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五話 想い

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 アイザックに額にキスされてから数日、私はあれから毎日のように現れては誘惑するような視線を向けてくるアイザックに手を焼いていた。

 こちらの都合の良い時間ばかりに現れるものだから、用事があるとも言えず、私はどうしたらいいのだろうかと戸惑う。

 周りに気づかれないようにはしてくれているが、それでも今の状況はよろしくない。

 私は夕方、花束をもって部屋に現れたアイザックにはっきりと言った。

「アイザック、やめてちょうだい」

 はっきりとそう告げると、悲しそうに目尻を下げてアイザックはこちらを見つめてくる。

 子犬のようで可愛い。

 けれどダメなのだ。 

「迷惑?」

 違う。

 迷惑なのではなくて、ダメなのだ。

「私はハリー様のまだ婚約者よ」

「もうすぐそれも終わるんだろ?」

「それは、そうだけど今は婚約者なのにかわりはないわ」

 アイザックは小さくため息をつくと、前髪を掻き分けながらこちらをじっと見つめてくる。

 う。可愛い。

 私は昔からアイザックに見つめられるのに弱い。

 大きな瞳がこちらを恋しそうに見つめてくるのを嫌に思えるわけがない。

「ずるい。リリーは婚約破棄されたら、俺に口説く時間も与えてくれないくせに」

「だって、貴方はこの国に必要な人だわ」

 アイザックはそれを鼻で笑うと、わざとらしい大きくため息をついた。

「俺は君がいなくなるなら、ここには留まるつもりはないよ」

「え?」

「リリーは本当にずるい。君の未来に俺を入れてくれようとしない」

「だって」

 アイザックはリリーの手をとると、その手を自身の頬に寄せて言った。

「俺が嫌い?」

 嫌いなわけがない。

 アイザックは昔から変わらない。

 ハリーのように、私以外を見たりしない。

 いつも私のことを第一に考えてくれる。

 けれど、アイザックは田舎に引きこもっていい人ではない。

 才能も、能力もある。

 私の都合に付き合わせられるわけがない。

 指先に、アイザックの唇が触れ、見つめられれば心臓がうるさくなる。

「たとえ君がダメだと言っても、俺は君を諦めるつもりはない。田舎暮らし、俺だって楽しみなんだ」 

「え?」

 アイザックは笑うと言った。

「大丈夫。優雅に田舎暮らしが出来るように俺だって手筈は整えている。だからどうかお願いだ」

 私は必死に首を横に振る。

 けれど、もし、アイザックが一緒に来てくれたら、それはそれは楽しいだろうとも思ってしまう。

「・・わかった。なら婚約破棄をされてからまた口説くよ。田舎には勝手についていく」

「え?!」

「リリーが嫌ならちゃんと身を引く。けどリリーは俺のこと、嫌いじゃないだろ?」

 そう言われて、私は顔を真っ赤に染め上げた。

「き、嫌いじゃないけど好きでもないわよ!!」

「そうかなー? ははっ。じゃあまた来る!」

 にやにやとアイザックは笑い、そして花束を私に押し付けると窓から帰っていってしまった。

 レディの部屋に突然現れるなんて本当に困った人だと思いながらも、私はつい口元が緩んでしまった。


 



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