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第二十三話
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聖獣は、オーレリアを見つめ、そしてその目の前に跪こうとした。しかし、体が縛り付けられているかのように言う事をきかない。
耳鳴りのようにオランドの声が響く。
殺せ。
オーレリアを殺せ。
穢れが身体に纏わり付き、首を絞めつける。
さぁ、目の前にいるものは誰だ?お前の標的だろう?早くその喉に噛みつき、血を流せ。そして、命令を全うしろ。
頭の中でごちゃごちゃと声が響き渡り、目の前がチカチカとし始める。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
『は、、は、、王よ、、、逃げろ。』
必死でそう口に出した時、穢れた身体が柔らかな何かに包まれる。
首に回る白い腕は心地よく、頭を優しく撫でられる。
「大丈夫ですか?聖獣様?」
聖獣は目を見開いた。
自分の身体は穢れており、触れればその身は腐り落ちるかもしれない。
それなのにも関わらず、オーレリアは躊躇なく穢れた身体に触れ、介抱しようとする。
「大丈夫です。きっと元気になりますわ。」
そう言って、何度も何度も優しく体を撫でられる。
その度に、自身の穢が清められていくのが分かる。
この不思議な力は何なのだろうかと、聖獣は驚いた。
それに気づいた様に、妖精らはケラケラと笑いながら声を上げた。
『凄いねオーレリア!』
『空気がどんどん澄んでいく!』
『オーレリアの育てた花達も手伝っているよ!』
目線を花畑へと移し、聖獣は息を呑む。
これは、普通の花畑ではない。
妖精が舞い、そして側にいたからか、はたまたオーレリアの力なのか、花一つ一つに光が宿り、穢を祓う様に光の鱗粉が空を舞う。
妖精らは歓喜の声を上げた。
『こんなに身体が軽くなるのは久しぶりだな!』
『力が溢れてくる!』
『この花畑最高!!』
聖獣の身体から穢が薄れていきはじめる。
そして黒く染まっていた身体が元の黄金に輝く美しい毛並みを取り戻していく。
だが、その首には重たそうな鎖が絡まっており、聖獣はそれが首を絞めて苦痛の声を漏らした。
これは、服従の呪いだ。
オフィリア帝国の王に従わなければならない奴隷の呪い。
オーレリアはぎりぎりと閉まるその鎖に手を伸ばすと、それを取ろうと細い指を鎖の間に差し入れて引っ張る。
だが、びくともせず、鎖は絞まる一方である。
殺せ!
頭の中に響く命令に、聖獣はオーレリアを押し倒すと、その胸に前足を乗せ、押さえつけた。
妖精達が悲鳴を上げるが、それをオーレリアが静止する。
「苦しいのですよね。今取ってあげますからね?」
聖獣は鋭く尖る牙を顕にさせて怒鳴り声を上げた。
『黙れ!この呪いを首に巻き付けたのは、そなたら王族だろう!我を騙し、穢れた奴隷にしたのはお前らだ!』
頭の中が混乱し、聖獣はそう叫んだ。
苦しい。
首がぎりぎりと絞まっていく。
『この鎖がとれたが最後、オフィリア帝国に掛けられた我が守護を失うのだぞ?それでも取ると、お前は言えるのか?』
その言葉に一瞬オーレリアの表情が曇る。
やはりこの皇女も同じだと、自身の王であると思ったのは勘違いだったのだと、自らに言い聞かせようとした。
けれど、そんな気持ちを一瞬で、たった一言でオーレリアは消してしまう。
「ごめんなさい。」
その大きな瞳から美しい雫が流れ落ちた瞬間に、地面に光が満ちる。
自身を絡めていた鎖が、光に耐えられずに砕け散り、身体の穢が一切消えて、頭の中で煩く響いていた声も聞こえなくなった。
身体が、心が、光に包まれて幸福を叫ぶ。
オーレリアの瞳からはとめどなく涙が溢れ、それが地上に落ちる度に光が生まれる。
押さえつけていた前足をおろし、聖獣は、ゆっくりとその涙を舐め取った。
オーレリアは言った。
「我が帝国は、、聖獣様を苦しめていたのですね。ごめんなさい。苦しい思いをさせて、ごめんなさい。」
聖獣は泣き続けるオーレリアの言葉を聞きながら、その姿を見つめた。
オーレリアは、体を起き上がらせると改めて聖獣の前に、跪き頭を垂れた。
