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十三話 アリアの独白

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 私アリアは、元々は孤児院にて酷い暮らしをしていた。

 食べ物はよくて一日に一食が当たり前。洋服は汚れているのが当たり前。いつ死んでもおかしくない状況だった。

 けれど孤児院を経営する人達が寄付されたお金を着服し、孤児らの面倒にお金をかけていないせいだなんて思いもしなかった。

 だからそれを知るまでは自分の運命を恨み、親を恨み、国を恨み、ただただ死ぬまでの間、どうにか生にしがみついて、生きていた。

 そんなある日、孤児院の前にめったにお目にかかる事の出来ないほど豪華な、美しい貴族の馬車が止まった。

 その馬車から降りてきたのは一人の少女。

 美しいその赤髪と金色の瞳、白いワンピースのスカートがふわりと舞って馬車から降りてきた時には、皆が息を飲み、そして思った。

 天使である。

 天使は薄汚れた私達を見て、ふわりとほほ笑みを浮かべると言った。

「貴方達に酷い目に合わせてきた大人達を、地獄へ叩き落としてあげますわ。」

 天使は、私達には天使だったけれど孤児院を経営していた大人達には悪魔に見えたと思う。

 天使の名前はシルビアンヌ様。

 シルビアンヌ様が何をどうしたのかは私達には分からなかったけれど、悪い大人達を罰して、そして代わりに孤児院に来た大人は皆が聖人君主のように優しく慈悲深い人ばかりだった。

 シルビアンヌ様は時間が開いた時には孤児院に遊びに来て、そして子ども達と遊んでくれた。

 時には泥だらけになって。

 けど、そんな姿すらも美しいんだからやはり天使だなと思った。

 私たちの毎日はシルビアンヌ様が来た日から一変した。

 三食ご飯が食べられるようになった。清潔な洋服を身に着けられるようになった。物乞いをして生を繋ぐのではなく、孤児院の手伝いや、ちょっとした雑用をすることで何不自由なく生きられるようになった。

 私はずっと女の子の格好をして、物乞いをしていた。

 女の子の方が哀れに見えるのだと、前にいた大人達には言われ、お前は見た目は良いのだから大層哀れに見えるとも言われた。

 だからずっと女の子の格好。

 孤児院に優しい大人達が来ても、私は女の子の格好がやめられなかった。

 怖かった。

 女の子の格好で無くなれば哀れでなくなるのかもしれないと思った。

 もう大丈夫かもしれない。けど、もし、この優しそうな大人達がやはり悪い大人だったら?

 そう思うと、止められなかった。

 そんな私にシルビアンヌ様は優しく微笑むと、私の手を取って言った。

「私は、どんな格好をしていてもいいと思うわ。その恰好が貴方の盾となるならそれでもいい。いずれその盾がなくても安心できる場所がきっと出来る。だから、焦らなくていいと思うわ。」

 シルビアンヌ様の言葉に涙が溢れた。

 そして、以前から何度か打診されていた話を私は受けることにした。

「私でよければ、これからシルビアンヌ様にこの一生を捧げて生きていきたいです。」

 シルビアンヌ様の家へと来てほしいと言われた。自分の家族になって欲しいと。けれど私は孤児である。

 シルビアンヌ様曰く、私はどこぞの男爵家の息子なのだというが、自分と母を捨てた父親など父と思った事はない。

 男爵がどのような人柄か調べ、その上で私の父親と認められそうならば父に会わせると言われたが、丁重にお断りした。
 
 貴族として生きていくつもりはない。

 シルビアンヌ様の傍にいたい。

 全身全霊をかけて、自分の一生をシルビアンヌ様に捧げようと決めた。

「まぁアリア。貴方にだっていずれ、貴方を愛し、慈しむ人と出会うのよ。だから、一生を捧げるのはその人にしてちょうだいね。」

「いえ、私はシルビアンヌ様の執事もしくは侍女として、この一生を捧げます。」

「え?・・私の弟にと考えていたのだけれど・・・」

「いえ、それは難しいかと。お傍にいさせて下さい。」

「そ・・う。分かったわ。取りあえずはそれでもかまわないわ。成長するにつれてあなたの考えも変わるでしょうし、お父様には事情を話してあるから、取りあえずは貴方の気持ちのすむ形でいいわ。」

 可愛らしく笑ってそう言われたけれど、私の心はもうとうの昔にシルビアンヌ様の物である。

 シルビアンヌ様は貴族の公爵家のご令嬢。だからこそ、男爵家の血が流れていようとも、自分のこの胸の内を明かす日はこない。

 私は愛されるよりも、シルビアンヌ様を愛する道を選ぶと決めた。


 けれど、今、心が揺れている。

 シルビアンヌ様が出会われた三名の男児は、王子に侯爵家令息に公爵家令息。その三人には私が男だとばれているし、言われた言葉は胸の中を渦巻く。

 何故あの三人が私の気持ちにすぐに気づいたのかは疑問だ。

 それに何故か生暖かい目で見てくるのも。

 しかもシルビアンヌ様は何故か邪な目で私と彼らを見つめてくる。

 何を考えているのかは分からないけれど、良いことでないのは確かだろう。

 彼らであれば、シルビアンヌ様の横に立ている。

 いや、いずれ貴族の令息にシルビアンヌ様を奪われる日はやってくる。

 それは分かっている。

 胸を押さえると苦しくなる。

 愛するだけでいいと思っていたのに、いつの間にかに欲張りになっていた自分がいた。

 この気持ちをどうすればいいのか、まだ答えは出せそうにない。




 

 





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