらい前か?
 消耗が激しかったから、最近は良く船を襲いに行くんだよ。
 ああ…オッサンが仲間になったら心強いぜ~…』

 「…」

 『おーい!大丈夫かー!?』

 『あっ!リーダー!』

 ガシャガシャと、赤服を数人引き連れたリーダーが、慌ただしく駆け寄ってきました。

 『おいオッサン!まさか無傷か!?
 無傷で犬を追っ払ったのか!!
 さすがは期待の超新星!!』

 『ひぃっ!リーダー!その名をあんまり叫けばねぇでくれ…』

 『ああん?!犬は犬だろうが!気持ちから負けてんじゃねぇよ!!
 おい野郎ども!コイツを医務室まで運んでやれ!
 肋骨がかじられてやがるからな!』

 『『ウィーーー!』』

 『そ、そっとだぞ?!そっとだ!
 …本当にありがとうな!オッサン!
 俺、オッサンのこと、死んで灰になるまで忘れねーよ!』

 「…」

 キノクニは黙って怪我人骸骨を見送ると、リーダーに向き直りました。

 「貴様らを勇者が襲ったらしいな。」

 『ん?ああ。まぁ、野郎どもは蹴散らされてたが、俺は1人腕を斬り飛ばしてやったぜ。
 まだまだ未熟な連中だった。
 最後はキャプテンが一発よ。
 …まぁ、そんなことよりだ。』

 リーダーはキノクニの手に何かを握らせます。
 それは、海のように青い宝石でした。

 『これで試練は全て合格だ!
 それを持って、今夜はお前の海賊になる儀式だ!
 ケタケタケタケタ!まさかたった1日で全ての試練を突破するとはなぁ!
 夜まで休んでろ!じゃあな!』

 そう言うと、リーダーは戻って行きました。

 「…少し話を聞かねばならん骸骨かわいる。」

 「せやな…」

 そう呟くと、キノクニは宝石を懐に仕舞い込み、居住区に登っていきました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その骸骨は塩湖のほとりに佇んでいました。

 グリモアの鑑定を使いに使って、やっと居場所を突き止めたのです。

 「おい。お前がアル中か?」

 『オ、オッサン!…試練、無事合格したんだってな。お、おめでとう…』

 「お前の話の続きを聞きにきた。」

 『えぇっ!?何のことだ!?』

 「とぼけるな。物陰で声を潜めて話そうとしたことだ。今夜、儀式とやらを受ける前に、お前の話を聞いておかねばならん。」

 『…オッサンは、海賊になりたいんじゃねぇのか…?』

 「…何故そんな疑問を持つ。」

 『いや、そのぅ…オッサン、ほとんど喋らねえだろ?んで、一言も海賊になりてぇとは言ってねぇ……
 もしかしたら、なんか別の目的があってここに来たんじゃねぇかと思ってな…
 例えば…キャプテンの魔法書とか…』

 「なんだと!!?」

 『うひぃいっ!!』

 キノクニは、思わずアル中に掴みかかってしまいました。

 アル中は悲鳴をあげますが、周りの海賊達はいつものことだと気にも止めません。

 「…こっちに来い。
 そこで話の続きを。」

 『ま、待って…殺さねぇでくれ…』

 キノクニは、アル中を物陰まで引きずっていくと、思い切り詰め寄り、グリモアを見せて言います。

 「殺さん。そんなことより話をしろ。
 その本はこんな本か…」

 『ああ…綺麗な本だなぁ…
 …宝石がハマってる…』

 「そらおおきに!」

 『ひゃああああ!?ほ、本が喋ったあああ!?』

 「わしゃしゃしゃ!!これでお相子やでー!オレもあんたら骸骨が動いとんのを見た時は、驚かされたんやからな!」

 「無駄な話をするな。しっかり見ろ。
 こんな本か?」

 『…あ、ああ。これほど黒くはなかったけど…灰色の本だったよ…この本とおんなじような宝石がハマってた…』

 「そうか…」

 キノクニはグリモアを腰のホルダーに戻しました。
 
 一体、この海賊団はなんなのでしょう?
 皆、骨だけの体で、不死かと思えば子犬に怯える始末…

 どうやら話は長くなりそうです。

 続きは次回のお楽しみです。


 

 
 
しおりを挟む

処理中です...