「その苦しみと対等にとはおこがましいかもしれませんが、、、私の命を持ってして、許してはいただけないでしょうか?、、民は、、何も知らないのです。どうか。どうかお許しください。」
その姿に、聖獣は目を見開いた。
皇女は、凛とした花のように、美しく、穢の一点もない。
聖獣は、鼻を鳴らした。
『顔を上げろ。我が王よ。』
「え?」
驚き、反射的に顔を上げたオーレリアは聖獣の美しい黄金の瞳と目が合う。
聖獣は、その体に擦り寄ると、涙をまた舐め取った。
『何故国の為に命を差し出す?』
オーレリアはその問いに、首を横に振った。
「国の為にでは、ありません。私の命は民の為にあるものと、思っています。」
『民の為にか。』
「はい。ですので、聖獣様、私の命一つでは足りぬかもしれませんが、どうか。」
『ふふ。そうか。我が王は優しいのだな。』
「は?あの、、我が王とは?」
『オーレリア王。ソナタの事だ。我が王はソナタだ。偽りでは無く、ソナタこそが本物の我が王だ。我に掛けられた呪いが解けたことがその証。』
聖獣はオーレリアの前に跪き、そして、頭を垂れると言った。
『我が名は聖獣ランドルフ。真の王であるオーレリア王に忠誠を誓おう。どうか、許す、と。』
「え?許す?、、、それはどういう。」
『忠誠の儀は成された。』
「え?え?忠誠の儀?」
『わぁ!良かったねぇ。』
『またオーレリアの仲間が増えた!』
『ふふ!聖獣も仲間~!』
聖獣は頷くと言った。
『うむ。妖精達よ。これからもよろしく頼む。』
オーレリアは戸惑いの声を上げた。
「え?え?あの、ランドルフ様?私の命を持って、許してくださるのですか?」
『命はいらぬ。我が王を、我が護るだけだ。あと、先程は醜態を晒したが忘れてくれ。』
「で、ですが、我が帝国はランドルフ様を苦しめていたのですよね?無かったことには出来ません。」
ランドルフは笑った。
『無かった事にはしない。オランドは、我を穢した。その報いはいずれする。あと、我のことはランドルフと呼び捨てるか、愛称のラルフと呼んでくれ。』
尻尾がパタパタと嬉しそうに振られ、オーレリアは困ったように微笑むと頷いた。
耳鳴りのようにオランドの声が響く。
殺せ。
オーレリアを殺せ。
穢れが身体に纏わり付き、首を絞めつける。
さぁ、目の前にいるものは誰だ?お前の標的だろう?早くその喉に噛みつき、血を流せ。そして、命令を全うしろ。
頭の中でごちゃごちゃと声が響き渡り、目の前がチカチカとし始める。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
『は、、は、、王よ、、、逃げろ。』
必死でそう口に出した時、穢れた身体が柔らかな何かに包まれる。
首に回る白い腕は心地よく、頭を優しく撫でられる。
「大丈夫ですか?聖獣様?」
聖獣は目を見開いた。
自分の身体は穢れており、触れればその身は腐り落ちるかもしれない。
それなのにも関わらず、オーレリアは躊躇なく穢れた身体に触れ、介抱しようとする。
「大丈夫です。きっと元気になりますわ。」
そう言って、何度も何度も優しく体を撫でられる。
その度に、自身の穢が清められていくのが分かる。
この不思議な力は何なのだろうかと、聖獣は驚いた。
それに気づいた様に、妖精らはケラケラと笑いながら声を上げた。
『凄いねオーレリア!』
『空気がどんどん澄んでいく!』
『オーレリアの育てた花達も手伝っているよ!』
目線を花畑へと移し、聖獣は息を呑む。
これは、普通の花畑ではない。
妖精が舞い、そして側にいたからか、はたまたオーレリアの力なのか、花一つ一つに光が宿り、穢を祓う様に光の鱗粉が空を舞う。
妖精らは歓喜の声を上げた。
『こんなに身体が軽くなるのは久しぶりだな!』
『力が溢れてくる!』
『この花畑最高!!』
聖獣の身体から穢が薄れていきはじめる。
そして黒く染まっていた身体が元の黄金に輝く美しい毛並みを取り戻していく。
だが、その首には重たそうな鎖が絡まっており、聖獣はそれが首を絞めて苦痛の声を漏らした。
これは、服従の呪いだ。
オフィリア帝国の王に従わなければならない奴隷の呪い。
オーレリアはぎりぎりと閉まるその鎖に手を伸ばすと、それを取ろうと細い指を鎖の間に差し入れて引っ張る。
だが、びくともせず、鎖は絞まる一方である。
殺せ!
