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第一章
アイデール王国 99
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フィリアはグリードの背中を叩き、やっと少し腕の力を緩めてもらうと、現状を掻い摘んで説明した。
その間も、フィリアは抱きしめられたままであり、ルーナとアレクシスの視線が痛くてたまらなかった。
「状況は分かった。」
「そう。で、グリード?そろそろ離してもらえないかしら?」
すると、グリードはイヤイヤと首を振ると、フィリアの肩口に顔を埋めた。
「やだ。」
小さく聞こえた声に、いつからそんな風になったのかと突っ込みそうになる。
「恥ずかしいわ。」
「最近ニフエルのせいで、フィリアが足りない。」
その言葉に、フィリアは顔を赤らめた。
自分ばかりが引っ付きたがっているのではと心配していたので、嬉しくなってしまう。
「う、、、ごほ、ごほん!」
その時、わざとらしいアレクシスの咳が聞こえて、フィリアはグリードを慌てて引き剥がすと部屋に戻り、グリードを紹介した。
アレクシスもルーナも、グリードの正体が気になったようではあったが、現状の打開策を練るほうが重要としたようで、尋ねる事はなかった。
「フィリア、俺が中に入り調べてこようか?」
その言葉に、フィリアは、唸り声を上げた。
確かにそうすればかなり楽である。だが、ここの災いの魔力と、グリードの体内にある災いの魔力が同等のモノなのかが分からない。
そんな状態で、グリードを危険な目には合わせたくない。
「まずは探知の魔法で災いの魔力の中を調べてからね。」
「なら、人手が多いほうがいいな。場所が分かったら瞬間移動も出来る。連れてくる。」
「え?」
フィリアが首を傾げた瞬間、グリードは消え、そして全員連れて戻ってきた。
そう。
全員。
連れてこられた方も目が点だ。
だが、フィリアの姿を捉えると令嬢方はいち早く動き、フィリアを抱き締めた。
『フィリア!』
皆が無事を安堵しているのが分かり、アレクシスもルーナも罪悪感に苛まれる。
だが、フィリアが簡単にことの経緯を話すと、文句を言うものはおらず、二人は内心ほっと息を吐いた。
ハロルドは、アレクシスの前に行くと挨拶を交わした。
「この度は急に押しかけてしまいますすまない。本来は私が来るべきではないのだがね。」
笑顔の裏に敵意を感じ、アレクシスの額から汗が一筋落ちた。
「申し訳ない。この礼はいずれ行う。」
ハロルドは横にいたルーナに視線を移した。
「ルーナ嬢。貴方がここにいるのに、我が兄はどこにいる?」
それにルーナは優雅にほほえみを浮かべると言った。
「ハロルド殿下。ウィリアム殿下は、病にかかってしまったようです。ですので、今は安静にしてますの。」
「病?」
「はい。特大級の恋の病です。あれは1日2日では治りませんわ。アリア様の横で変なお顔で安静にしております。」
その言葉にハロルドは目を丸くした。
あの、兄が、恋の病?
