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六話
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フィオーナは、じっと目の前に立つ黒目黒髪の美しい美丈夫を見上げていた。
メイドと執事から自己紹介があり、親切そうなその雰囲気に安堵したフィオーナは、その後すぐに花嫁衣装から動きやすいドレスへと着替えをメイドを手伝ってもらい行った。
髪型もドレスに合わせて変え、今は柔らかな髪を横に流すように結ってもらい、先程までの印象とはまた違って見えるようにしたのだ。
さりげなく自分に興味をもってほしいというフィオーナなりのアピールだったのだが、部屋に来た人物を見て思わず顔をしかめてしまう。
まるで黒曜石のようなその凛とした美しさは人の形をとっていようとも人間とは違う。
背もフィオーナよりも遥かに高く、着ている服は騎士のようであるが、施されている金細工は見事なものであった。
(魔王様が案内してくださると思っていたのに、この美丈夫は一体どなたかしら?)
(何故そんなに眉間にシワを寄せて見つめてくる?)
二人の間に沈黙が落ちる。
魔王はゆっくりと口を開いた。
「城を案内する。ついてこい。」
フィオーナは眉間にさらにシワを寄せた。
(魔王様のこえにそっくりだわ。・・魔王様の、親族の方かしら?人の方もいらっしゃるのね。)
魔王がまさか人の姿になれるなどと想像もしていなかったフィオーナはそう結論付けると、眉間のシワを消してにこりと笑みを浮かべた。
「その、魔王様は?・・・あの、貴方のお名前を聞いても構いませんか?」
魔王は今の問いかけに違和感を覚えたものの、名前を聞かれ確かに名乗っていなかったと口を開いた。
「アルベルトだ。」
魔王ことアルベルトにとって自らの姿が狼のような姿と人の姿とに変わることは常識であり説明するという認識はない。
「アルベルト様、ですか。」
「行くぞ。」
「え?あ、はい。」
(魔王様に案内を頼まれた、ということかしら。とにかく下手に口答えはしない方が得策ね。)
アルベルトは、フィオーナがそんなことを考えているなど知りもせず、城の廊下を、どこから案内をしたものかと思いながら歩くのであった。
二人は終始無言で廊下を歩き、そして、アルベルトは簡潔に場所の説明を行っていった。
フィオーナはアルベルトを案内役の側近か誰かなのだろうと勝手に位置付けると、気になることを質問しながら、共にあるいていく。
その姿は、結婚をする二人、というよりも、まるで仕事をする二人という雰囲気であり、執事やメイドらは遠目から心配そうに顔を覗かせるのであった。
そして、フィオーナの勘違いに気づくものは、現時点を持っては誰もいなかった。
メイドと執事から自己紹介があり、親切そうなその雰囲気に安堵したフィオーナは、その後すぐに花嫁衣装から動きやすいドレスへと着替えをメイドを手伝ってもらい行った。
髪型もドレスに合わせて変え、今は柔らかな髪を横に流すように結ってもらい、先程までの印象とはまた違って見えるようにしたのだ。
さりげなく自分に興味をもってほしいというフィオーナなりのアピールだったのだが、部屋に来た人物を見て思わず顔をしかめてしまう。
まるで黒曜石のようなその凛とした美しさは人の形をとっていようとも人間とは違う。
背もフィオーナよりも遥かに高く、着ている服は騎士のようであるが、施されている金細工は見事なものであった。
(魔王様が案内してくださると思っていたのに、この美丈夫は一体どなたかしら?)
(何故そんなに眉間にシワを寄せて見つめてくる?)
二人の間に沈黙が落ちる。
魔王はゆっくりと口を開いた。
「城を案内する。ついてこい。」
フィオーナは眉間にさらにシワを寄せた。
(魔王様のこえにそっくりだわ。・・魔王様の、親族の方かしら?人の方もいらっしゃるのね。)
魔王がまさか人の姿になれるなどと想像もしていなかったフィオーナはそう結論付けると、眉間のシワを消してにこりと笑みを浮かべた。
「その、魔王様は?・・・あの、貴方のお名前を聞いても構いませんか?」
魔王は今の問いかけに違和感を覚えたものの、名前を聞かれ確かに名乗っていなかったと口を開いた。
「アルベルトだ。」
魔王ことアルベルトにとって自らの姿が狼のような姿と人の姿とに変わることは常識であり説明するという認識はない。
「アルベルト様、ですか。」
「行くぞ。」
「え?あ、はい。」
(魔王様に案内を頼まれた、ということかしら。とにかく下手に口答えはしない方が得策ね。)
アルベルトは、フィオーナがそんなことを考えているなど知りもせず、城の廊下を、どこから案内をしたものかと思いながら歩くのであった。
二人は終始無言で廊下を歩き、そして、アルベルトは簡潔に場所の説明を行っていった。
フィオーナはアルベルトを案内役の側近か誰かなのだろうと勝手に位置付けると、気になることを質問しながら、共にあるいていく。
その姿は、結婚をする二人、というよりも、まるで仕事をする二人という雰囲気であり、執事やメイドらは遠目から心配そうに顔を覗かせるのであった。
そして、フィオーナの勘違いに気づくものは、現時点を持っては誰もいなかった。
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