頭の中に響く命令に、聖獣はオーレリアを押し倒すと、その胸に前足を乗せ、押さえつけた。
妖精達が悲鳴を上げるが、それをオーレリアが静止する。
「苦しいのですよね。今取ってあげますからね?」
聖獣は鋭く尖る牙を顕にさせて怒鳴り声を上げた。
『黙れ!この呪いを首に巻き付けたのは、そなたら王族だろう!我を騙し、穢れた奴隷にしたのはお前らだ!』
頭の中が混乱し、聖獣はそう叫んだ。
苦しい。
首がぎりぎりと絞まっていく。
『この鎖がとれたが最後、オフィリア帝国に掛けられた我が守護を失うのだぞ?それでも取ると、お前は言えるのか?』
その言葉に一瞬オーレリアの表情が曇る。
やはりこの皇女も同じだと、自身の王であると思ったのは勘違いだったのだと、自らに言い聞かせようとした。
けれど、そんな気持ちを一瞬で、たった一言でオーレリアは消してしまう。
「ごめんなさい。」
その大きな瞳から美しい雫が流れ落ちた瞬間に、地面に光が満ちる。
自身を絡めていた鎖が、光に耐えられずに砕け散り、身体の穢が一切消えて、頭の中で煩く響いていた声も聞こえなくなった。
身体が、心が、光に包まれて幸福を叫ぶ。
オーレリアの瞳からはとめどなく涙が溢れ、それが地上に落ちる度に光が生まれる。
押さえつけていた前足をおろし、聖獣は、ゆっくりとその涙を舐め取った。
オーレリアは言った。
「我が帝国は、、聖獣様を苦しめていたのですね。ごめんなさい。苦しい思いをさせて、ごめんなさい。」
聖獣は泣き続けるオーレリアの言葉を聞きながら、その姿を見つめた。
オーレリアは、体を起き上がらせると改めて聖獣の前に、跪き頭を垂れた。
「その苦しみと対等にとはおこがましいかもしれませんが、、、私の命を持ってして、許してはいただけないでしょうか?、、民は、、何も知らないのです。どうか。どうかお許しください。」
その姿に、聖獣は目を見開いた。
皇女は、凛とした花のように、美しく、穢の一点もない。
聖獣は、鼻を鳴らした。
『顔を上げろ。我が王よ。』
「え?」
驚き、反射的に顔を上げたオーレリアは聖獣の美しい黄金の瞳と目が合う。
聖獣は、その体に擦り寄ると、涙をまた舐め取った。
『何故国の為に命を差し出す?』
オーレリアはその問いに、首を横に振った。
「国の為にでは、ありません。私の命は民の為にあるものと、思っています。」
『民の為にか。』
「はい。ですので、聖獣様、私の命一つでは足りぬかもしれませんが、どうか。」
『ふふ。そうか。我が王は優しいのだな。』
「は?あの、、我が王とは?」
『オーレリア王。ソナタの事だ。我が王はソナタだ。偽りでは無く、ソナタこそが本物の我が王だ。我に掛けられた呪いが解けたことがその証。』
聖獣はオーレリアの前に跪き、そして、頭を垂れると言った。
『我が名は聖獣ランドルフ。真の王であるオーレリア王に忠誠を誓おう。どうか、許す、と。』
「え?許す?、、、それはどういう。」
『忠誠の儀は成された。』
「え?え?忠誠の儀?」
『わぁ!良かったねぇ。』
『またオーレリアの仲間が増えた!』
『ふふ!聖獣も仲間~!』
聖獣は頷くと言った。
『うむ。妖精達よ。これからもよろしく頼む。』
オーレリアは戸惑いの声を上げた。
「え?え?あの、ランドルフ様?私の命を持って、許してくださるのですか?」
『命はいらぬ。我が王を、我が護るだけだ。あと、先程は醜態を晒したが忘れてくれ。』
「で、ですが、我が帝国はランドルフ様を苦しめていたのですよね?無かったことには出来ません。」
ランドルフは笑った。
『無かった事にはしない。オランドは、我を穢した。その報いはいずれする。あと、我のことはランドルフと呼び捨てるか、愛称のラルフと呼んでくれ。』
尻尾がパタパタと嬉しそうに振られ、オーレリアは困ったように微笑むと頷いた。
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