12 / 14
十二話 実技『魔法の森を抜けろ!2』
しおりを挟む
深い霧の中ではあったが、私はハンスの手を引いて森の中を進んで行く。足元はぬかるみ、泥が跳ねて洋服を汚すが今はそれを気にしている場合ではない。
霧のせいなのか、服も湿って次第に重たくなってくるように感じる。
「なぁ・・本当にこっちでいいのか?」
そう尋ねられ、笑顔をハンス向けてはっきりとした口調で言った。
「大丈夫ですよ。後少しです。」
「あ・・あぁ。分かった。」
こういう時に一番してはいけない事は、不安が広がって疑心暗鬼を生む事である。だからこそ今は笑顔でハンスを励まし、とにかく最速で森を出るしかない。
幸いなことに森を抜けるのはそれまで難しい事ではない。この霧だって魔獣を倒しに行く途中で現れた黒い毒霧に比べれば大したことはない。
肌が爛れることも、喉が毒でつぶれそうになる事もない。
そして森の出口である外が見えた。
太陽の光が見え、ハンスがほっと息をつくのを感じる。
「・・・ハンス様!」
「え?」
白い霧がまるで蛇のようにハンスの体を霧の中へと引きずり込もうと伸びる。私はハンスを森の外の光へと押し出すと、その霧に体をからめ捕られて、森の中へと引きづり込まれた。
「ルティシア嬢!」
ハンスの声が一気に遠ざかり、私は森の木々の中へと身を投げ飛ばされる。
空中で体をひねり反転させて体制を整えると、木へ着地し、クルリとまわって地面へと降りる。降りた地面に足がずぷりと沈み、ねっとりとした泥が足を取る。どうにも気持ちが悪いが、温度が感じられない事からこれは恐らく幻なのだろう。
先程、明らかに私ではなくハンスが狙われた。なのでハンスを森の外へと出せただけでも良かった。私一人だけならばどうにでもなる。
霧の中で白い何かがうねりを上げ、そして、まるで蛇のような姿をかたどる。これは一体何だろうか。幻かとも思ったが、攻撃によって木々は倒れ、幻とは言い難い。
「学園の中に・・どうして・・・?」
一体何が起こっているのかと思った時であった。霧が人の姿を作り始め、輪郭がはっきりとし始める。
「っ!?」
拳をぎゅっと握り、爪が食い込んで血が滲む。痛みよりも、怒りの方がじりじりと身を焦がすように湧き上がってくる。
惑わされると、思っているのか。
私が、この私が、仲間の姿を、見間違えるとでも思っているのか。
蛇が私に向かって口を大きく開き食らいつこうとしてくるが、片手をかざす。
「吹き飛べ。」
蛇は大きく口を開けたまま木にぶつかり、そのまま幾本かの木々をなぎ倒して、地面に倒れた。
アベルの姿をかたどったモノが、大剣を振りかざし、私へと迫ってくるのが見えた。その服装は、彼が最後に着ていた物と全が同じ。
防具も、大剣も、首から下げていた守護石で作ったネックレスも。あの日の、あの姿で、自分に剣を振りかざしてくるアベルのマガイモノ。
「・・・消えろ・・・」
次の瞬間森の中を突風が駆け抜け、マガイモノも目の前で霧散していった。木々の葉は吹き飛び、私の周辺の木々はなぎ倒されて地面はえぐれた。
空間を歪めるように私の周辺の空気は稲妻を走らせ、四つの火柱が空へと登った。
魔力が空気を震えさる。
怒りが抑えられず、空は黒く色を染め、地面に雷が落ちる。
ダメだ。もう、抑えなければならない。そうでなければ、空間を壊してしまう。そう思うのに、久しぶりに見たアベルの姿に、幻だと分かっていても手を伸ばしたくなってしまった。
幻でも、触れたいと願ってしまった。
そんな自分に腹が立つ。
守れなかったのは自分だ。失ったのは、私が弱かったからだ。
それなのにそんな事を願ってしまう自分が、腹立たしかった。
「くそ・・っくそ・・くそ。」
瞳に涙が滲む。
泣く資格などないと分かっているのに、溢れて、止まらない。
唇を噛み、拳を握り、堪えようとしても涙が零れ落ちていく。
「・・ふ・・・ぐ・・・アベル・・・」
会いたい。会いたい。会いたい。
会いたいのに・・・・。
その時、体が、温かな何かに包まれて、私は目を丸くした。
心臓が跳ねる。
後ろから誰かに抱きしめられていると分かったのは数秒たってからだった。そしてその温もりに覚えがあり、驚きのあまり身動き一つとれない。
「泣かないで。」
アベルの声よりも、高い声。抱きしめる手だって細く白い。
それなのに、彼だと分かる。
涙が溢れる。けれど次の瞬間、体から力が抜けていくのが分かった。久しぶりに大量の魔力を外へと放出したから、まだ幼い子の体では耐えきれなかったのだろう。
意識が遠のいていく。
「いや・・・もう・・貴方を・・・」
