【完結】皇女は当て馬令息に恋をする

かのん

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第二十二話

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 オフィリア帝国の王座にどっしりと座るオランドは、大きく息を吐くと床に手に持っていたグラスを叩きつけて割った。

 誰にも入るなと伝えていたので、今は王座に王一人である。

「聖獣よ、、、、姿を見せろ。」

 オランドがそう呼ぶと、王座の目の前に黒い穢をまとう狼のような聖獣が姿を現す。

『、、、何ようだ?』

 その瞳はまるで血のように赤赤としている。

 オランドはにやりとした笑みを浮かべると、言った。

「お前も良い色に染まったなぁ。」

 聖獣が唸り声を上げるとオランドは笑い、立ち上がると、手を上げ、その眼前に向ける。

「跪け。」

『ぐ、、、ぅぅ、、、。』

 聖獣は憎々しげに頭を垂れる。

「はは!それで聖獣とはな。もはやお前はただの奴隷だろう?」

『いずれその喉噛み切ってくれるわ!』

「出来ない事は言うものではない。さぁ、お前に新しい仕事だ。」

 オランドは跪く聖獣の頭を押さえつけると楽しげに言った。

「いい加減、オーレリアには死んでもらわねばならん。だが、人間は使い物にならなくてな。お前はずっと国外で使っていたが、そちらよりも、先にオーレリアを殺さなければ戦争が始められん。」

『オーレリア?』

「魔女との娘だ。あぁ、お前は会った事がなかったな。」

『自身の娘まで殺すか。』

「必要な事だ。オーレリアはレイズ王国にいる。お前ならば匂いで分かるだろう。」

『、、、娘だそ。』

「殺すんだよ。王の命令は、絶対だろ?」

『ぐ、、、』
 
 頭を力いっぱいに押し付けられても、聖獣は言いなりになるしかない。

「お前は、王のモノ。命令は絶対だ。返事は?」

『、、、仰せのままに。』

 王家に縛り付けられた聖獣は、その命令がどんなに非情なものであったとしても従うしかない。

 身を穢し続けるしかない。



 聖獣は、ゆっくりと走り続ける。

 穢れた体では、その力は削がれ、走るだけでも体に痛みが走る。

 大きく息をすれば喉が焼けるような痛みが走り、嗚咽を漏らしてしまう。

 苦しい。

 それでも王の命令は絶対である。

 レイズ王国へと入り、進んでいくと、一際美しく清涼な空気を感じ、思わず縋るようにそちらへと足を向けると、妖精の花畑を見て息を呑む。

 こんなに美しい妖精の花畑を見るのはいつぶりであろうか。

 かつて、人が友であった時代の、妖精とともに作り上げたような花畑である。

 聖獣の赤い瞳からは涙がこぼれ落ち、花畑の横にそっと横たわる。

 自らの穢で花々が傷つかないように、聖獣はその花々を愛でた。

『美しい、、な。』

 すると、妖精らがわらわらと現れはじめ、こちらを見ると心配げに言った。

『大丈夫?』

『酷い穢れだ。』

『きついでしょう?』

 久しぶりに出会う妖精らに、かつての幸せな日々を思い出す。

『大丈夫だ。、、、お前らが息災で何よりだ。』

『うん。』

『どうしてここへ?』

 神獣は苦々しげに言った。

『オランドの娘を殺しに来た。』

 すると、姿を隠していた妖精達までもが姿を現し、空を埋め尽くすがごとくに蠢いた。

 その瞳は警戒色である赤色に染まり、聖獣に向ける。

『オーレリアを殺す?』

『聖獣が?』

『何で?』

 その反応に、聖獣は目を見開くと尋ねた。

『オーレリアを知っているのか?』

『この妖精の花畑を作ってくれた。』

『心優しい子。』

『僕達のオーレリア。』

 妖精達の怒気に、空気が一瞬で重々しいものに包まれ始める。

 息を吸うたびに、鉛を飲み込んでいるような気分になってくる。

 聖獣が目を見開いて驚いたな時であった。

 鈴のような澄んだ声が聴こえた。

「皆?どうしたの?」

 妖精達は一瞬で怒気を消すとニコニコの笑顔に戻り、やってきたオーレリアの周りを飛び交う。

『オーレリア!』

『聖獣が来たんだ。』

『悪いやつじゃないはずなんだけどー。』

『でもね、オーレリアを殺すって。』

『酷いよね。』

『でも、僕達が守るから!』

 そんな言葉に、オーレリアは目を丸くすると、黒く穢れた聖獣を見つけて目を丸くした。

 初めて見る聖獣に、オーレリアは心を震わせて、古より伝わる聖獣への敬意を表した言葉を跪いて述べる。

「偉大なる聖獣様。貴方様をこの目で見ることをお許しください。貴方様を見ることが出来たことは、私の一生の宝となりましょう。」

 その言葉に、聖獣は心が震える。

 そして、感じた。

 この者こそが、自身の王であると。


 


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