【完結】ヒロインは暗黒龍と共に、悪役令嬢の恋を応援します!

かのん

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第一章

ロイとマリアの結婚式

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 扉の前で、ロイは項垂れ、そしてフィリアはそれを見て呆れ顔で立っていた。




 それは時を遡ること少し前。

 マリアは美しく純白の衣装をまとい、ほんのり頬を朱に染めていた。

 やっと結婚式だ。

 明日からは夫婦としてロイと過ごしていくのだとマリアは嬉しげに微笑んだ。

「ロイ様の支度は終わりましたの?」

 近くにいるメイドに尋ねると、ピクリと肩を揺らし目をそらす。

「えぇ、、、はい。支度は終わっております。」

 その様子に、マリアの眉は上がる。

 まさか、とは思う。

 まさか。

 まさかこんな大事な日まで仕事なんかしていないだろうと、思う。いや、信じたい。

 マリアは冷えた瞳でメイドに言った。

「ロイ様は、何をしているの?」

「ひっ、、、、その。」

「貴方は悪くないわ。答えて。」

 メイドは涙目になりながら答えた。

「お仕事を、、、、されております。」

 この瞬間、マリアの堪忍袋の緒が切れた。

 これまで、何度も何度も言ってきた。

 私と一緒にいる時くらいお仕事は止めてと、言ってきました。

 えぇ、それはもう小姑のように!

 へぇ、こんな大切な日にまで仕事ですか。

 もう!

 もう!

 私が知らないとでも思っているのかしら。今日中に終わらせなければならない仕事が無い事はすでに把握済み。

 だからこそ悲しくなる。

 私にとって、ロイ様はとても大切なのに、ロイ様にとって私とは何なのでしょうか。

 涙が落ちそうになるのをぐっとこらえて、メイド達に部屋から出るように言うと内側から鍵をかけた。

 ロイ様なんて、もう知りませんわ。




 そして冒頭に戻る。

「ロイ様は何をしているんですか。」

 フィリアの呆れた声に、ロイは項垂れたまま言った。

「反省している。、、、、理由は先程言った通りだ。」

「仕方ありませんね。私が一肌脱いであげましょう。」

 フィリアは部屋をノックした。

「お、おい。何度もノックしたがマリアは出てこないぞ?」

 動揺するロイを無視してフィリアは言った。

「マリア?フィリアよ。開けて下さいまし。」

 するとあっさりと扉は空き、フィリアは中へと入った。

 ロイが扉に飛びつく前に閉まり、ガチャりと鍵がかかる。

 マリアはすぐにフィリアに泣きついた。

 その背を何も言わずにフィリアは優しくさする。

 しばらくして、マリアのため息が聞こえた。

「ごめんなさい。フィリア。」

 顔を上げたマリアの目は腫れ、化粧は落ちてしまっている。

 フィリアはニコリと笑った。

「いいのよ。ロイ様が悪いですしね。とりあえず、落ち着いたのならロイ様と話をする事をオススメするわ。今回に限っては、ロイ様の可愛らしい一面が見られると思いますわ。あの方、まだ必死で取り繕っておりますが、本来はデレデレな人ですから。」

「デレデレ?」

「さぁ、その前にお化粧を直しましょう。」

 フィリアはニッコリと笑うとマリアの目元を魔法で直し、化粧は自らの手で行っていく。

「一つ私の夢が叶いましたわ。」

「なぁに?」

 マリアが楽しそうに言うと、フィリアはにっこりと満足げに言った。

「マリアにお化粧をして、さらに美しくなっていただきたかったの。いつもうっすらとしかなさらないでしょ?」

「そうね。でも、私に似合うかしら?」

「もちろんです。ロイ様を骨抜きにしてやりましょう。」

「まぁ!フィリアったら!あの方はならないわよ。」

「いいえ。すでに抜かれていますが、必死に取り繕っているだけです。扉を出ればわかります。さぁ、出来ました。さ、ロイ様と話をして下さいな。」

「怒らないかしら?」

「まさか!大丈夫ですから。頑張って。」

 泣いてすっきりしたマリアは、大きく息を吸って吐いてと深呼吸をすると扉の鍵を開けた。

「マリア!!」

 そこには顔面蒼白にしたロイがいて、マリアは目を丸くした。

 ロイはマリアの前に跪き、瞳をうるうるとさせながら、マリアの手を取った。

「すまなかった!君を傷つけるつもりはなかったんだ。どうか許してくれ。」

 マリアは、ゆっくりと尋ねた。

「どうしてこんな日にまでお仕事を?急ぎの仕事はなかったはずです。」

 その言葉にロイは狼狽え、マリアの様子を見ながら、少し顔を赤らめて言った。

「その、、、欲が出た。」

「え?」

「前倒しをして仕事をすれば、、、君と新婚を楽しめる日が増えると思って、、、その。君としばらく家で、、、その、、、いちゃいちゃしたかったんだ。」

 いちゃいちゃ。

 この堅物から、そんな言葉が出るとは。

 マリアは絶句したのちにどんどんと顔を赤らめていった。

「そ、、、そうだったのですか。」

「あぁ。仕事は終わったから、、、その、、、許してくれるか?」

「、、、、はい。私もごめんなさい。」

 ロイはその瞬間、蕩けるような笑みを浮かべてマリアを抱きしめた。

「あぁ、愛しいマリア。愛しているよ。君が扉を締めた瞬間、どうしたらいいのかと世界が闇に包まれた心地だった。」

「え?、、、えぇ?」

「良かった。本当に。」

 苦しいくらいに抱きしめられてマリアは心臓が激しく脈打った。

「これからしばらく新婚さんでいちゃいちゃできるのが楽しみだ。やっと、全部マリアが手に入る。」

 つむじにキスされて、マリアの心臓はそろそろ持たなそうだった。

 その時、こほん、と咳が聞こえた。

「そろそろ、皆様、お待ちですよ?」

 にやにやと笑うフィリアを見て、マリアは恥ずかしくて死にそうだった。



 ロイとマリアの結婚式は無事終わり、話題はマリアの美しさでもちきりであった。

 その日の晩、マリアの美しい姿は誰にも見せたくないとロイに懇願され、化粧は元のうっすらメイクに戻った。


 そして、しばらくの間ロイとマリアは新婚さんとしていちゃいちゃ屋敷で過ごしたらしい。

 フィリアは、顔を少し赤らめながらニヤニヤしたとかしないとか。








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