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五話 ご主人様
門をたたいた私を出迎えてくれたのは、背の低い執事長であるという男性であった。白髪で眼鏡をかけている執事長は優し気な微笑みを浮かべると言った。
「こんにちは。私はセバスと申します。どのようなご用件ですかな?」
私は握りしめたチラシを出すと、どうにか背筋をまっすぐに伸ばして言った。
「あの、こんにちは。私はティナと申します。住み込みの下働きを募集していると聞きまして、働かせていただけないかとお伺いしました」
その言葉に、チラシと私とを交互に見たセバスさんは、にっこりと微笑みを浮かべると中へと入るように促してくれた。
使用人の通用門を通って中に入ると、外側から見ていたおどろおどろしさは消え失せ、手入れの行き届いた庭と美しい屋敷が目に映った。
どうして外から見た時には恐ろしいような印象を受けたのかが不思議なくらいであった。
「綺麗」
思わずそう呟くと、セバスさんはさらに嬉しそうに微笑みを浮かべると言った。
「素敵な人が来てくれて良かったです。では、少々こちらの部屋でお待ちください。ご主人様を呼んでまいります」
「え? ご主人様ですか?」
てっきりセバスさんが面接をしてくれると思っていたので驚くと、セバスさんは優しく微笑んでうなずくと部屋から出て行ってしまった。
私は部屋の中のどの位置で待っておこうかと思いながら、ソファの横に立ち、待つことにした。
けれど、十分経っても二十分経ってもご主人様は現れず、私は手持無沙汰になってしまい部屋の中にある調度品や壁紙、窓から見える長めなどをゆっくりとじっくり眺めながら空想を広げていた。
孤児院にいたころから、空想することは得意だった。空想していないと、時間はあまりに長く残酷で、だからこそ暇な時間というものが私は苦ではなかった。
小さな頃はクリフに反抗して殴られる度に空想に更けることもあった。殴られた後、私は反抗するから殴られるのだということを学び、出来るだけ逆らわないようになっていた。
こういう屋敷には妖精や、魔法があってもおかしくない。それくらいきれいだし、遠い国には魔法使いもいるというから非現実的でもない。
もしも妖精がいたならばきっといたずらをして、私を驚かせるだろうな。
そんなことを思っていると、いつの間にか机の上に温かな紅茶とおいしそうなお菓子が並べられていることに気付き、私は驚いた。
「え?」
いつ準備されたのだろうか。私が不思議に思っていると、今度は突然窓が開いて温かな風が外から入ってきた。
そしてピンク色の花の花弁が舞い込んできて、ソファや棚の上に積もってしまう。
「あら、あら。ふふふ。いたずらな妖精さんがいるのかしら」
私はきれいだな、なんてことを思いながら窓を閉めると、箒と塵取りがないだろうかと部屋を見回した。
すると、机の横に小さな箒と塵取りが設置されているのに気づいて、妖精のいたずらにいつでも対応できるようにだろうかなんてことを空想する。
とりあえずと部屋を箒ではわいていると、部屋の扉が開き、銀色の美しい髪の男性が、銀色の仮面をつけて現れた。
「……」
男性は何も言わずに私をじっと見つめ、私はご主人様だろうかと慌てて姿勢を整えると頭を下げた。
偉い人の前に立った時には、自分から口を開いてはいけないと聞いたことがあった。
「頭をあげたまえ。君が、面接に来た子かな? 名前と、何故ここで働こうと思ったのか動機をいいたまえ」
子、という表現に、自分は一体いくつに見られているのだろうかと思いながらも私は頭をあげて、出来るだけはきはきと言葉にした。
「ティナと申します。年は21です。不動産屋さんのおじさんに下働きをこのお屋敷が探しているという話を聞き、参りました。その、お恥ずかしいお話ですが、夫と離婚しまして、住む場所と働ける場所を探していたのです。体力はあります! その、あまり頭は良くないのですが、精一杯働きます!」
馬鹿正直にそう告げると、ご主人様は少し考えた様子でうなずくと言った。
「なるほど。子どもはいるかい?」
その言葉に、私はぐっとこぶしを握った。
欲しかったけれど、出来なかった。
私が口を開こうとした時、ご主人様の頭上から突然大量の青色の花弁が降り注ぎ、それにご主人様が埋もれる。
