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第二話 奴隷の少年
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大きく深呼吸してから、私は細く汚い路地をローブを頭からすっぽりとかぶって歩いていく。
はたから見れば、怪しさこの上ないが、この国にはそうした服装は普通であり、路地裏に入ればほとんどの者達が顔を隠している。
この国は今かなり荒れており、気を抜けば子どもは攫われるし、襲われて物を取られることもしばしばである。
私は物語では赤子の頃に国が帝国によって滅ぼされ、紆余曲折あってこの帝国の孤児院に引き取られてそこで十二歳までは平和に暮らせるはずであるが、ここで私はいくつかの事が気になっている。
今現在の私の年齢は十。
物語の中では孤児院は大切に私の事を育ててくれていたが、ハッキリ言おう。環境は最悪である。
朝ごはんは出てもパン一つ。昼と夜にはごみクズみたいな野菜が入ったまずいスープが付く。
なので私は幼い頃からお小遣い稼ぎに町まで来ては、朝から晩まで働いている。
煙突掃除に靴磨き、荷物の配達に買い物の手伝い。出来ることは何でもやるし、大抵は女の格好をすると嫌がられるので、すすまみれの男の子みたいな恰好で走り回っている。
おかしい。物語では、心優しい主人公が弟や妹たちの世話をしながら孤児院のシスターらと共に暮らしていたはずなのに、私は小汚い恰好で路地裏を歩いている。
おそらくは、私が馬鹿なせいだと思う。
いや、おそらくはというよりも、絶対に。
物語の中で主人公は教会の運営の仕方などをシスターらと話し合いながら頑張って立て直していた。
だが、はい。
主人公が私なものですから、馬鹿なので運営の仕方など幼い頃からシスターと話し合っている事もなく、その為環境は劣悪な物へとなっております。
ごめんな、みんな。
私が馬鹿なばっかりに。
本当ならばみんなアハハ、ウフフな感じで楽しく孤児院生活をエンジョイできていたはずなのに、私という主人公が機能しないばっかりに、本当に申し訳ない。
けどな、言わせてよ。
ちっちゃな頃から孤児院の運営が出来る主人公すごすぎでしょう。シスターも何故子どもの戯言を信じて一緒に話し合えるのか。
いや、物語としては主人公がチートな方がいいですよね。
良いなぁ。チート。
憧れますよ。本当に、なんで私馬鹿なんだろう。
そう思うとかなりがっくりとしてくる。
何で私が物語の主人公なんかになったんだ。私はただの馬鹿なのに。私があの主人公のように頭がよくて、素敵な女の子ならこうはならなかっただろう。
自分の両方の手を見てため息が出る。
到底お姫様の手ではない。
あかぎればかりで、土や灰で薄汚れているし、匂いを嗅げば灰の匂いがする。
それでも、それでも馬鹿でも生きるために頑張って行かなければいけない。
物語を思い出してから数日間が立ち、私は物語を一生懸命に覚えている限りを書いていった。そして、思ったのだ。
私はこの主人公のように表だって動いていくのは無理だ。
だから、出来るだけ、陰ながら、物語を手助けしていこうと思った。
目立たないようにして最終的には亡国の姫君なんてことはばれないようにして、平民として生きようと心に決めた。
だって、亡国の姫君?(笑)って、鼻で笑われたくない。恥ずかしい。
馬鹿な私にそれが可能なのかは分からない。けれど、このまま私が動かないままだとおそらくはこの国はどんどんと悪化していくばかりである。
人は簡単に死ぬ。
それはこの国に生きていれば分かる。
だから、私は自分が生き残るために、他の人が少しでも死ぬのが減るように一生懸命に生きよう。
その為に私がまずできる事は。
ガチャリと手錠の鎖がぶつかり合う音が聞こえた。
視線を移すと、そこには檻の中に入れられた人々の姿と、それをしげしげと見つめてはにやにやと下世話な笑みを浮かべる男達。中には女もいるがその装いから見て金を持っている人たちである。
この帝国は今病んでいる。
貧富の差はどんどんと開いていき、人を売り買いするのも日常と化している。
物陰から見つめるその先には、一人の薄汚れた少年が見える。
彼こそがこの国を主人公と共に救う者である。
彼はこの帝国の本来であれば正統なる王位継承者である。だが、陰謀によりその身は死んだことにされ、生きながらえる事は出来たものの奴隷の身に落とされるのである。
物語の初め、エルマティア帝国の建国記念日の今日、町で主人公は彼とすれ違う。
そう。ただ、運命の分かれ目のようにすれ違うだけ。
彼はそれから二年間を奴隷としてすごし、憎しみを携え、そして十二歳の時に反逆の旗を掲げるのだ。
私は思った。
物語の中であれば、たった数ページだ。だが、今生きている私にとっての二年後は、本当に生きていられるかもわからない先。
彼が、本当に生きていられるのかも、現実となった今では分からない。
だから、私は馬鹿なりに考えた。
よし、彼を逃がそう。
私は馬鹿だから、自分の手で彼を逃がしてその後彼が成長するのを見守るのとかは出来ない。だから、朝のうちに調べてある。
