妖怪の親方様に捧げられた生贄姫は生き生きと館を闊歩する

かのん

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さん

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 親方様は日中は他の妖怪らの村を回ったり、他にもさまざまな仕事があるようで館にいることは少ない。それ故に、光葉は昼間の間は親方様のいない屋敷を東から西、南から北へと歩き回る。

「この屋敷は面白いわねぇ。」

 光葉の後ろからは、振り袖姿のおかっぱ姿の童が二人ついて来ており、そんな光葉の様子を面白げに見つめている。

「お嫁様はよう歩きますねぇ。」

「何が楽しいのです?」

「ん?そうねぇ。この屋敷は迷路のようになっていて、まるで生きているようで面白くて。」

「そりゃあ生きておりますから。」

「え?」

 光葉が目を丸くすると、二人の童はくすくすと笑いながら振袖を振ってその場を駆けまわる。天井や柱も二人の童には関係ないようであり、自由だなと光葉は笑みを浮かべた。

「ねぇ屋敷が生きているって、この屋敷も妖怪なの?」

「はい。」

「妖怪みたいなものです。」

「そう。ふふ。妖怪の妖怪の屋敷。面白いわねぇ。」

 微笑む光葉に、二人はけらけらと笑い声を上げる。

「それを面白いと言うお嫁様が面白いです。」

「面白い。面白い。」

 光葉が長い廊下を進んで行っていた時であった。

 襖が静かに開き、光葉を誘うようにして灯りが漏れる。

 その様子に、光葉は誘われるままに襖を開けてその部屋へと入った。

 そこには壺や木箱など古い物がたくさん並べられており、少しほこりっぽく、この部屋だけが掃除が行き届いていないように光葉は感じた。

「あらぁ、汚いわねぇ。よし。掃除しましょ。」

「お嫁様が掃除ですか?」

「ならば、雑巾に箒に、必要ですね。しばしお待ちを。」

 童はくるりと回ると、次の瞬間にはどこから持ってきたのか、バケツに雑巾、それに箒に手ぬぐいと、掃除道具を準備して現れた。

「ありがとう。」

 光葉はたすき掛けを行うと、笑みを浮かべて掃除に取り掛かった。

 まずは上の棚から、埃を落として、棚の上に載っている品々は丁寧に移動させて綺麗な雑巾でからぶきしていく。そして棚は濡れた雑巾でしっかりと拭いてから、からぶきを行い、綺麗になった品々をまた並べていく。

 童ももちろんそれを手伝っていると、掃除を聞きつけた化け狐の子ども達も手伝いに駆けつけた。

 まだ幼い化け狐の子ども達は、耳と尻尾は隠せないまま、子どもの姿で一生懸命に手伝いをする。

「皆来てくれたの?ありがとう。とても助かるわ。」

 光葉が額から落ちる汗をぬぐいながら礼を言うと、子ぎつねたちはコンコンと笑い声を上げて頷いた。

 どうやら人に化けている間はまだ上手くしゃべれないようで、それも練習中だと聞いている。

 そんな中、光葉は管を見つけ、何だろうかと穴を覗いて驚いた。

「あらあら、こんな所にも可愛らしい狐さんが。」

 管狐が眠っていたのだろう。管から出てくると、背伸びをして光葉の肩にちょこんと乗った。

「ふふ。お昼寝の邪魔をしてごめんなさいねぇ。」

「おぉ。管狐。こんな所にいたのか。」

「良かった良かった。先日親方様が探しておったのだ。お嫁様。良い仕事をいたしましたな。」

 童達に手を叩いて褒められて、光葉はふふっと笑みを浮かべると管狐を優しく撫でた。

「お前を親方様が探しているのですって。可愛い子ねぇ。」

 部屋はあっという間にぴかぴかになり、天井の隙間からすすわたりが大急ぎで引っ越しをしていく。

「あの子達には悪い事をしたかしら?」

 光葉はすすわたりを見つけると、困ったようにそう言ったのだが、それに童は首を何度も横に振った。

「あの子らは部屋をすすだらけにするからねぇ。掃除は大事。」

「そうそう。お嫁様は好きな事を好きなようにしたらいい。」

「そうかしら?ふふ。ありがとう。」

 光葉は片付けまで終えると、綺麗になった部屋を見て満足するように頷いた。

「うん。やっぱり気持ちがいいわね。」

「屋敷も喜んでいる。」

「屋敷はお嫁様が好きだな。」

「え?本当に?」

「あぁ。その証拠に、親方様が探していた管狐をお嫁様に見つけさせた。」

「屋敷も親方様とお嫁様の祝言を喜んでおるのだ。」

 光葉はそうだったらいいなぁと笑みを浮かべ、管狐の頭を優しく撫でるのであった。



 



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