「え?」
思わず驚いて声をあげると、ご主人様がごほんと息をついた。
「こんにちは。私はセバスと申します。どのようなご用件ですかな?」
私は握りしめたチラシを出すと、どうにか背筋をまっすぐに伸ばして言った。
「あの、こんにちは。私はティナと申します。住み込みの下働きを募集していると聞きまして、働かせていただけないかとお伺いしました」
その言葉に、チラシと私とを交互に見たセバスさんは、にっこりと微笑みを浮かべると中へと入るように促してくれた。
使用人の通用門を通って中に入ると、外側から見ていたおどろおどろしさは消え失せ、手入れの行き届いた庭と美しい屋敷が目に映った。
どうして外から見た時には恐ろしいような印象を受けたのかが不思議なくらいであった。
「綺麗」
思わずそう呟くと、セバスさんはさらに嬉しそうに微笑みを浮かべると言った。
「素敵な人が来てくれて良かったです。では、少々こちらの部屋でお待ちください。ご主人様を呼んでまいります」
「え? ご主人様ですか?」
てっきりセバスさんが面接をしてくれると思っていたので驚くと、セバスさんは優しく微笑んでうなずくと部屋から出て行ってしまった。
私は部屋の中のどの位置で待っておこうかと思いながら、ソファの横に立ち、待つことにした。
けれど、十分経っても二十分経ってもご主人様は現れず、私は手持無沙汰になってしまい部屋の中にある調度品や壁紙、窓から見える長めなどをゆっくりとじっくり眺めながら空想を広げていた。
孤児院にいたころから、空想することは得意だった。空想していないと、時間はあまりに長く残酷で、だからこそ暇な時間というものが私は苦ではなかった。
小さな頃はクリフに反抗して殴られる度に空想に更けることもあった。殴られた後、私は反抗するから殴られるのだということを学び、出来るだけ逆らわないようになっていた。
こういう屋敷には妖精や、魔法があってもおかしくない。それくらいきれいだし、遠い国には魔法使いもいるというから非現実的でもない。
もしも妖精がいたならばきっといたずらをして、私を驚かせるだろうな。
そんなことを思っていると、いつの間にか机の上に温かな紅茶とおいしそうなお菓子が並べられていることに気付き、私は驚いた。
「え?」
いつ準備されたのだろうか。私が不思議に思っていると、今度は突然窓が開いて温かな風が外から入ってきた。
そしてピンク色の花の花弁が舞い込んできて、ソファや棚の上に積もってしまう。
「あら、あら。ふふふ。いたずらな妖精さんがいるのかしら」
私はきれいだな、なんてことを思いながら窓を閉めると、箒と塵取りがないだろうかと部屋を見回した。
すると、机の横に小さな箒と塵取りが設置されているのに気づいて、妖精のいたずらにいつでも対応できるようにだろうかなんてことを空想する。
とりあえずと部屋を箒ではわいていると、部屋の扉が開き、銀色の美しい髪の男性が、銀色の仮面をつけて現れた。
「……」
男性は何も言わずに私をじっと見つめ、私はご主人様だろうかと慌てて姿勢を整えると頭を下げた。
偉い人の前に立った時には、自分から口を開いてはいけないと聞いたことがあった。
「頭をあげたまえ。君が、面接に来た子かな? 名前と、何故ここで働こうと思ったのか動機をいいたまえ」
子、という表現に、自分は一体いくつに見られているのだろうかと思いながらも私は頭をあげて、出来るだけはきはきと言葉にした。
「ティナと申します。年は21です。不動産屋さんのおじさんに下働きをこのお屋敷が探しているという話を聞き、参りました。その、お恥ずかしいお話ですが、夫と離婚しまして、住む場所と働ける場所を探していたのです。体力はあります! その、あまり頭は良くないのですが、精一杯働きます!」
馬鹿正直にそう告げると、ご主人様は少し考えた様子でうなずくと言った。
「なるほど。子どもはいるかい?」
その言葉に、私はぐっとこぶしを握った。
欲しかったけれど、出来なかった。
私が口を開こうとした時、ご主人様の頭上から突然大量の青色の花弁が降り注ぎ、それにご主人様が埋もれる。
「え?」
思わず驚いて声をあげると、ご主人様がごほんと息をついた。
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