【完結】私の愛しの魔王様

かのん

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十一話

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 カラシュと向き合っていたフィオーナは、カラシュの表情がいつもよりも固く、それでいてこちらに警戒している姿にさらに腹立たしく思っていた。

 アナスタシアとは一体何者なのかもわからず。

 先ほどから「アナスタシアから逃げろー!」という声が聞こえる度にイラッとする自分がいた。

 この女はそれほどまでに恐れられる存在なのかと思いと、先ほどから近寄ってきては勝手にバタバタと倒れていく男達も奇妙であり、うっとりとした瞳で見られて気持ち悪さを感じていた。

(一体この女何者なのよ。しかもさっきから何なのよ。皆して。私何もしていないのに!)

 フィオーナは唇を尖らせると、カラシュに向かって声を上げた。

「私はフィオーナよ!この女、アナスタシアとかいう女に体を入れ替えられたの!」

 カラシュはその言葉に頬を引きつらせると言った。

「アナスタシア様。あの・・・そんな事、信じるわけないでしょう?」

「本当によ!私は、フィオーナよ!」

 カラシュは可愛そうなものを見る瞳をフィオーナに向けると、子どもに言い聞かせるように優しい猫なで声を出し始めた。

「アナスタシア様。あのですねぇ、そんな事をしてもね、どうにもならないことくらい、貴方だって分かっているでしょう?」

「その猫なで声やめなさいよ。気持ちが悪いわ!」

 気持ちが悪いと言われたカラシュはむっと顔を歪ませると、はっきりとした口調に切り替えていった。

「とにかく、何と言おうが、貴方は大人しくすべきです。本当は無理やりは嫌ですが、仕方ありませんね。」

「どうするつもりよ!」

「大人しくしていただきます。」

 次の瞬間フィオーナの両腕の周りに黒い光がぐるぐると回転し始め、そして、足の周りにも同じように光が回転し始める。

「戒めの鎖よ。魔力を封じよ。」

 カラシュの声一つで、その光はフィオーナの両腕と両足を拘束し、そしてその重みでフィオーナは膝をついた。

「うっ・・・」

「牢屋へと連れて行かせていただきますね。」

「い、嫌よ!」

「あ!こら!」

 フィオーナは思い両足をどうにか動かし、カラシュを押しのけて町の広場へと駆けこんだ。

 その瞬間に、その場が大きな歓声で包まれ、フィオーナは目を丸くする。

「一体・・・何!?」

 見上げれば、城が見えた。

 そして、そこに見たくない人が見える。

「まさか・・・」

 人々に笑顔で手を振るフィオーナの姿をしたアナスタシアがいた。

 そして、その横には、美しい黒い毛並を風になびかせる魔王の姿があった。

 フィオーナの中の怒りが、次第に小さくなり始める。

 その代りに胸の中に、ジワリと痛みが広がっていく。

「・・・何で・・・」

 魔王は気づかなかったのだ。

 フィオーナとアナスタシアが入れ替わっているという事に、気づかなかったのだ。

 その現実が、フィオーナの胸を押しつぶそうとする。

「酷い・・・」

 フィオーナの瞳に、大粒の涙が溢れた。

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