魔法使いアルル

かのん

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5話

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◇◇◇
「レレナよ。氷の王国の女王として命じる。そこをどけ」

 名を呼ばれたレレナは、妹を背にかばいながら叫んだ。

「妹のマリアまだ十歳です! そんなマリアがどうして国外追放なのですか!」

 レレナの後ろで震えるマリア。

 それを取り囲んでいるのは氷の国の騎士たちと女王カルト。

「……では、何故王国を裏切るようなことを? 緑の植物は、我が国には必要ない」

 マリアは手に持っていた鉢植えに植えられた植物をぎゅっと抱きしめる。

「ご、ごめんなさい……他国から来た商人にもらったんです。でも、でも別に悪さなんてしない普通の植物です!」

「植物は捨てさせます! ですから、お許しください」

「ならん」

「何故……女王陛下! どうかマリアにチャンスを! まだ十歳の、幼い子です! この国を追い出されて、どうやって生きて行けというのですか!」

 カルトは、静かに述べた。

「そこをどけ。どかねば、そなたも共に追放にするぞ」

 レレナは、その言葉に唇をかむと、うなずいた。

「わかりました。では、私も妹と共に行きます」

「お、お姉様……」

「いいのよ。マリア。さぁ、行きましょう。大丈夫。私が絶対に貴方を守るから」

 カルトはその言葉に、眉間にシワを寄せる。

「氷の王国の民が外で生きていけると? ふふ。バカが。外は氷の王国とは違うのだぞ! 暑さにやられて死ぬのがおちだ」

「それでも、妹を一人で放り出すよりはましです。行こう」

「そうか。では行くがいいさ。さぁ、王国の外に繋がる扉を出してやろう」

 カルトが指をパチンと鳴らすと、目の前に氷の扉が現れる。

 レレナとマリアは決意を固め、扉を開けるとそこから外へと出たが、その光景に言葉を失う。

「ここは……!? 待って! 扉を閉めないで!」

「お姉様!」

 扉がゆっくりと閉まっていく。

 カルトは冷ややかな瞳でじっと見つめながら告げた。

「王国を危機に陥れた妹をかばうとは……そなたも、我が王国の敵だ。我ら氷の王国の民は、植物が育つような大地では生きていけぬのだ。何故それが分からぬのだ……」

 吹雪の山の中で、姉妹二人をカルトは扉で締め出した。

◇◇◇

 まるで悪い夢のような光景だった。

 私の手をレオがぎゅっと握る。それを握り返しながらカルト様の方へと視線を向けると、静かに言った。

「私は王女だ。王国を脅かすものを許しはしない」

 恐ろしい人だ。

 王国のためであれば、姉妹を雪山の中へと放り出してもいいと、そう、思っているのか。

 お父さんがゆっくりと息をつく。

「なるほどな……これは恨まれても仕方はあるまい。さて、それで、今度は現状お教えてくれ」

「現在、王国の数か所でこの植物が目撃され……そして、王国の気温が、少しずつ上昇しているのだ。原因を解明してほしい。どうか、この通りだ」

 頭を下げるカルト様。

「黒い魔法使いが関わっているならば、我らは力を貸そう……だが、カルト殿。本当に、その時の選択が正しかったのか……それを今一度、考えてほしい」

「……力を貸してくれること、感謝する」

 私はうつむき、いいようのない感情を、押し込むことしか出来なかった。

 カルト様と分かれた後、私たちはこれから滞在する部屋へと案内され、荷解きをすませた。

「わしは、氷の王国の今どうなっているのかを調べてくる。アルルとレオは街の様子などを確認してきてくれ。異変や噂話、気になることを見つけてあとから教えてくれ」

「わかった。お父さんいってらっしゃい」

「先生、お気をつけて」

 お父さんはうなずくと、部屋から出ていく。

「アルル、大丈夫?」

 そう尋ねられ、私は深呼吸をすると気持ちを切り替える。

「うん。大丈夫。とにかく調べなきゃね」

「そうだね。行こう」

 私とレオも、一呼吸おいてから街へと情報を集めるために向かったのであった。

 氷の王国はどこへ行っても寒い。

 けれど、町の人たちはまるで南国にでもいるかのような服装だ。

 その格好をみているだけでも寒くなってくる。

 氷の王国の中にある、商店街を二人で並んで歩いていると、自分たちの街とは全然違うことに気がつく。

「レオ見て。氷ジュースだって」

「この寒いのに……」

「食べ物も、冷たいものばかりだ」

「うわぁ。本当だ。それに服屋さんも……寒そうな服ばかりだ」

 氷の国の人たちは、本当に寒さに強いのだなと思い歩いていた時、私は通りを歩いていく男の人を見て、足を止めた。

「え?」

「どうしたのアルル?」

 私は思わず大きな声を出してしまった。

「ロドロ先生!?」

「え?」

 私の声に気がついたのだろう。

 魔法学園で魔法歴史学を教えてくれているロドロ先生が、振り返り、こちらに向かって手をあげた。

「おぉ! アルルさんじゃないか!」

 ロドロ先生はこちらに向かって歩いて来ると、嬉しそうに笑顔で言葉を続けた。

「いやいや、学園の外で会うとは珍しい! わしは、少し気になることがあっての、氷の王国に調査に来ていたのじゃ。アルルさんは、偉大なる大魔法使いアロン殿と共にかな?」

