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第十一話
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【神々の薬師:その身体は、普通の人間のそれとは異なる。神の力を授かりし者故に、常人では死を間逃れぬ環境にさえ、耐えることが出来る。】
冷たい風が吹き抜けていく。
木々も生えられぬほどに冷たく雪で覆われた大地を、一歩、また一歩、と踏みしめながら玉枝は雪景色の山頂を歩いていた。
吐く息は白く、玉枝の頬や鼻は真っ赤になっている。
それでも手の指先も、足の指先もしっかりと感覚はあり、寒くは感じても凍えるほどではないように玉枝の身体は感じている。
「あぁ。綺麗。」
山頂から下を見下げれば、雲海が広がり、青々とした大空の元、美しい光景が広がる。
よくよく目を凝らせば、雲海の中を気持ち良さそうに龍が泳ぎ、玉枝の姿を見つけると楽しげにくるりと回って挨拶をしてくる。
玉枝はそれに応えるように手を上げた。
太陽の光に反射して、龍の鱗は金色に輝き、それが地上へと光の梯子となって降り注ぐ。
吉兆の前触れなのか、雲は虹色に輝き彩雲となる。
「玉枝!美しいなぁ。」
「本当にですね!玉枝にもきっと良いことがありますよ。」
嬉しそうにそう宙を飛びながら言う焔と雫に、玉枝は笑みを向けた。
「そうだね。良いことがありそう。」
「あぁ!次の神の所へ急ごう。」
「きっと玉枝を待っていますよ。」
玉枝は頷くと、またゆっくりと雪山を登っていく。
あと少しいけば、山頂にある神の祠へと辿り着く。
そこまでいけば休憩も挟めると玉枝は足を進ませる。
祠は、山頂の巨大な岩の横に立てられていた。
かなり古いものではあるが、生けられた花は氷り、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。
玉枝は祠の前で跪くと、袖を払い、恭しく頭を下げた。
「狐の面を授かりし神々の薬師、名を玉枝と申します。お困り事はないかとこの場に参上しました。かしこみかしこみ申し上げます。わたくしめに出来ることはございませんでしょうか?」
その言葉に祠の戸がゆっくりと開くと、中から掌ほどの大きさの雪玉が姿を表すと、コロコロと玉枝の目の前に転がり言った。
『薬師か。お前は初めての顔じゃな。』
「はい。お会いするのは初にございます。」
雪玉姿のその神は目をきょろりと回すと、玉枝の手にそっと触れて言った。
『我は穢れてはいない。ただ、少しばかり調子が悪い。』
「身体を拝見してもよろしいでしょうか?」
『かまわん。』
玉枝は雪玉の身体をゆっくりと手で持ち上げると、様子を見ていった。
そして、ある事に気付き、どうしようかと考えたのちに口を開いた。
「溶けかけておりますね。」
その言葉に神はけらけらと笑い声を上げると頷いた。
『そうだった。そうだった。溶けかけているのだった。』
神はにこりと笑みを浮かべると、玉枝の暖かな手をそっと撫でると言った。
『玉枝、お前のおかげで今年はやり残さずにすんだよ。よくよく見ておきな。さぁ、数十年に一度の雪降ろしだ!』
神はくるりと身体を回転させると、宙に舞い上がった。
冷たい風が吹き抜けていく。
木々も生えられぬほどに冷たく雪で覆われた大地を、一歩、また一歩、と踏みしめながら玉枝は雪景色の山頂を歩いていた。
吐く息は白く、玉枝の頬や鼻は真っ赤になっている。
それでも手の指先も、足の指先もしっかりと感覚はあり、寒くは感じても凍えるほどではないように玉枝の身体は感じている。
「あぁ。綺麗。」
山頂から下を見下げれば、雲海が広がり、青々とした大空の元、美しい光景が広がる。
よくよく目を凝らせば、雲海の中を気持ち良さそうに龍が泳ぎ、玉枝の姿を見つけると楽しげにくるりと回って挨拶をしてくる。
玉枝はそれに応えるように手を上げた。
太陽の光に反射して、龍の鱗は金色に輝き、それが地上へと光の梯子となって降り注ぐ。
吉兆の前触れなのか、雲は虹色に輝き彩雲となる。
「玉枝!美しいなぁ。」
「本当にですね!玉枝にもきっと良いことがありますよ。」
嬉しそうにそう宙を飛びながら言う焔と雫に、玉枝は笑みを向けた。
「そうだね。良いことがありそう。」
「あぁ!次の神の所へ急ごう。」
「きっと玉枝を待っていますよ。」
玉枝は頷くと、またゆっくりと雪山を登っていく。
あと少しいけば、山頂にある神の祠へと辿り着く。
そこまでいけば休憩も挟めると玉枝は足を進ませる。
祠は、山頂の巨大な岩の横に立てられていた。
かなり古いものではあるが、生けられた花は氷り、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。
玉枝は祠の前で跪くと、袖を払い、恭しく頭を下げた。
「狐の面を授かりし神々の薬師、名を玉枝と申します。お困り事はないかとこの場に参上しました。かしこみかしこみ申し上げます。わたくしめに出来ることはございませんでしょうか?」
その言葉に祠の戸がゆっくりと開くと、中から掌ほどの大きさの雪玉が姿を表すと、コロコロと玉枝の目の前に転がり言った。
『薬師か。お前は初めての顔じゃな。』
「はい。お会いするのは初にございます。」
雪玉姿のその神は目をきょろりと回すと、玉枝の手にそっと触れて言った。
『我は穢れてはいない。ただ、少しばかり調子が悪い。』
「身体を拝見してもよろしいでしょうか?」
『かまわん。』
玉枝は雪玉の身体をゆっくりと手で持ち上げると、様子を見ていった。
そして、ある事に気付き、どうしようかと考えたのちに口を開いた。
「溶けかけておりますね。」
その言葉に神はけらけらと笑い声を上げると頷いた。
『そうだった。そうだった。溶けかけているのだった。』
神はにこりと笑みを浮かべると、玉枝の暖かな手をそっと撫でると言った。
『玉枝、お前のおかげで今年はやり残さずにすんだよ。よくよく見ておきな。さぁ、数十年に一度の雪降ろしだ!』
神はくるりと身体を回転させると、宙に舞い上がった。
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