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第六話 買い物に行きたくない。

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 買い物に行きたくない。

 外はバケツをひっくり返したような大雨で、ごうごうと音をたてて雨が降る。

 けれど冷蔵庫の中には何もない。

 自分のお腹がぐぅと音をたてている。

 昨日も、その前も雨で買い物に行くのが億劫で、家の中にあるものをあさっては、うどんがあった!と、素麺があった!と、喜んではそれで凌いだ。

 けれども、もう、何もない。

 あるのは、いつ捨てようか悩んでいる腐っている何かだけだ。

 今日こそは買い物に行かねばなるまい。

 だが、あと一歩が出ない。

 それでも、行かねばなるまい。

 どうせ濡れるのだからと、膝たけの短パンと、シャツという軽装にサンダルを履く。

「いざ尋常に勝負!」

 気合いを入れて傘を指して歩いていくと、前を見ていなかったのが悪かった。

「うっわぁ!」

 足元に大きな巨大な穴があり、その中へとずるるるるっと落ちていった。

 今日もうちの家の玄関は異世界に繋がっていたらしい。どうせなら晴れていてくれれば良かったのにと思わず思ってしまう。

 泥だらけになりながら痛む背を押さえて起き上がると、穴の中はぬかるんではいるものの、歩いていけそうであった。

 傘はどうやら落ちる時に手を離してしまったようで、外に置いてきてしまったらしい。

 穴の中は土が発光しており明るかったが、そこで気がつく。

 何かに囲まれている。

「天が我らに勇者様を使わして下さった!」
 
 声が聞こえ、思わず返事を返してしまう。

「いえ、ただの主婦です。」

『主婦様ぁぁぁ!!万歳!!』

 その場にいた者達が声をあげ、胴上げをされると祭壇のような所へと運ばれ座らされ、目の前で蟻のような顔の生き物たちに土下座をされている。

「主婦様、我らをお救いください。」

「えーっと、話だけ、取り敢えず聞かせて下さい。」

「実は、我らの宝が何者かに奪われたのです。」

「宝とは?」

「それは天から落ちてきた丸く美しく、そして甘い、聖なる玉。大切に、大切に長年守ってきたのですが、突如として消えてしまったのです。」

 そう言うと、蟻達はしくしくと涙を流す。

「ほう。丸く、甘い玉。甘いと言う事は舐めたんですか?」

「え?、、、えぇっと、、そうですね。皆で交代に、ちょっとですよ?」

「ほう。ちょっと、、、。」

 そこに集まっているだけでもかなりの数の蟻がいる。

 数匹が私から目をそらす。

 うん。

 丸く甘い玉。

 飴ですね。

 飴ちゃんですね。

 舐めたら、無くなりますね。

「えー、聖なる玉は作れませんが、べっこう飴なら砂糖と水と火があれば出来るんじゃないですか?えっと、料理のできる方はいますか?」

 すると一匹の蟻が前へと進み出た。

「あの、趣味でなら。」

 すると蟻達がざわつき始める。

「あの変わり者。」

「変な道具を使うやつだ。」

「大丈夫か?」

 ざわざわとする声に、その蟻は形見の狭そうな様子で私を見る。

 なるほど、この世界では料理はまだ広がっていないのか。

 蟻、だもんな。

 その蟻は私をお手製のキッチンへと案内してくれると砂糖を目の前に出してくれた。

「この前天から落ちてきた時に取っておきました。」

「火は使えますか?」

「はい。ここのキッチンはしっかり作ってありますから。」 

 それを聞いて頷くと、フライパンに砂糖と水を入れて煮たたせていく。

 そして、後は固める。

 本当にこれであってんのか心配にはなるが、どうにか形には、なったかな?

「はい。べっこう飴の出来上がりです。」

「な?!なんと!?素晴らしいです!さすが主婦様!」

「いえ、それにたぶんこの方ならもっと美味しいもの作れると思いますよ?」

「え?」

「食材も道具もよく揃っている。もし美味しいものを願うなら、天からの授かり物ばかりではなく、この方の力も借りてみてはどうです?」

 その言葉に皆が固まるが、おずおずと一人が尋ねた。

「美味しいものを、作れるのか?」

「え?う、うん!作れる!」

 すると皆がその言葉に目を輝かせた。

「なら作ってみてくれ!」

「私にも作り方を教えて!」

「あ、ずるい!私も!」

 それからは料理教室のようであった。皆が楽しそうに料理をし、次々に机の上に並べられる。

 きっと彼らにはもう聖なる玉は必要ないだろう。

「主婦様のおかげです。ありがとうございます。」

 料理好きな蟻は嬉しそうにそう言った。

「いや、貴方の力ですよ。」

 好きなことを周りに否定されても続けることは容易ではなかったはずだ。

 それでも続けていた蟻がすごい。

 蟻は照れ臭そうに笑った。

 お土産にお重を作ってもらいかなりほくほくである。

 穴の外に出ると雨はあがって、虹がかかっていた。

 家に帰り、旦那さんが帰ってくると嬉しそうにお重を開けた。

「わぁ!きれい!」

 きれいに盛り付けられたお重には様々な種類の食べ物がきれいに盛り付けられていた。

 お仕事お疲れ様。

 美味しく召し上がれ。

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