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十話 可愛い
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舞踏会というものはいつ来てもきらびやかなものである。ただし、今日のエラにとってはいつも見える景色とは全く違った。
「エラ嬢?」
エラは横に立ち、優しい微笑みで自分をエスコートしてくれるルイスを見て、心が満たされるのを感じながらほっと息をついた。
今まで、こんなにも幸せで、心路が満ち足りた舞踏会があっただろうか。
何回も来たことのある舞踏会のはずなのに、それが全く違った色を見せる。
こんなにも美しい場所だっただろうか。エラはルイスに微笑みを向けて言った。
「今日は、お仕事もあるのに、私に付き合ってくださってありがとうございます」
「ふふ。言っておくが騎士団所属の者で婚約者がいるものは皆、交代で舞踏会にも参加する権利があるのだぞ? やっと俺もこの権利を使うことが出来て嬉しく思っているんだ」
ウィンクされながらそう告げられ、エラはくすくすと笑いをこぼした。
舞踏会が楽しく思えて、今まで来ていた舞踏会が遠い記憶の彼方へと押し流されていく。
そんな寄り添う二人の姿を、ジャンとベティは見つけると、二人は鬼の形相でそれを睨みつけた。
「見つけたぞ」
「ルイス様ったら……あんな女のどこがいいの?」
二人はお互いの言葉を聞いておらず、それぞれが相手のことを睨みつけている。
足取りは確かにそろっているのに、二人の目的はばらばらであり、息が合っているのかあっていないのか。
「エラ!」
会場内に、ジャンの声が響き、周りにいた数人の視線がエラに集まった。
足音がしそうなほどに鼻息を荒くしたジャンがエラに向かってきており、エラは驚いて一歩後ろへと後づさった。
そんなエラを安心させるようにルイスはエラを支え、笑みを向けてからジャンとエラの間に立った。
「なっ。すまないが、僕はエラと話があるんだ。どいてくれ」
その言葉にエラは心臓が煩いくらいに鳴るのと同時に、頭の中にジャンに言われた言葉がどんどんとよみがえってくるのを感じていた。
『可愛くない』
『なんでお前なんかが僕の婚約者なんだ』
『はぁ。本当に邪魔だな』
『可愛くない、可愛げもない、趣味も悲惨。いいところが一つもないな』
頭の中でぐるぐると回り出すと不安になり、エラはルイスの手をぎゅっと握りしめた。
すると、安心するようにとルイスはそれをやさしく握り返してくれた。
「失礼だが、グレイ殿。元婚約者を呼び捨てにするのは失礼ではないか。今は俺の婚約者だ。無礼な態度は許しかねる」
冷静に、はっきりとそう告げられ、ジャンはいらだった口調で言った。
「と、トーランド殿と婚約したのは知っているが、これは僕とエラ……嬢との問題だ! どいてくれ」
ジャンの言葉に、ルイスは、堂々とした態度で言葉を返す。
「君とエラ嬢との間には話し合いは不要かと。両家ですでに話はすんでいるはず。見苦しいぞ」
「なっ!?」
顔をひきつらせたジャンを支えるようにベティは立ち、潤んだ瞳で言った。
「ジャン様は、ルイス様の為にと声をかけたのですよ? だって、エラ様って、ねぇ? あまりにも貴方には不釣り合いですもの」
ジャンはベティの声に後押しされるように言葉を発した。
「そ、そうだ! 言っておくがその女は可愛げなんて物は持ちえない女だぞ! 貴殿も、エラのどこが気に入って」
その言葉にすかさずルイスは、はっきりと述べた。
「エラ嬢は可愛い。それと呼び捨てにするな。不快だ」
「は?」
「え?」
ジャンとベティが目を丸くしているところで、ルイスは堂々と、声高らかに言った。
「エラ嬢は可愛い。ふわっと笑う姿も、少し怒ったような顔も、どれも可愛い!」
国の守護神と呼ばれる男の声は、舞踏会会場にいように響き渡り、皆がこちらを振り返っていた。
エラは顔を真っ赤に染め上げ、ルイスの腕に顔を隠す。
「ル、ルイス様……声が、大きいです……」
「あぁ。すまない。だが話をつけるべきだ。この男は目が腐っている」
ルイスの言葉にジャンの眉間にしわがよった。
「なんだと!? どこが可愛いというんだ! ベティの方が数十倍は可愛いだろう!」
その言葉にベティは嬉しそうに微笑み、自信のこもった瞳でルイスを見つめる。
ルイスはそれに肩をすくめた。
「人の好みは人それぞれだ。俺にはエラ嬢が一番かわいい。ただそれだけだ。それで、一体何なんだ。それぞれ婚約破棄がすんだ状況で、いちゃもんをつけてくる理由が分からない」
その言葉に、ベティは驚きと苛立ちの視線を向け、ジャンの顔は見る見るうちに赤くなった。
「エラ嬢?」
エラは横に立ち、優しい微笑みで自分をエスコートしてくれるルイスを見て、心が満たされるのを感じながらほっと息をついた。
今まで、こんなにも幸せで、心路が満ち足りた舞踏会があっただろうか。
何回も来たことのある舞踏会のはずなのに、それが全く違った色を見せる。
こんなにも美しい場所だっただろうか。エラはルイスに微笑みを向けて言った。
「今日は、お仕事もあるのに、私に付き合ってくださってありがとうございます」
「ふふ。言っておくが騎士団所属の者で婚約者がいるものは皆、交代で舞踏会にも参加する権利があるのだぞ? やっと俺もこの権利を使うことが出来て嬉しく思っているんだ」
ウィンクされながらそう告げられ、エラはくすくすと笑いをこぼした。
舞踏会が楽しく思えて、今まで来ていた舞踏会が遠い記憶の彼方へと押し流されていく。
そんな寄り添う二人の姿を、ジャンとベティは見つけると、二人は鬼の形相でそれを睨みつけた。
「見つけたぞ」
「ルイス様ったら……あんな女のどこがいいの?」
二人はお互いの言葉を聞いておらず、それぞれが相手のことを睨みつけている。
足取りは確かにそろっているのに、二人の目的はばらばらであり、息が合っているのかあっていないのか。
「エラ!」
会場内に、ジャンの声が響き、周りにいた数人の視線がエラに集まった。
足音がしそうなほどに鼻息を荒くしたジャンがエラに向かってきており、エラは驚いて一歩後ろへと後づさった。
そんなエラを安心させるようにルイスはエラを支え、笑みを向けてからジャンとエラの間に立った。
「なっ。すまないが、僕はエラと話があるんだ。どいてくれ」
その言葉にエラは心臓が煩いくらいに鳴るのと同時に、頭の中にジャンに言われた言葉がどんどんとよみがえってくるのを感じていた。
『可愛くない』
『なんでお前なんかが僕の婚約者なんだ』
『はぁ。本当に邪魔だな』
『可愛くない、可愛げもない、趣味も悲惨。いいところが一つもないな』
頭の中でぐるぐると回り出すと不安になり、エラはルイスの手をぎゅっと握りしめた。
すると、安心するようにとルイスはそれをやさしく握り返してくれた。
「失礼だが、グレイ殿。元婚約者を呼び捨てにするのは失礼ではないか。今は俺の婚約者だ。無礼な態度は許しかねる」
冷静に、はっきりとそう告げられ、ジャンはいらだった口調で言った。
「と、トーランド殿と婚約したのは知っているが、これは僕とエラ……嬢との問題だ! どいてくれ」
ジャンの言葉に、ルイスは、堂々とした態度で言葉を返す。
「君とエラ嬢との間には話し合いは不要かと。両家ですでに話はすんでいるはず。見苦しいぞ」
「なっ!?」
顔をひきつらせたジャンを支えるようにベティは立ち、潤んだ瞳で言った。
「ジャン様は、ルイス様の為にと声をかけたのですよ? だって、エラ様って、ねぇ? あまりにも貴方には不釣り合いですもの」
ジャンはベティの声に後押しされるように言葉を発した。
「そ、そうだ! 言っておくがその女は可愛げなんて物は持ちえない女だぞ! 貴殿も、エラのどこが気に入って」
その言葉にすかさずルイスは、はっきりと述べた。
「エラ嬢は可愛い。それと呼び捨てにするな。不快だ」
「は?」
「え?」
ジャンとベティが目を丸くしているところで、ルイスは堂々と、声高らかに言った。
「エラ嬢は可愛い。ふわっと笑う姿も、少し怒ったような顔も、どれも可愛い!」
国の守護神と呼ばれる男の声は、舞踏会会場にいように響き渡り、皆がこちらを振り返っていた。
エラは顔を真っ赤に染め上げ、ルイスの腕に顔を隠す。
「ル、ルイス様……声が、大きいです……」
「あぁ。すまない。だが話をつけるべきだ。この男は目が腐っている」
ルイスの言葉にジャンの眉間にしわがよった。
「なんだと!? どこが可愛いというんだ! ベティの方が数十倍は可愛いだろう!」
その言葉にベティは嬉しそうに微笑み、自信のこもった瞳でルイスを見つめる。
ルイスはそれに肩をすくめた。
「人の好みは人それぞれだ。俺にはエラ嬢が一番かわいい。ただそれだけだ。それで、一体何なんだ。それぞれ婚約破棄がすんだ状況で、いちゃもんをつけてくる理由が分からない」
その言葉に、ベティは驚きと苛立ちの視線を向け、ジャンの顔は見る見るうちに赤くなった。
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