21 / 54
第二十一話
しおりを挟む城下街の散策からしばらく経った休日ある朝、オーレリアは一人花に水やりをしながら笑みを浮かべていた。
花畑の花々は、オーレリアにたっぷりと水をもらいきらきらと輝いている。
『キレイだねぇ!』
『この庭は最高だよ!』
『あー。癒やされる~。』
妖精達は賑やかに話をしながら、まるで花の蜜を集める鉢のように、忙しなく飛び回っている。
妖精が匂いを嗅いだ花は、不思議と少し光って見えて、オーレリアは妖精の魔法のようだと笑みを深めた。
「おはようございます。オーレリア嬢。」
レスターに後ろから声をかけられたオーレリアは、振り返ると、クスリと笑いを漏らして挨拶を返した。
「おはようございます。レスター様。」
あの下街を散策して以来、妖精達はオーレリアに気を使ってくれているのか、近くに来るとレスターから少し離れて飛び回ってくれるようになったのだ。
そのおかげで、オーレリアはレスターの顔が毎日見れるようになってとても嬉しく感じている。
だが、レスターはそうとは知らず何故自分が今笑われたのか首を傾げた。
「どうしたのですか?」
「いえ、気を使ってもらいありがたいなと思いまして。」
「気を使う?」
「ええ。」
レスターはオーレリアが自分がここに来るのは気を使っているからだと思われている事に、少しショックを受けた。
自分はそんなつもりではない。
ただ、オーレリアに会いたくて、、、、。
そうふと思い、レスターは目を丸くすると顔が一気に熱くなるのを感じた。
「レスター様?お顔が真っ赤ですわ。どうかしましたの?」
オーレリアの白魚のような細い手が伸び、レスターの頬に触れた。
その瞬間、心臓が煩いくらいに脈打ち始めてレスターは、胸を抑えた。
「え?」
頬の熱さにオーレリアは目を丸くした。
「大変。お熱ですわ。レスター様。今日はもうお部屋でお休みになられて下さいませ。ほら、こんなに熱く、、、え?」
頬に伸びた手を、レスターに掴まれてオーレリアは小さく息を飲んだ。
レスターは赤く染まった真剣な表情でオーレリアに言った。
「容易く、、、男に触れてはいけません。」
「ふえ?」
なんとも情けない声が出たオーレリアは、レスターと同じく顔を真っ赤に染めた。
するとその瞬間に妖精達が歓喜の声を上げ始める。
『きやぁぁ?』
『純愛!』
『むずがゆいよぉ。』
『でも、二人なら応援するー!』
『うん!応援する!』
『それー!!!』
オーレリアは目を丸くして空を見上げた。
突然空に虹がかかり、そして二人の頭上に花びらが美しく舞いあがる。
「キレイ!」
オーレリアが思わずそう声を上げ、空を見上げた時、レスターはオーレリアを見つめ、小さく呟いた。
「あぁ。、、、キレイだ。」
レスターの瞳は真っ直ぐにオーレリアに向かい、その熱い視線な気付いたオーレリアは、頬を赤く染めたまま頷いた。
「キレイですね?」
純粋なオーレリアの言葉に、レスターはオーレリアを引き寄せて抱きしめたくなる衝動を抑えると、握っていたオーレリアの手を離して頷いた。
手を離されてしまったオーレリアは、自分が寂しいと思っている事に驚いた。
あぁまた自分は期待してしまっている。
駄目だと、オーレリアは頭を振る。
胸の中に広がる暖かな想いに無理やり蓋をして、オーレリアはこの胸の高鳴りはこの美しい光景のせいだと自分には言い聞かせた。
今はまだ、その時ではない。
そう思い、オーレリアは小さくまた呟いた。
「本当にキレイ。」
33
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?
五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」
朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。
「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」
国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。
ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。
「待ってください!!」
王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。
そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。
「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」
「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」
国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。
「どうしたらいいのーー?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる