上 下
4 / 9

第四話

しおりを挟む
 人と人ではないモノらが門を潜っていく。

 暁はいつの間にか狐の面を被っており、僕の手を引きながら言った。

「壱も顔は隠していた方がいい。ほら、貸してやる。」

 差し出された狐の面を僕は受けとるとつけた。

 門を潜るとさらに人と人でないモノたちは増えた。

「わぁ。」

 僕はその光景に思わず目を見張った。

 日本庭園の庭には、金色の川が流れ、眩い蛍の光が空へと昇る。

「綺麗だね。」

「ん?あぁ。なぁ、お前にはどう見えるんだ?」

 その言葉に、僕は首をかしげながらも見える光景を丁寧に説明した。

「川が金色だね。蛍がたくさん、星みたいに飛んでいる。それに、ほら。小さな船に光をのせて流しているのがとても綺麗だ。灯籠っていうのかな?」

「ふっ。灯籠はいくつながれているんだ?」

 僕は暁の言葉に眉間にシワを寄せた。

 こんなにもたくさんの灯籠を数えきれるわけもなく、何と返事をしようかと悩む。

 結果返事は曖昧になった。

「たくさん?」

「ほう。両の手では数えきれないか?」

 僕は灯籠を見て、それから暁に視線を戻すと言った。

「数えきれるわけないでしょ?見てわかるでしょう?」

 その言葉にクククッと暁は笑い声を漏らすと僕の耳元で囁いた。

「普通の人間には、あそこには川も見えなければ蛍もましてや灯籠なんてものは見えない。見えるやつでも、灯籠が数個がやっとだ。」

「え?」

 暁はとても嬉しそうに言った。

「お前の目は普通じゃないってことだ。俺が会ってきたモノの中でおそらくお前が一番目がいい。」

「え。」

 僕は回りを見回して、そして思った。

 見える人、不思議な生きモノ。彼らならば同じ景色が見えているのだと思った。

 けれど、違うのだ。

 僕はそのことにひどく落胆すると、揚々と歩く暁の後を静かに着いていった。

「お前の実力が分かって良かった。お前ならきっと俺の探しているものを見つけられる。」

「探しているものってなんなの?」

「俺の大切なものだ。これ、見えるか?」

 暁の差し出した手には一つの勾玉が握られていた。

「赤い勾玉?」

「あぁ。これと同じだとお前が思うものを見付けてほしい。」

「ふーん。それ、見つけたら僕になんのメリットがあるの?」

「お前の知り得なかった世界を見せてやる。」

「ふーん。まぁ、探すくらいならいっか。それじゃ、今日はこの屋敷を探すの?」

「あぁ。でも、この屋敷には色んなモノがいるから慎重にな。」

「はぁ。わかったよ。」

 僕はため息をついて見せながらも、少しだけ期待に胸を膨らませた。

 自分の知り得なかった世界がある。

 それだけで、もしかしたら自分を受け入れてくれる世界があるのではないかと思うのであった。



しおりを挟む

処理中です...