彼を逃がして、託せる人に押し付けよう。
私は暗くなるのを路地裏でゴミのふりをしながらひたすらに待った。
はたから見れば、怪しさこの上ないが、この国にはそうした服装は普通であり、路地裏に入ればほとんどの者達が顔を隠している。
この国は今かなり荒れており、気を抜けば子どもは攫われるし、襲われて物を取られることもしばしばである。
私は物語では赤子の頃に国が帝国によって滅ぼされ、紆余曲折あってこの帝国の孤児院に引き取られてそこで十二歳までは平和に暮らせるはずであるが、ここで私はいくつかの事が気になっている。
今現在の私の年齢は十。
物語の中では孤児院は大切に私の事を育ててくれていたが、ハッキリ言おう。環境は最悪である。
朝ごはんは出てもパン一つ。昼と夜にはごみクズみたいな野菜が入ったまずいスープが付く。
なので私は幼い頃からお小遣い稼ぎに町まで来ては、朝から晩まで働いている。
煙突掃除に靴磨き、荷物の配達に買い物の手伝い。出来ることは何でもやるし、大抵は女の格好をすると嫌がられるので、すすまみれの男の子みたいな恰好で走り回っている。
おかしい。物語では、心優しい主人公が弟や妹たちの世話をしながら孤児院のシスターらと共に暮らしていたはずなのに、私は小汚い恰好で路地裏を歩いている。
おそらくは、私が馬鹿なせいだと思う。
いや、おそらくはというよりも、絶対に。
物語の中で主人公は教会の運営の仕方などをシスターらと話し合いながら頑張って立て直していた。
だが、はい。
主人公が私なものですから、馬鹿なので運営の仕方など幼い頃からシスターと話し合っている事もなく、その為環境は劣悪な物へとなっております。
ごめんな、みんな。
私が馬鹿なばっかりに。
本当ならばみんなアハハ、ウフフな感じで楽しく孤児院生活をエンジョイできていたはずなのに、私という主人公が機能しないばっかりに、本当に申し訳ない。
けどな、言わせてよ。
ちっちゃな頃から孤児院の運営が出来る主人公すごすぎでしょう。シスターも何故子どもの戯言を信じて一緒に話し合えるのか。
いや、物語としては主人公がチートな方がいいですよね。
良いなぁ。チート。
憧れますよ。本当に、なんで私馬鹿なんだろう。
そう思うとかなりがっくりとしてくる。
何で私が物語の主人公なんかになったんだ。私はただの馬鹿なのに。私があの主人公のように頭がよくて、素敵な女の子ならこうはならなかっただろう。
自分の両方の手を見てため息が出る。
到底お姫様の手ではない。
あかぎればかりで、土や灰で薄汚れているし、匂いを嗅げば灰の匂いがする。
それでも、それでも馬鹿でも生きるために頑張って行かなければいけない。
物語を思い出してから数日間が立ち、私は物語を一生懸命に覚えている限りを書いていった。そして、思ったのだ。
私はこの主人公のように表だって動いていくのは無理だ。
だから、出来るだけ、陰ながら、物語を手助けしていこうと思った。
目立たないようにして最終的には亡国の姫君なんてことはばれないようにして、平民として生きようと心に決めた。
だって、亡国の姫君?(笑)って、鼻で笑われたくない。恥ずかしい。
馬鹿な私にそれが可能なのかは分からない。けれど、このまま私が動かないままだとおそらくはこの国はどんどんと悪化していくばかりである。
人は簡単に死ぬ。
それはこの国に生きていれば分かる。
だから、私は自分が生き残るために、他の人が少しでも死ぬのが減るように一生懸命に生きよう。
その為に私がまずできる事は。
ガチャリと手錠の鎖がぶつかり合う音が聞こえた。
視線を移すと、そこには檻の中に入れられた人々の姿と、それをしげしげと見つめてはにやにやと下世話な笑みを浮かべる男達。中には女もいるがその装いから見て金を持っている人たちである。
この帝国は今病んでいる。
貧富の差はどんどんと開いていき、人を売り買いするのも日常と化している。
物陰から見つめるその先には、一人の薄汚れた少年が見える。
彼こそがこの国を主人公と共に救う者である。
彼はこの帝国の本来であれば正統なる王位継承者である。だが、陰謀によりその身は死んだことにされ、生きながらえる事は出来たものの奴隷の身に落とされるのである。
物語の初め、エルマティア帝国の建国記念日の今日、町で主人公は彼とすれ違う。
そう。ただ、運命の分かれ目のようにすれ違うだけ。
彼はそれから二年間を奴隷としてすごし、憎しみを携え、そして十二歳の時に反逆の旗を掲げるのだ。
私は思った。
物語の中であれば、たった数ページだ。だが、今生きている私にとっての二年後は、本当に生きていられるかもわからない先。
彼が、本当に生きていられるのかも、現実となった今では分からない。
だから、私は馬鹿なりに考えた。
よし、彼を逃がそう。
私は馬鹿だから、自分の手で彼を逃がしてその後彼が成長するのを見守るのとかは出来ない。だから、朝のうちに調べてある。
彼を逃がして、託せる人に押し付けよう。
私は暗くなるのを路地裏でゴミのふりをしながらひたすらに待った。
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