失いたくない。
そう思うのに、意識は遠くへと誘われていった。
霧のせいなのか、服も湿って次第に重たくなってくるように感じる。
「なぁ・・本当にこっちでいいのか?」
そう尋ねられ、笑顔をハンス向けてはっきりとした口調で言った。
「大丈夫ですよ。後少しです。」
「あ・・あぁ。分かった。」
こういう時に一番してはいけない事は、不安が広がって疑心暗鬼を生む事である。だからこそ今は笑顔でハンスを励まし、とにかく最速で森を出るしかない。
幸いなことに森を抜けるのはそれまで難しい事ではない。この霧だって魔獣を倒しに行く途中で現れた黒い毒霧に比べれば大したことはない。
肌が爛れることも、喉が毒でつぶれそうになる事もない。
そして森の出口である外が見えた。
太陽の光が見え、ハンスがほっと息をつくのを感じる。
「・・・ハンス様!」
「え?」
白い霧がまるで蛇のようにハンスの体を霧の中へと引きずり込もうと伸びる。私はハンスを森の外の光へと押し出すと、その霧に体をからめ捕られて、森の中へと引きづり込まれた。
「ルティシア嬢!」
ハンスの声が一気に遠ざかり、私は森の木々の中へと身を投げ飛ばされる。
空中で体をひねり反転させて体制を整えると、木へ着地し、クルリとまわって地面へと降りる。降りた地面に足がずぷりと沈み、ねっとりとした泥が足を取る。どうにも気持ちが悪いが、温度が感じられない事からこれは恐らく幻なのだろう。
先程、明らかに私ではなくハンスが狙われた。なのでハンスを森の外へと出せただけでも良かった。私一人だけならばどうにでもなる。
霧の中で白い何かがうねりを上げ、そして、まるで蛇のような姿をかたどる。これは一体何だろうか。幻かとも思ったが、攻撃によって木々は倒れ、幻とは言い難い。
「学園の中に・・どうして・・・?」
一体何が起こっているのかと思った時であった。霧が人の姿を作り始め、輪郭がはっきりとし始める。
「っ!?」
拳をぎゅっと握り、爪が食い込んで血が滲む。痛みよりも、怒りの方がじりじりと身を焦がすように湧き上がってくる。
惑わされると、思っているのか。
私が、この私が、仲間の姿を、見間違えるとでも思っているのか。
蛇が私に向かって口を大きく開き食らいつこうとしてくるが、片手をかざす。
「吹き飛べ。」
蛇は大きく口を開けたまま木にぶつかり、そのまま幾本かの木々をなぎ倒して、地面に倒れた。
アベルの姿をかたどったモノが、大剣を振りかざし、私へと迫ってくるのが見えた。その服装は、彼が最後に着ていた物と全が同じ。
防具も、大剣も、首から下げていた守護石で作ったネックレスも。あの日の、あの姿で、自分に剣を振りかざしてくるアベルのマガイモノ。
「・・・消えろ・・・」
次の瞬間森の中を突風が駆け抜け、マガイモノも目の前で霧散していった。木々の葉は吹き飛び、私の周辺の木々はなぎ倒されて地面はえぐれた。
空間を歪めるように私の周辺の空気は稲妻を走らせ、四つの火柱が空へと登った。
魔力が空気を震えさる。
怒りが抑えられず、空は黒く色を染め、地面に雷が落ちる。
ダメだ。もう、抑えなければならない。そうでなければ、空間を壊してしまう。そう思うのに、久しぶりに見たアベルの姿に、幻だと分かっていても手を伸ばしたくなってしまった。
幻でも、触れたいと願ってしまった。
そんな自分に腹が立つ。
守れなかったのは自分だ。失ったのは、私が弱かったからだ。
それなのにそんな事を願ってしまう自分が、腹立たしかった。
「くそ・・っくそ・・くそ。」
瞳に涙が滲む。
泣く資格などないと分かっているのに、溢れて、止まらない。
唇を噛み、拳を握り、堪えようとしても涙が零れ落ちていく。
「・・ふ・・・ぐ・・・アベル・・・」
会いたい。会いたい。会いたい。
会いたいのに・・・・。
その時、体が、温かな何かに包まれて、私は目を丸くした。
心臓が跳ねる。
後ろから誰かに抱きしめられていると分かったのは数秒たってからだった。そしてその温もりに覚えがあり、驚きのあまり身動き一つとれない。
「泣かないで。」
アベルの声よりも、高い声。抱きしめる手だって細く白い。
それなのに、彼だと分かる。
涙が溢れる。けれど次の瞬間、体から力が抜けていくのが分かった。久しぶりに大量の魔力を外へと放出したから、まだ幼い子の体では耐えきれなかったのだろう。
意識が遠のいていく。
「いや・・・もう・・貴方を・・・」
失いたくない。
そう思うのに、意識は遠くへと誘われていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる