13 / 14
十三話 魔力
しおりを挟む
森の外へと押し出されたハンスは、セオによって抱き留められた。
「ルティシア嬢!」
手を伸ばし、すぐに森の中へと引き返そうとしたハンスをセオは体を押さえて止める。
「離せ!セオ!命令だ!」
「ハンス様。冷静になって下さい。今は現状を把握する方が先ではありませんか?」
その言葉にハンスは唇を噛むと、セオの腕を振り払い、周りを見てから真っ直ぐに魔法の森を見据える。
「何がどうなったのだ。」
尋ねられたセオは頭を下げると、セオとルティシアが森に入ってからの事を冷静な口調で報告する。
「ハンス様とルティシア嬢が森に入った直後、魔法の森が他の者の侵入を拒否し、中にいた者達を次々に外へと追い出すという今までにない事件が発生いたしました。現在、他の教師ら総動員でその原因を調べ、行方が分かっていない者はいないか調査中です。」
森の外はかなりの騒動となっており、学園の教師らは慌ただしく動いている。救護班も来ているようで、魔法の森から突然追い出された反動で魔力酔いを起こしてしまったらしい学生らの手当てを行っている。
「森の中で何があったのですか?」
セオの問いかけに、ハンスは森での出来事をどうにか冷静に話していく。その事を聞いたセオは眉間にしわを寄せ、近くにいる職員と何か話をした後にハンスに言った。
「ハンス様。もしかしたらこの事件はハンス様を狙ったという可能性もあります。他の護衛も手配します。いいですね?」
「なっ!?何を言っている!ルティシア嬢を助けに行くのが先だ!」
「・・殿下。」
「っ!?・・そんな怖い顔をしてもダメだ。恩人を助けに行かないなど、一国の王子のすることではない。」
小さいながらに自分の考えをしっかりと持っている王子に、セオは大きくため息をつくと、肩をすくめて言った。
「ならば、殿下の代わりにこの私が参りましょう。これが精一杯の譲歩です。いいですか?」
その言葉にハンスは眉間に深くしわを寄せたが、すぐに小さく息を吐いて頷いた。セオは引き際を分かってくれてよかったと微笑を浮かべた時、風が止んだ。
一瞬にして、皆が空気が変わったことに気付く。
「なん・・だ?」
自然と視線が森へと向かう。
何かがくる。
次の瞬間、目を開けていられないほどの突風と、分厚い魔力の壁のようなものが体を突き抜けていく。
「殿下!」
セオはハンスを抱きしめ、衝撃から庇うように地面へと倒れた。木々は空へと飛ばされ、それに巻き込まれるように様々な物が風に攫われていく。
「きゃぁっ!」
「伏せろ!」
「とにかく頭を低くして!地面にうずくまれ!」
教師らは生徒達に必死に言い、突風から庇うように魔法を使える者達は防御壁を張ろうとする。しかし、そんなもの何の意味もなさなかった。
他人の魔力をも喰らうようにして飲み込み、そして魔力は広がっていく。
「なんだ・・・これは・・・」
ハンスは目を見張った。
圧倒的なまでもの、魔力。それが魔法の森から溢れ、渦を巻いて空へと登る。
稲妻、火柱、暗雲。まるでそれは、魔獣の再来のようであり、人々は顔を青ざめさせながら震えあがる。
「セオ・・セオ!ルティシア嬢を助けに行け!」
ハンスの言葉にセオは、他の護衛にハンスの事を任せると森の中へと駆けていく。その背を見送ったハンスは護衛に体を支えられながら起き上り、その光景をじっと見つめた。
「・・ルティ?」
「え?」
ハンスが声に反応して横を見ると、そこには国王であるエヴァンの姿。いや、そればかりではない。国王の横には現在のヒスラリア王国一の魔法使いと言われるギース・セラフィー。東の魔法使いミーフェ・ラッド。そして他にも黒いローブを着た魔法使い達。
「何故・・?」
普通ならばこの面子が揃うことはほぼない。そんな人達が集まっている事にハンスは驚きを隠せない。
「この魔力は・・どういう事だ。」
その声にハンスが後ろを振り返ると、そこにはヒスラリア王国騎士団長であるジャック・ローウェンがいた。
一体何が起こっているのか。ハンスはセオの走って行った魔法の森の方角を、じっと見つめた。
