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十一話 ざまぁ
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「トーランド殿! 僕はさっきも言ったが、エラに話があるんだ! 君は関係ないだろう!」
怒鳴るような声に、エラはびくりと肩を震わせた。
ルイスはエラが怖がっていることに気づくと、ジャンを睨みつけた。
その瞳は鋭く、ジャンは途端に先ほどの強気な様子はどこへやら、視線を泳がせる。
「ではここで話をすればいいだろう」
周囲はすでに会話に聞き耳をたて、皆が野次馬状態である。
引くに引けなくなったジャンは、エラを睨みつけると言った。
「エラ! お前は自分が可愛くないっていうのが原因のくせに、そちらから婚約破棄するとはどういうことだ! しかも慰謝料も! 僕はお前のせいで父上に叱られたのだぞ! 僕が婚約破棄を言い渡したのに!!!」
その言葉に情報を正しく得ていない周囲の人間たちは内心ざわつく。
まだエラが婚約破棄された側だという認識の者たちがいたからだ。しかし今のジャンの言葉で、ジャンが婚約破棄されたというのが、周知の事実に変わる。
つまり、非があったのは、ジャンということが明確になったのだ。
しかも言い分の酷さに、グレイ侯爵家は大丈夫かという不安がよぎる。
エラはジャンの言葉に勇気を振り絞ると、ルイスの手をぎゅっと握りしめて、ルイスの後ろから一歩前にでて、真っすぐにジャンを見つめ言葉を返した。
「すでに、両家にて話し合いは終わっております。グレイ侯爵家側に過失があったことは間違いないと、グレイ侯爵から謝罪も受けています!」
遠目からしかエラの姿を見ていなかったジャンは、ルイスの後ろから姿を現し、真っすぐに自分を見つめてくるエラを見て、内心驚いていた。
何故ならば、エラが可愛かったからである。
今までエラを可愛いとジャンは思ったことがなかった。けれど、今日のエラは美しく着飾り、そしてルイスに視線を向けるとかすかに微笑む。
輝いて見えて、ジャンは動揺した。
「な……」
「え?」
ベティは驚いたような顔をし、そしてベティはジャンを見る。
「そんな話、ベティは聞いていないわ。ジャン様、どういうことですの?」
ベティは今の会話から、ジャンの地位の危さを嗅ぎ取ったのだろう。先ほどまで組んでいた手をすっと離しているのが見える。
ジャンは今更エラが可愛く見えたからと言ってなんだと頭を振ると、はっきりと言った。
「父上が謝った? 僕は悪くないのにか!? ふざけるな! エラ! 全部お前が悪いのに!」
ジャンの睨みつけるようなその視線をエラは勇気をもって受けるとはっきりと言った。
「婚約者がいる身の上で、ベティ嬢と懇意にしているということは、周知の事実でしたし、こちらに過失はありませんでした。慰謝料をもらう権利も十分にあります。何故、今更元婚約者にそんなことを言われなければならないのですか!」
「なっ!? だってお前が可愛くないのが」
可愛くないと言おうとして、目の前にいるエラが可愛く見えて、ジャンは顔を引きつらせる。
「えぇ。貴方にとっては私は可愛くない女だったでしょう。ですがね、婚約者たるもの、相手の為に苦言を呈すのは当たり前です。良い言葉ばかり貴方にささやき、肉体的な欲望を満たすことが婚約者の務めではありません!」
「な!? おおおおお前、何を!?」
「私が何も知らないとでも? 貴方とベティ嬢が、どのようなご関係なのかは、知っております。それに、社交界でもベティ様の……そうした噂というか事実というか、そういうのは、皆様知っておりましてよ」
「え?」
「え?」
ジャンとベティが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。ジャンはベティへと視線を移し、ベティは周囲を見回し皆が自分から視線を反らすのを見て顔を一気に顔を赤らめた。
「べ、ベティ? え? ま、まさか……僕以外にも……?」
「そ、そんな。ベティにはジャン様だけで……」
そこで、周囲のこそこそという声が、異様に響いて聞こえ始める。
『ほら、男爵家の次男坊の……』
『たしか、商人の方とも……』
『子爵家の次男坊と三男坊とも関係をもったとか……』
様々な声が聞こえ、ベティはぷるぷると震えながら顔を真っ赤に染め上げ始める。
『しかも、どの家も子どもとも結局破局したらしいぞ……ベティ嬢の浮気で』
『さすが、社交界の薔薇。愛がいくつもあるのね……』
皮肉った声に、ジャンは一気に顔を青ざめさせてベティと周囲を見て、それからルイスとエラの寄り添う姿を見る。
愛とは。
ジャンは父の言葉が脳裏をよぎっていく。
そして気づく。
エラは可愛くなかったのか? ならば何故、今は可愛く見えるのだ?
ルイスがエラを支え、エラはそれに安心するように身を任せている。
違う。違う。違う。
ベティと自分も愛をはぐくんでいたはず……
「ベティ。嘘だろ……僕は君をしん……」
信じるという言葉が、ジャンの口から出てこない。
ジャンは拳を握り、ルイスとエラを見て悟った。
自分が選び取った愛とは紛い物であり、自分の目は節穴であると。
「ジャン様! べ、ベティには、ジャン様しかおりません! ベティは」
「……うん……」
先ほど手をそっと離されていたことを、ジャンは気づき、そしてルイスとエラに頭を下げた。
「……すみませんでした……」
力のないその言葉に、ルイスは、とどめを刺す。
「エラ嬢は可愛い。ふっ」
ふらつくジャンと、ベティはこそこそと、その場から去っていったのであった。
怒鳴るような声に、エラはびくりと肩を震わせた。
ルイスはエラが怖がっていることに気づくと、ジャンを睨みつけた。
その瞳は鋭く、ジャンは途端に先ほどの強気な様子はどこへやら、視線を泳がせる。
「ではここで話をすればいいだろう」
周囲はすでに会話に聞き耳をたて、皆が野次馬状態である。
引くに引けなくなったジャンは、エラを睨みつけると言った。
「エラ! お前は自分が可愛くないっていうのが原因のくせに、そちらから婚約破棄するとはどういうことだ! しかも慰謝料も! 僕はお前のせいで父上に叱られたのだぞ! 僕が婚約破棄を言い渡したのに!!!」
その言葉に情報を正しく得ていない周囲の人間たちは内心ざわつく。
まだエラが婚約破棄された側だという認識の者たちがいたからだ。しかし今のジャンの言葉で、ジャンが婚約破棄されたというのが、周知の事実に変わる。
つまり、非があったのは、ジャンということが明確になったのだ。
しかも言い分の酷さに、グレイ侯爵家は大丈夫かという不安がよぎる。
エラはジャンの言葉に勇気を振り絞ると、ルイスの手をぎゅっと握りしめて、ルイスの後ろから一歩前にでて、真っすぐにジャンを見つめ言葉を返した。
「すでに、両家にて話し合いは終わっております。グレイ侯爵家側に過失があったことは間違いないと、グレイ侯爵から謝罪も受けています!」
遠目からしかエラの姿を見ていなかったジャンは、ルイスの後ろから姿を現し、真っすぐに自分を見つめてくるエラを見て、内心驚いていた。
何故ならば、エラが可愛かったからである。
今までエラを可愛いとジャンは思ったことがなかった。けれど、今日のエラは美しく着飾り、そしてルイスに視線を向けるとかすかに微笑む。
輝いて見えて、ジャンは動揺した。
「な……」
「え?」
ベティは驚いたような顔をし、そしてベティはジャンを見る。
「そんな話、ベティは聞いていないわ。ジャン様、どういうことですの?」
ベティは今の会話から、ジャンの地位の危さを嗅ぎ取ったのだろう。先ほどまで組んでいた手をすっと離しているのが見える。
ジャンは今更エラが可愛く見えたからと言ってなんだと頭を振ると、はっきりと言った。
「父上が謝った? 僕は悪くないのにか!? ふざけるな! エラ! 全部お前が悪いのに!」
ジャンの睨みつけるようなその視線をエラは勇気をもって受けるとはっきりと言った。
「婚約者がいる身の上で、ベティ嬢と懇意にしているということは、周知の事実でしたし、こちらに過失はありませんでした。慰謝料をもらう権利も十分にあります。何故、今更元婚約者にそんなことを言われなければならないのですか!」
「なっ!? だってお前が可愛くないのが」
可愛くないと言おうとして、目の前にいるエラが可愛く見えて、ジャンは顔を引きつらせる。
「えぇ。貴方にとっては私は可愛くない女だったでしょう。ですがね、婚約者たるもの、相手の為に苦言を呈すのは当たり前です。良い言葉ばかり貴方にささやき、肉体的な欲望を満たすことが婚約者の務めではありません!」
「な!? おおおおお前、何を!?」
「私が何も知らないとでも? 貴方とベティ嬢が、どのようなご関係なのかは、知っております。それに、社交界でもベティ様の……そうした噂というか事実というか、そういうのは、皆様知っておりましてよ」
「え?」
「え?」
ジャンとベティが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。ジャンはベティへと視線を移し、ベティは周囲を見回し皆が自分から視線を反らすのを見て顔を一気に顔を赤らめた。
「べ、ベティ? え? ま、まさか……僕以外にも……?」
「そ、そんな。ベティにはジャン様だけで……」
そこで、周囲のこそこそという声が、異様に響いて聞こえ始める。
『ほら、男爵家の次男坊の……』
『たしか、商人の方とも……』
『子爵家の次男坊と三男坊とも関係をもったとか……』
様々な声が聞こえ、ベティはぷるぷると震えながら顔を真っ赤に染め上げ始める。
『しかも、どの家も子どもとも結局破局したらしいぞ……ベティ嬢の浮気で』
『さすが、社交界の薔薇。愛がいくつもあるのね……』
皮肉った声に、ジャンは一気に顔を青ざめさせてベティと周囲を見て、それからルイスとエラの寄り添う姿を見る。
愛とは。
ジャンは父の言葉が脳裏をよぎっていく。
そして気づく。
エラは可愛くなかったのか? ならば何故、今は可愛く見えるのだ?
ルイスがエラを支え、エラはそれに安心するように身を任せている。
違う。違う。違う。
ベティと自分も愛をはぐくんでいたはず……
「ベティ。嘘だろ……僕は君をしん……」
信じるという言葉が、ジャンの口から出てこない。
ジャンは拳を握り、ルイスとエラを見て悟った。
自分が選び取った愛とは紛い物であり、自分の目は節穴であると。
「ジャン様! べ、ベティには、ジャン様しかおりません! ベティは」
「……うん……」
先ほど手をそっと離されていたことを、ジャンは気づき、そしてルイスとエラに頭を下げた。
「……すみませんでした……」
力のないその言葉に、ルイスは、とどめを刺す。
「エラ嬢は可愛い。ふっ」
ふらつくジャンと、ベティはこそこそと、その場から去っていったのであった。
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