気味の悪い冗談にしか聞こえない。
「え、、と、、ルーナ嬢は。」
「あ、お気遣いなく。もう吹っ切れております。ウィリアム殿下からは婚約破棄するかもしれないと伺っておりますわ。」
はっきりとした言いようにハロルドはまた驚いた。
ルーナは確かに兄を慕っていた気がするのだが。
そんなハロルドの心を読んだように、ルーナは扇子をパッと開き口元を隠すとコロコロと笑い声を上げた。
「私、あんな腑抜けたお方を好きになったのではありませんわ。常に前を向き、時には人を諌め、国の為にと動くお方の伴侶に私はなりたかったのです。」
ハロルドは、息を呑んだ。
これまでルーナがそんなふうに考えていたなど、知りもしなかった。
だが、ルーナと王家との婚約は国の決め事。
「腑抜けた兄を私が諌めましょう。またこの話は後ほど。それでは、今後の動きを確かめよう。フィリア。考えを聞かせてくれ。」
そして、話し合いは始まった。
その間も、フィリアは抱きしめられたままであり、ルーナとアレクシスの視線が痛くてたまらなかった。
「状況は分かった。」
「そう。で、グリード?そろそろ離してもらえないかしら?」
すると、グリードはイヤイヤと首を振ると、フィリアの肩口に顔を埋めた。
「やだ。」
小さく聞こえた声に、いつからそんな風になったのかと突っ込みそうになる。
「恥ずかしいわ。」
「最近ニフエルのせいで、フィリアが足りない。」
その言葉に、フィリアは顔を赤らめた。
自分ばかりが引っ付きたがっているのではと心配していたので、嬉しくなってしまう。
「う、、、ごほ、ごほん!」
その時、わざとらしいアレクシスの咳が聞こえて、フィリアはグリードを慌てて引き剥がすと部屋に戻り、グリードを紹介した。
アレクシスもルーナも、グリードの正体が気になったようではあったが、現状の打開策を練るほうが重要としたようで、尋ねる事はなかった。
「フィリア、俺が中に入り調べてこようか?」
その言葉に、フィリアは、唸り声を上げた。
確かにそうすればかなり楽である。だが、ここの災いの魔力と、グリードの体内にある災いの魔力が同等のモノなのかが分からない。
そんな状態で、グリードを危険な目には合わせたくない。
「まずは探知の魔法で災いの魔力の中を調べてからね。」
「なら、人手が多いほうがいいな。場所が分かったら瞬間移動も出来る。連れてくる。」
「え?」
フィリアが首を傾げた瞬間、グリードは消え、そして全員連れて戻ってきた。
そう。
全員。
連れてこられた方も目が点だ。
だが、フィリアの姿を捉えると令嬢方はいち早く動き、フィリアを抱き締めた。
『フィリア!』
皆が無事を安堵しているのが分かり、アレクシスもルーナも罪悪感に苛まれる。
だが、フィリアが簡単にことの経緯を話すと、文句を言うものはおらず、二人は内心ほっと息を吐いた。
ハロルドは、アレクシスの前に行くと挨拶を交わした。
「この度は急に押しかけてしまいますすまない。本来は私が来るべきではないのだがね。」
笑顔の裏に敵意を感じ、アレクシスの額から汗が一筋落ちた。
「申し訳ない。この礼はいずれ行う。」
ハロルドは横にいたルーナに視線を移した。
「ルーナ嬢。貴方がここにいるのに、我が兄はどこにいる?」
それにルーナは優雅にほほえみを浮かべると言った。
「ハロルド殿下。ウィリアム殿下は、病にかかってしまったようです。ですので、今は安静にしてますの。」
「病?」
「はい。特大級の恋の病です。あれは1日2日では治りませんわ。アリア様の横で変なお顔で安静にしております。」
その言葉にハロルドは目を丸くした。
あの、兄が、恋の病?
気味の悪い冗談にしか聞こえない。
「え、、と、、ルーナ嬢は。」
「あ、お気遣いなく。もう吹っ切れております。ウィリアム殿下からは婚約破棄するかもしれないと伺っておりますわ。」
はっきりとした言いようにハロルドはまた驚いた。
ルーナは確かに兄を慕っていた気がするのだが。
そんなハロルドの心を読んだように、ルーナは扇子をパッと開き口元を隠すとコロコロと笑い声を上げた。
「私、あんな腑抜けたお方を好きになったのではありませんわ。常に前を向き、時には人を諌め、国の為にと動くお方の伴侶に私はなりたかったのです。」
ハロルドは、息を呑んだ。
これまでルーナがそんなふうに考えていたなど、知りもしなかった。
だが、ルーナと王家との婚約は国の決め事。
「腑抜けた兄を私が諌めましょう。またこの話は後ほど。それでは、今後の動きを確かめよう。フィリア。考えを聞かせてくれ。」
そして、話し合いは始まった。
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