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四話 義弟になった天使のような子
しおりを挟むルイスがランドット家に養子に来たのは、アゼフと婚約してしばらく経った頃だった。
父に連れられてランドット家に来たばかりの頃のルイスは、とても小さくて、それでいて痩せていた。
でもにっこりとほほ笑む姿は天使のように可愛らしくて、スカーレットは自分に弟が出来たことを心から喜んだのだ。
「これからよろしくね、ルイス。」
「はい。スカーレットお姉様。」
いつもにこにことほほ笑んでいるルイスは、スカーレットが誘えばどこへでも後ろからついてきた。
中庭を探検するのにも、図書室へと行くのも、屋敷を抜け出して下町に遊びに出かけるのにも。
一つも文句を言わず、いつもにこにことしながらついてきた。
最初こそ嬉しかったスカーレットだったけれども、幼くても、それがおかしなことくらい分かる。
だからこそ、スカーレットはルイスと一緒に暮らし始めてしばらく経ったある日の夜、ルイスの部屋を訪れた。
内緒で二人きりでなら、何故ルイスがわがままを言わないのか理由を離してくれると思ったのだ。
けれど、こっそりと部屋に入ったスカーレットがしーっと指でルイスに示して見せた途端、ルイスの表情が凍りついたのだ。
いつもはにこにことしているルイスから表情が消え、静かに、ベッドの上へと座った。
その様子にスカーレットは驚きながらもベッドに座るルイスへと手を伸ばした。
びくっとルイスの体が震え、そしてぎこちない笑顔を浮かべた。
「い……良い子にするので……ゆ……許して下さい」
意味が分からなかった。
スカーレットは、ただルイスと話がしたかっただけである。
それなのに、悪いことなどしていないルイスが何故許しを請うのか。
スカーレットの頭の中は混乱した後に、父が小さな声で言って居た一言を思い出す。
『優しくしてあげなさい。実家では、いろいろあったようだから』
いろいろとはなんだったのだろうか。
何故父は言葉を濁したのだろうか。
スカーレットは幸せな家庭で、幸せに愛情を受けて育っていて、だからこそいくら想像してもそのいろいろが分からなかった。
けれど、ルイスの様子を見た時に、気づいた。
ルイスがずっと良い子なのは、そのいろいろがきっと原因であると。
スカーレットはそれを想像して、瞳から大粒の涙をぼたぼたと流すと、ベッドに座り身を固くするルイスをぎゅっと抱きしめた。
「ごめん……怖い思いさせたね……」
「……お姉様?」
未だに震えるルイスを、スカーレットはぎゅっと抱きしめた。
「うん。私はルイスのお姉様だから……絶対、どんなことがあっても、ルイスに酷いことはしないよ。嫌なこともしない。私はずっとルイスのお姉様だから!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、スカーレットは思った言葉を全て言葉にした。
「ルイスはいつも笑っていて天使みたいに可愛いけれど、でも、お姉様には我儘いってもいいよ。」
「え?」
「お姉様だからね。弟には優しくするの。だから我儘も、嫌なことも、怒ることも、全部、ルイスは自由にしていいんだよ。もしルイスをいじめるやつがいたら、お姉様が許さないから!」
ルイスはその後、何も言わなかった。
けれどスカーレットの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
その日からルイスは少しずつスカーレットに我儘を言うようになったし、いたずらもするようになった。
そしてスカーレットは、ルイスの姉であり続けようとした。
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