【完結】皇女は当て馬令息に恋をする

かのん

文字の大きさ
24 / 54

第二十四話

しおりを挟む
 レイズ王国国王であるラオックが、執務室で宰相ダンテと共に仕事をしていた時であった。

 突如として空気に怒りが満ち満ちて目を丸くしてしまう。

「これは、、、なんだ?」

 ダンテは顔を真っ青に染めると、ラオックに言った。

「妖精の怒りではないでしょうか。このような事、数十年ぶりにございます!」

「何故、妖精は何に怒りを、、、は、、静まった?どういう事だ?!」

「わ、分かりません!」

 すぐさま緊急の会議が開かれる事になり、円卓に皆が集まる。

 だが、妖精の怒りについて原因を知るものはおらず、ラオックは苛立たしげに机を叩いた。

「誰も何も分からぬではないか。ダンテ、過去にはどのような事で妖精の怒りがあったのだ?」

 ダンテは資料をめくりながら焦った様子で答えた。

「えー、一番近いものですと五十年前、原因は、妖精の遊び場である泉を汚した事でした。しかし、その時は王に直接妖精が姿を見せ、怒りを伝えたとの事。今回は妖精は現れておりません。」

「どういう事だ!明らかにあれは怒り。空気が異質になったのは明らかだ!誰も情報はないのか!」

 皆がうつむき、視線を王と合わせようとはせず、場が静まり返る。

「一体、どういう事だ。」

 その時、部屋をノックする音が響き、執事がラオックの横にやってきた。

「どうした?」

「レスター・ワトソンが王に謁見を求めております。」

「レスターが?、、、公爵家のぼうずが何用だ。今は忙しい。」

「私もそうお伝えしたのですが、今回の会議にかかわる事だと申しております。」

「何?、、、通せ。」

 ラオックは、関係かなかったらどうしてくれようかとイライラとしながら待っていると、レスターは部屋に案内され、恭しげに頭を下げた。

「挨拶はいい。さっさと要件を言え。今は虫の居所が悪いんだ。」

 レスターは顔を上げ、ラオックを見つめるとゆっくりとした口調で言った。

「可能性では、、ありますが、、、それでもお知らせしたほうがいいと思い、参上いたしました。」

「勿体つけるな。」

「はい。、、では恐れながら。」

 レスターも緊張しているのであろう。表情には本当に伝えるべきかと迷うような様子が見られる。

 そして、ゆっくりと、言葉を選びながら、レスターは言った。

「先程の、、、空気に怒りが満ちたのは、、、妖精の仕業と、、、、そうお考えでしょうか?」

「よく分かったな。さすがだ。それで、それがどうした?」

「恐らく、ですが。その怒りの原因は、オーレリア皇女殿下ではないかと。」

 ガタっと、椅子が鳴る音が響き、皆の表情に緊張が走る。

「オーレリア皇女が妖精の怒りを買ったと?」

 レスターは首を横に振った。

「いえ、、、オーレリア皇女殿下を、妖精が好いているのではないかと私は考えております。以前、オーレリア皇女殿下の暗殺未遂があった時、妖精が私を導きオーレリア皇女殿下の元へと道を作ったのではないかと思う事がありました。」

 その場に居た皆が息を飲む。

「確証が得られなかったので妖精の事を省き報告してしまい申し訳ありません。」

 頭を下げるレスターをラオックは見つめると、腕を組み、そして宰相に言った。

「聖者アンサムを聖地から呼び戻す手はずを整えよ。妖精が見えてまだ近場にいるのはアンサムだけだろう。」

 会場がどよめいたが、ラオックは落ち着いた様子で言った。

「もしオーレリア皇女が妖精を見る目を持ち、妖精に好かれているというのであれば、こちらも相応の対策を取らなければならない。まずはアンサムを待つ。アンサムの確認が終わり次第また会議を開く。よいな。」

『はっ!』

 皆が頷き、その場は解散となった。

 レスターは、その後詳しく宰相のダンテに話を聞かれ答えていった。

 そして、帰り道、静かに馬車の中で息をついた。



 妖精の怒りを感じたレスターはもしやと思い、オーレリアを探した。

 そして、花畑にいたオーレリアを見つめて息を飲んだ。

 オーレリアは神々しい光に包まれており、花々は普通の花のはずが、光を伴って咲き誇っていたのだ。

 微笑むオーレリアは美しく、レスターは、胸の痛みを感じた。


 国王に、オーレリアの事を話したのは正解だったのだろうか。せめてオーレリアに直接話をしてからにすべきだったのではないか。

 馬車の中でレスターは小さく息を吐いた。

 自信が、なかったのだ。

 オーレリアに尋ねて、正直に自分に話をしてくれるのか、自信がなかった。

 だが、黙っていることはできなかった。

 これは、オーレリアに対する裏切りではないのかと、レスターは胸の痛みに、顔を歪めた。


 




しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?

五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」 朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。 「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」 国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。 ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。 「待ってください!!」 王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。 そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。 「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」 「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」 国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。 「どうしたらいいのーー?」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...