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第一章
ハロルドの決断 61
しおりを挟むおかしい。
もう季節は秋に入ろうというのに、グリードが帰ってこない。
どこに行ったのかも、分からない。
心が不安になる。
「フィリア嬢?」
誰も普段は訪れない、ひっそりとした庭の端のベンチに腰掛け、空を見上げながら息をついていると、ハロルドに声をかけられた。
誰も来ないと思って気を抜いていたフィリアは急に現れたハロルドに驚いたのだが、鬼気迫る顔で寄ってくると、隣に座り腕を捕まれ、びくりとしてしまう。
ぎこちなく笑みを作ろうとすると、ハロルドは首を横に振った。
「無理しないでくれ。」
そう言われた時、ここ最近ずっと気を張っていたこのに自分で気付いた。
目から思わず大粒の涙が流れ落ちる。
「無理ばかりさせてすまない。頑張ってくれてありがとう。」
そこで初めて、自分が思っていた以上に疲れていた事を知る。
「えっと、、大丈夫です。」
「そうか、、、」
ハロルドはゆっくりとフィリアのことを抱きしめた。そして頭を撫でる。
「私は、、、精霊王達に願いたい。私をその勝負に参加させてもらえないかと。」
「え?」
「なんでかあの4人なのだろうな、、、。私であればフィリアを離さないのに。」
その言葉に、フィリアはハロルドの胸を叩いた。
「離して。」
「フィリア。」
「止めて。」
「すまない。忘れてくれ。だからせめて今だけ貴方を慰めさせてくれ。」
「私は平気。」
「なら、その涙が止まるまで。」
頑なに離そうとしないハロルドに、フィリアは諦め、涙を止めようとした。
だが、どうやって止めたらいいのかが分からない。
いつもはどうしていた?
そう。いつもは泣く前にグリードが一緒にいて、涙を笑顔に変えてくれた。
「フィリア。私の胸で、他の男を思い出さないでくれ。」
抱きしめる腕に力が入り、フィリアの体は強張った。
「殿下、、、お願い。離して。私は、、たった一人しか愛せないの。」
「他の者に笑顔を振りまくのにか?」
「嘘だと、告げているからできるの。演技だと自分で割り切れるから、、。でも、これは演技は必要ないでしょ。」
「あの4人はずるいな。演技であっても貴方の美しい笑顔を見られる。」
フィリアはそれに笑った。
「殿下、私をあまり見くびらないで下さいまし。」
「?」
「私は、欲張りだから、私が一番でない人には絶対に揺らぎませんわ。もし、その私への思いが本物というなら、王家の打算など置いてきて下さいませ。」
自分の心を見透かされた発言に、ハロルドは驚きフィリアの顔を見た。
フィリアの涙は止まり、その瞳は僅かな怒りを携えていた。
「私は王家の駒にはなりません。ですが、殿下のおかげで現実を思い出せて涙は止まりましたわ。」
「フィリア。私は本当に君を。」
「慰めようとして下さった優しいお気持ちだけ頂いておきます。ですが、先程もお伝えしたように、打算など消してしまわない限り恋愛の土俵にも上がれませんわよ。」
「私は王族だ。打算ありきでなれば、動けない。しかし、先程伝えた言葉は真実だ。」
「ごめんなさい。私は、打算も現実も全てを捨てても私を愛してくれる人がいいの。」
「それがグリードだと?彼は人ですらない。」
フィリアはにこりとほほ笑むと首を横に振った。
「彼の場合は逆ね。私が、打算も、現実も、全て捨ててでも一緒にいたいの。彼を愛しているの。」
ハロルドはフィリアと少し離れると、大きくため息をついた。
「羨ましいな。そんなにまで強く愛せる事も、君に愛される事も。」
熱のこもった瞳から、ハロルドの真剣さが伝わって来る。
ハロルドはフィリアの頭を撫でた。
「なら、君を支える親友にならせてくれないか?」
「え?」
「友ならば、王族としての打算など考えなくてすむ。」
フィリアはその言葉に嬉しさを感じた。
「親友。心の友。いいですね、それ。」
「親友になら、いくら甘えても泣き言を言ってもいいぞ。しかも親友だからな、裏切らない。」
「ふふ。はい。ならそれでよろしくお願いします。」
「よし、なら疲れたらいつでも言うように。最高級の癒やしを与えよう!」
「わあ!素敵!」
ハロルドはそのフィリアの嬉しそうな様子に、自分の恋心に蓋をした。
自分は王族で、フィリア相手ではどうしても政略的な打算が生まれてしまう。
だから、この恋心には蓋をして、君を親友として支えよう。
フィリアの笑顔を守るために、ハロルドのした決断であった。
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