「ルティシア嬢!」
手を伸ばし、すぐに森の中へと引き返そうとしたハンスをセオは体を押さえて止める。
「離せ!セオ!命令だ!」
「ハンス様。冷静になって下さい。今は現状を把握する方が先ではありませんか?」
その言葉にハンスは唇を噛むと、セオの腕を振り払い、周りを見てから真っ直ぐに魔法の森を見据える。
「何がどうなったのだ。」
尋ねられたセオは頭を下げると、セオとルティシアが森に入ってからの事を冷静な口調で報告する。
「ハンス様とルティシア嬢が森に入った直後、魔法の森が他の者の侵入を拒否し、中にいた者達を次々に外へと追い出すという今までにない事件が発生いたしました。現在、他の教師ら総動員でその原因を調べ、行方が分かっていない者はいないか調査中です。」
森の外はかなりの騒動となっており、学園の教師らは慌ただしく動いている。救護班も来ているようで、魔法の森から突然追い出された反動で魔力酔いを起こしてしまったらしい学生らの手当てを行っている。
「森の中で何があったのですか?」
セオの問いかけに、ハンスは森での出来事をどうにか冷静に話していく。その事を聞いたセオは眉間にしわを寄せ、近くにいる職員と何か話をした後にハンスに言った。
「ハンス様。もしかしたらこの事件はハンス様を狙ったという可能性もあります。他の護衛も手配します。いいですね?」
「なっ!?何を言っている!ルティシア嬢を助けに行くのが先だ!」
「・・殿下。」
「っ!?・・そんな怖い顔をしてもダメだ。恩人を助けに行かないなど、一国の王子のすることではない。」
小さいながらに自分の考えをしっかりと持っている王子に、セオは大きくため息をつくと、肩をすくめて言った。
「ならば、殿下の代わりにこの私が参りましょう。これが精一杯の譲歩です。いいですか?」
その言葉にハンスは眉間に深くしわを寄せたが、すぐに小さく息を吐いて頷いた。セオは引き際を分かってくれてよかったと微笑を浮かべた時、風が止んだ。
一瞬にして、皆が空気が変わったことに気付く。
「なん・・だ?」
自然と視線が森へと向かう。
何かがくる。
次の瞬間、目を開けていられないほどの突風と、分厚い魔力の壁のようなものが体を突き抜けていく。
「殿下!」
セオはハンスを抱きしめ、衝撃から庇うように地面へと倒れた。木々は空へと飛ばされ、それに巻き込まれるように様々な物が風に攫われていく。
「きゃぁっ!」
「伏せろ!」
「とにかく頭を低くして!地面にうずくまれ!」
教師らは生徒達に必死に言い、突風から庇うように魔法を使える者達は防御壁を張ろうとする。しかし、そんなもの何の意味もなさなかった。
他人の魔力をも喰らうようにして飲み込み、そして魔力は広がっていく。
「なんだ・・・これは・・・」
ハンスは目を見張った。
圧倒的なまでもの、魔力。それが魔法の森から溢れ、渦を巻いて空へと登る。
稲妻、火柱、暗雲。まるでそれは、魔獣の再来のようであり、人々は顔を青ざめさせながら震えあがる。
「セオ・・セオ!ルティシア嬢を助けに行け!」
ハンスの言葉にセオは、他の護衛にハンスの事を任せると森の中へと駆けていく。その背を見送ったハンスは護衛に体を支えられながら起き上り、その光景をじっと見つめた。
「・・ルティ?」
「え?」
ハンスが声に反応して横を見ると、そこには国王であるエヴァンの姿。いや、そればかりではない。国王の横には現在のヒスラリア王国一の魔法使いと言われるギース・セラフィー。東の魔法使いミーフェ・ラッド。そして他にも黒いローブを着た魔法使い達。
「何故・・?」
普通ならばこの面子が揃うことはほぼない。そんな人達が集まっている事にハンスは驚きを隠せない。
「この魔力は・・どういう事だ。」
その声にハンスが後ろを振り返ると、そこにはヒスラリア王国騎士団長であるジャック・ローウェンがいた。
一体何が起こっているのか。ハンスはセオの走って行った魔法の森の方角を、じっと見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる