【完結】ヒロインは暗黒龍と共に、悪役令嬢の恋を応援します!

かのん

文字の大きさ
62 / 159
第一章

 ハロルドの決断 61

しおりを挟む

 おかしい。



 もう季節は秋に入ろうというのに、グリードが帰ってこない。



 どこに行ったのかも、分からない。



 心が不安になる。



「フィリア嬢?」



 誰も普段は訪れない、ひっそりとした庭の端のベンチに腰掛け、空を見上げながら息をついていると、ハロルドに声をかけられた。



 誰も来ないと思って気を抜いていたフィリアは急に現れたハロルドに驚いたのだが、鬼気迫る顔で寄ってくると、隣に座り腕を捕まれ、びくりとしてしまう。



 ぎこちなく笑みを作ろうとすると、ハロルドは首を横に振った。



「無理しないでくれ。」



 そう言われた時、ここ最近ずっと気を張っていたこのに自分で気付いた。



 目から思わず大粒の涙が流れ落ちる。



「無理ばかりさせてすまない。頑張ってくれてありがとう。」



 そこで初めて、自分が思っていた以上に疲れていた事を知る。



「えっと、、大丈夫です。」



「そうか、、、」



 ハロルドはゆっくりとフィリアのことを抱きしめた。そして頭を撫でる。



「私は、、、精霊王達に願いたい。私をその勝負に参加させてもらえないかと。」



「え?」



「なんでかあの4人なのだろうな、、、。私であればフィリアを離さないのに。」



 その言葉に、フィリアはハロルドの胸を叩いた。



「離して。」



「フィリア。」



「止めて。」



「すまない。忘れてくれ。だからせめて今だけ貴方を慰めさせてくれ。」



「私は平気。」



「なら、その涙が止まるまで。」



 頑なに離そうとしないハロルドに、フィリアは諦め、涙を止めようとした。



 だが、どうやって止めたらいいのかが分からない。



 いつもはどうしていた?



 そう。いつもは泣く前にグリードが一緒にいて、涙を笑顔に変えてくれた。



「フィリア。私の胸で、他の男を思い出さないでくれ。」



 抱きしめる腕に力が入り、フィリアの体は強張った。



「殿下、、、お願い。離して。私は、、たった一人しか愛せないの。」



「他の者に笑顔を振りまくのにか?」



「嘘だと、告げているからできるの。演技だと自分で割り切れるから、、。でも、これは演技は必要ないでしょ。」



「あの4人はずるいな。演技であっても貴方の美しい笑顔を見られる。」



 フィリアはそれに笑った。



「殿下、私をあまり見くびらないで下さいまし。」



「?」



「私は、欲張りだから、私が一番でない人には絶対に揺らぎませんわ。もし、その私への思いが本物というなら、王家の打算など置いてきて下さいませ。」



 自分の心を見透かされた発言に、ハロルドは驚きフィリアの顔を見た。



 フィリアの涙は止まり、その瞳は僅かな怒りを携えていた。



「私は王家の駒にはなりません。ですが、殿下のおかげで現実を思い出せて涙は止まりましたわ。」



「フィリア。私は本当に君を。」



「慰めようとして下さった優しいお気持ちだけ頂いておきます。ですが、先程もお伝えしたように、打算など消してしまわない限り恋愛の土俵にも上がれませんわよ。」



「私は王族だ。打算ありきでなれば、動けない。しかし、先程伝えた言葉は真実だ。」



「ごめんなさい。私は、打算も現実も全てを捨てても私を愛してくれる人がいいの。」



「それがグリードだと?彼は人ですらない。」



 フィリアはにこりとほほ笑むと首を横に振った。



「彼の場合は逆ね。私が、打算も、現実も、全て捨ててでも一緒にいたいの。彼を愛しているの。」



 ハロルドはフィリアと少し離れると、大きくため息をついた。



「羨ましいな。そんなにまで強く愛せる事も、君に愛される事も。」



 熱のこもった瞳から、ハロルドの真剣さが伝わって来る。



 ハロルドはフィリアの頭を撫でた。



「なら、君を支える親友にならせてくれないか?」



「え?」



「友ならば、王族としての打算など考えなくてすむ。」



 フィリアはその言葉に嬉しさを感じた。



「親友。心の友。いいですね、それ。」



「親友になら、いくら甘えても泣き言を言ってもいいぞ。しかも親友だからな、裏切らない。」



「ふふ。はい。ならそれでよろしくお願いします。」



「よし、なら疲れたらいつでも言うように。最高級の癒やしを与えよう!」



「わあ!素敵!」



 ハロルドはそのフィリアの嬉しそうな様子に、自分の恋心に蓋をした。



 自分は王族で、フィリア相手ではどうしても政略的な打算が生まれてしまう。



 だから、この恋心には蓋をして、君を親友として支えよう。 



 フィリアの笑顔を守るために、ハロルドのした決断であった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...