生まれ変わった魔法使い 

かのん

文字の大きさ
11 / 14

十一話 実技『魔法の森を抜けろ!』

しおりを挟む
 魔力の測定が終わり、ペアが組まれると、簡単に自己紹介をした後にペアで協力して魔法の森を抜ける実技が開かれる事となった。

 ヒスラリア王国には、魔法を有している森がいくつも存在する。そして各領地にも必ずそうした森や林、泉などが点在しているので、貴族はそうした場から抜け出せる力を持っている事が絶対条件となっている。

 別に森の中で魔法を使うとかそうしたことではない。魔力を有する者は集中すれば必ず正しい道というものが見える。それを見つけ、森を抜ければいいというだけである。

 その方法をしっかりと経験し、身に着けていくこともこの学園で学ぶことの一つである。

 比較的に魔力量が多い方が森の惑わす力の影響を受けにくいと言われているので、魔力量の多いハンスやカトリーヌが有利なのは確かである。

「ルティシア嬢。僕が一緒だから心配しなくても大丈夫だよ。」

 学園内にある魔法の森の入口で、ハンスはペアになった私にきらきらとした天使のような笑顔でそう声をかけてくれた。王子様のお手本のような人である。そんな王子様の笑顔を見て、数人の令嬢は頬を赤らめている。

「はい。私も頑張りますね。」

「よろしくお願いします。」

 ハンスはふんわりとした柔らかな栗色の髪に、金色の瞳を持っている。何かに似ているなと思っていたが森に来てすぐに分かった。

 子リスに似ている。

 ふわふわとした髪の毛も、くりくりとした大きな瞳も。

 元々可愛い物が好きな私としては、ペアがハンスで良かった。王子様という立場の人を正面から見てもいいなんて事は、学園に通っている間しかないだろう。それならば、この可愛い王子様を今の間だけ愛でていようと、心の中で決める。

「それじゃあ行こうか。」

「はい。」

 ハンスが先を歩き、私は後ろからついていく。何だか自分よりもかなり年下の子に先導してもらうというのが何ともいえない気持ちにさせる。

 今世では同じ年なのだから気にする必要はないのだろうが、前世を足せばもういい年である。

 そう思い小さくため息をつくと、ハンスが私の方を振り返って言った。

「あのさぁ、ため息をつきたいのは僕なんだから、さっさと歩いて着いて来てよ。」

「ん?」

 最初は聞き間違いかと思ったが、先ほどまでのきらきらとした笑顔は消え去り、今ではこちらを蔑むような瞳で見つめてくる。

 可愛い顔とは裏腹に、にやりとした笑みを浮かべて、ハンスは言った。

「え?何?ずっと優しくしてもらえるとでも思っていたの?こっちとしてはクラス一番の落ちこぼれとペア組まされて散々なんだから、このくらい我慢したら?キミ、僕がいなかったらゴールだって出来ないでしょう?」

 外見は子リスのようにとても可愛らしいのに、口からは辛辣な言葉が出てくる。それに私は大きく溜め息をつくと、やはりこんなものかと脱力した。

 あのセオが現在仕えている相手である。普通の可愛らしい子リスのような男の子であるわけがなかった。

 可愛らしい理想の王子様像がガラガラと音をたてて崩れ落ちる。

「あー。そうですね。早く、森を抜けましょう。」

 とにかくさっさとこの森を抜けてしまおうと歩き始めると、ハンスは私の手を取って引っ張ると言った。

「そっちじゃない。こっちだ。」

「え?」

「はぁ。これだから嫌なんだ。あ、あと念のために言っておくけど、僕のこの性格を吹聴するなんてことはするなよ。面倒だから。」

「・・・はい。」

 私とペアになった事がよほど不満だったのか、眉間にしわを寄せてそう言うと、森の中をずんずんと進んで行く。

 本当にこっちでいいのだろうかと思いながらも、手を引かれるままに進んで行くと、森がどんどんと深くなっていく。明らかに森の木々の色は変わり、深い青色となり、空を見上げても木々が邪魔をして空が見えなくなっている。

「あの・・ハンス様?」

「・・・」

 無言のハンスに、私は立ち止まり、ハンスの手を振りほどくと言った。

「道に迷ってませんか?」

 ハンスは立ち止まると、顔を真っ赤にして私に向かって怒鳴り声を上げた。

「迷ってなんかいない!僕がこっちだと言ったらこっちだ!」

 その姿を見ていると、幼い頃のエヴァンの姿を思い出す。小さな頃のあの国王もこういう所があった。王子様だからと言って周りからちやほやされるものだから、間違えた時に言いだせず、それでいて間違いを指摘されると顔を真っ赤にして怒ったものだ。

 その時の事を思い出してなんとも懐かしい気持ちになってしまう。

「ふふ。そうですか。じゃあ、行きますか。」

「え?」

 ハンスはきょとんとした抜けた表情を浮かべており、どうしたのか首を傾げてしまう。

「どうしました?」

「え・・いや、もっと、何か、あるんじゃないのか・・?」

 なるほど、間違いを指摘し、違うと言ってほしいのか?そんなことを思った時であった。森の霧が突然濃くなり始め、私はハンスと離れ離れになってはいけないとその手をぎゅっと握り引き寄せた。

「な・・なんだよ。怖いのか?」

「ハンス様・・様子がおかしいです。」

「え?・・これは・・」

 一歩先が見えないほどに濃い霧に囲まれ、私はこれは一体何だろうかと眉間にしわを寄せた。

「これは・・惑わしの霧か?・・だが、何故?新入生の授業では普通現れないはずだが・・・」

「惑わしの霧ですか?」

「あぁ。お前魔法の森について何も知らないんだな。常識だぞ?」

「えっと・・すみません。」

 前世で一度も魔法の森で迷った事が無かった為に、知ろうとさえしていなかった。せっかく学園に入学したのだから勉学も頑張らなければならないと反省する。

 ハンスは辺りを見回しながら言った。

「学園内の森は、学園に管理されているから霧が出る時間帯も決まっているはずなんだ。だから、新入生の最初の魔法の森の授業で普通は出ないはずなんだが・・とにかく、早く森を抜けよう。惑わしの霧の中にいれば、惑わされる。いいか。ここでは普通が通用しない。見た物を何も信じるなよ。」

「はい。」

 とにかく森を早く抜けるのが先決である。

 クラスで一番魔力が高く、この森を抜けるのが容易いはずのハンスだがそれでも何故か今回は抜けられない所を見ると、何かしらの力が影響しているのかもしれない。

「ハンス様。私に着いて来てくれますか?」

「なんだと?・・だが、お前、分かるのか?」

 私はその言葉ににっこりと笑みを浮かべると頷いた。

「ええ。私、森で迷ったことないんです。」

 その言葉にハンスは半信半疑だった様子だが、小さく頷いた。

「分かった。・・・信じていいんだな?」

「はい。信じて下さい。」

 ハンスの緊張が握っている手から伝わってくる。

「分かった。」

 それでもここで問答している時間をもったいないと思い、すぐに決断してくれたことに感謝した。この霧の中には出来るだけ長くいない方がいい。そう、私の本能が告げていた。


 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...