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十話
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炎が躍る。
四大貴族にして劫火のアナスタシアと呼ばれる恐ろしき魔族の令嬢であった。
口を閉じてさえいれば、こぞって魔族の男達は彼女に求婚しただろう。だが、彼女の正体を魔族の男達は知っているため、そんな男は一人としていなかった。
口を開けば毒ばかり。
魔王以外の男を虫けらと称し、女達を蠅と称する。
そんな彼女は魔族の皆から煙たがられる存在であり、近寄れば命がないとさえ言われる。
「逃げろ!アナスタシアが来たぞ!」
そして今まさに、近寄れば命がないのではないかと思われる状況が起こっていた。
町を闊歩するアナスタシアは着実に城へと向かっており、それを止めようとする魔族騎士達を次々に倒して言っていた。
否。
倒していると言うよりも、勝手に騎士達が倒れていくのである。
その様子を見て、騎士の指揮を執っていたカラシュは双眼鏡でアナスタシアに視線を向けながらも口を開け、呆然としていた。
「バカな・・・あの火しか扱うことの出来ない、馬鹿の一つ覚えと称されていたアナスタシア様が…魅了の魔法を意図もたやすく操っているだと?!」
望遠鏡をのぞくとそこに映るのは、自らアナスタシアの前に膝をつき、うっとりとした瞳で彼女を見つめる男達の姿であった。
だが当の本人のアナスタシアはそれに気をよくするでもなく、怒りに満ちた瞳と魔力を放出しながらどんどんと城へと進んでくるのである。
カラシュは己の翼を広げると、魔王のいる城の頂点へと飛び、そして魔王に言った。
「申し訳ございません。この祝いの席に・・・」
「良い。」
アルベルトは美しい黒と金との装飾のなされた正装に身を包み、アナスタシアの方へと視線を向けて、眉間にしわを寄せた。
「あれは・・本当にアナスタシアか?」
その言葉に同意するように、カラシュはうなずいた。
「本当に疑ってしまいます。魅了の魔法などアナスタシア様には使えないと思っていましたが・・・ですが、見た目は完全にアナスタシア様です。」
確かに見た目はアナスタシアで間違いがない。
けれど、纏う魔力の使い方、その動き、歩き方を見て、アルベルトの眉間のシワはどんどんと深くなる。
「魔王様。私自ら行って収めてまいります。どうか、花嫁様の傍にいて下さい。」
「・・・あぁ。」
アルベルトはうなずくと、飛んでいくカラシュを見送るとその様子を見つめる。
カラシュはアナスタシアの前へと降り立つと、怒気を露わにするアナスタシアへと優しげに、出来るだけ落ち着かせるように声をかけた。
「アナスタシア様。どうか、お気持ちをお鎮目下さい。」
今日はアルベルトの結婚式である。出来るだけ穏便に済ませて、結婚式はつつがなく行いたいとカラシュは思っていたからこそ優しげに声をかけたのだが、次の瞬間背筋が凍るような気がした。
何かの術が弾けるようにしてアナスタシアから発せられる。
「カラシュ様・・・・私をアナスタシアと呼ばないで。」
自分の名前が認識されていたのだなと、凍る背筋に汗が流れ落ちるのを感じながらカラシュは思った。
その時、アナスタシアの姿になっていたフィオーナは突然声が出るようになったことに内心驚いていた。
アナスタシアの思惑とは異なり、フィオーナはアナスタシアの魔力を本人よりも器用に扱い、無意識のうちに自身にさせられた声がでないという簡単な魔法など打ち消してしまった。
その事に本人はもちろん気づいてもいない。
四大貴族にして劫火のアナスタシアと呼ばれる恐ろしき魔族の令嬢であった。
口を閉じてさえいれば、こぞって魔族の男達は彼女に求婚しただろう。だが、彼女の正体を魔族の男達は知っているため、そんな男は一人としていなかった。
口を開けば毒ばかり。
魔王以外の男を虫けらと称し、女達を蠅と称する。
そんな彼女は魔族の皆から煙たがられる存在であり、近寄れば命がないとさえ言われる。
「逃げろ!アナスタシアが来たぞ!」
そして今まさに、近寄れば命がないのではないかと思われる状況が起こっていた。
町を闊歩するアナスタシアは着実に城へと向かっており、それを止めようとする魔族騎士達を次々に倒して言っていた。
否。
倒していると言うよりも、勝手に騎士達が倒れていくのである。
その様子を見て、騎士の指揮を執っていたカラシュは双眼鏡でアナスタシアに視線を向けながらも口を開け、呆然としていた。
「バカな・・・あの火しか扱うことの出来ない、馬鹿の一つ覚えと称されていたアナスタシア様が…魅了の魔法を意図もたやすく操っているだと?!」
望遠鏡をのぞくとそこに映るのは、自らアナスタシアの前に膝をつき、うっとりとした瞳で彼女を見つめる男達の姿であった。
だが当の本人のアナスタシアはそれに気をよくするでもなく、怒りに満ちた瞳と魔力を放出しながらどんどんと城へと進んでくるのである。
カラシュは己の翼を広げると、魔王のいる城の頂点へと飛び、そして魔王に言った。
「申し訳ございません。この祝いの席に・・・」
「良い。」
アルベルトは美しい黒と金との装飾のなされた正装に身を包み、アナスタシアの方へと視線を向けて、眉間にしわを寄せた。
「あれは・・本当にアナスタシアか?」
その言葉に同意するように、カラシュはうなずいた。
「本当に疑ってしまいます。魅了の魔法などアナスタシア様には使えないと思っていましたが・・・ですが、見た目は完全にアナスタシア様です。」
確かに見た目はアナスタシアで間違いがない。
けれど、纏う魔力の使い方、その動き、歩き方を見て、アルベルトの眉間のシワはどんどんと深くなる。
「魔王様。私自ら行って収めてまいります。どうか、花嫁様の傍にいて下さい。」
「・・・あぁ。」
アルベルトはうなずくと、飛んでいくカラシュを見送るとその様子を見つめる。
カラシュはアナスタシアの前へと降り立つと、怒気を露わにするアナスタシアへと優しげに、出来るだけ落ち着かせるように声をかけた。
「アナスタシア様。どうか、お気持ちをお鎮目下さい。」
今日はアルベルトの結婚式である。出来るだけ穏便に済ませて、結婚式はつつがなく行いたいとカラシュは思っていたからこそ優しげに声をかけたのだが、次の瞬間背筋が凍るような気がした。
何かの術が弾けるようにしてアナスタシアから発せられる。
「カラシュ様・・・・私をアナスタシアと呼ばないで。」
自分の名前が認識されていたのだなと、凍る背筋に汗が流れ落ちるのを感じながらカラシュは思った。
その時、アナスタシアの姿になっていたフィオーナは突然声が出るようになったことに内心驚いていた。
アナスタシアの思惑とは異なり、フィオーナはアナスタシアの魔力を本人よりも器用に扱い、無意識のうちに自身にさせられた声がでないという簡単な魔法など打ち消してしまった。
その事に本人はもちろん気づいてもいない。
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