 私はうなずきながら尋ねる。

「はい! お父さんと一緒に来ています。調査って、なんの調査ですか?」

 ロドロ先生はにっこりと微笑んだ後、声を潜めて、小さな声で告げた。

「氷の王国では緑の植物は育たんというのにの、生えたらしいんじゃよ。だから、それを採取しにじゃ。氷の王国に植物が生えるなど、これまでの歴史ではなかったのでな!」

 なるほどと思っていると、ロドロ先生がレオの方へと視線を向ける。

「ちなみに君は?」

「僕はレオナルドと言います。よろしくお願いいたします」

「ふむ。レオナルドさんか。ふむふむ」

 魔法学園に、レオはレオナとして女の子の姿で通っていた。

 けれど、少数の先生にしかそれは伝えられていない。

 ロドロ先生は知っているのか知らないのか。その様子からは分からなかった。

「そうだ。あの、ロドロ先生は氷の王国について詳しいですか?」

 魔法歴史学の先生だから、私たちよりもずっと詳しいだろう。

 せっかくならば、何か教えてもらえないかと思って私がそう尋ねると、ロドロ先生はふむと言ってから、一軒の店
を指さした。

「よければ、お茶でも一杯どうじゃな? 聞きたいことがあるならば教えよう」

 その言葉に私たちはうなずく。

「ありがとうございます!」

「なんのなんの。可愛い生徒からの質問じゃ。しっかりと答えなければな」

 ロドロ先生はお店へと向かい、私たちは後ろからついていく。

 個室の部屋をロドロ先生は頼み、奥の個室へと私たちは入った。

 ロドロ先生が杖を振ると、一瞬で部屋の中が暖かくなる。

「ふぅ。着ている服が重たかった。コートを脱ごうか」

「はい!」

「ありがとうございます」

 ロドロ先生は、座るとメニューを私たちに手渡す。

「食べたい物があれば注文しよう」

「あ、先生、大丈夫です」

 すると、ロドロ先生は笑い声を立てる。

「はっはっは。若者は遠慮をせんでいい。わしはな、金の使い道がほとほとないのじゃ。だから心配するな。パフェはどうだ? パフェ。うむ。わしも食べるとしよう」

 ロドロ先生はそう言うと、飲み物とパフェを注文してくれる。

 私もレオも先生にご馳走になってもいいのかな? と思いつつもせっかくのご好意をありがたくうけることにし
た。

 ただ驚いたのは届いたパフェが想像以上に大きかったこと。

 そして飲み物にも氷がたくさん入っていて、温かくしてもらった部屋で食べても寒く感じると言うこと。

 ロドロ先生も身震いすると、魔法で飲み物の紅茶を温かくしてくれた。

 私たち三人は、温かな紅茶を飲んで、ほう、と息をついた。

「あったかいね、レオ」

「うん。アルル、体に染みわたっていくようだよ」

「ほっほっほ。たしかになぁ。パフェはうまいが、やはり冷えるからな。さてさて、氷の王国について知りたいと言っていたな」

「「はい!」」

 私たちの返事に、ロドロ先生は魔法の杖を振った。

 すると空中に地図が現れて、それを杖で指さしながらロドロ先生は話し始めた。

「氷の王国は、ほかの国との境界線が明確。氷の王国にひとたび入れば肌を指す冷たい正解じゃからな。そしてこの王国で生まれた者はその土地の力が影響し、氷の大地でも生きていける体で生まれると考えられている。だからこそ……氷の王国で生まれた者が外で暮らすことは容易ではない」

 その言葉に、私とレオは街の様子とそれからカルト様が言っていたことを思い出す。

「あの、ロドロ先生、どうして氷の王国には、普通の植物が生えないんですか?」

「氷の王国には氷の植物が生えるからじゃ。その土地に適した植物しか生えないのは自然の摂理じゃよ」

「なるほど……」

「だからの、氷の王国に緑の植物が生えるのは異常なことなのだ。そして、もし生えるとするならばそれは、それは謎の植物ということ。それは歴史上すごい発見になるだろう。わしは知らないことを知ることも、集めることも大好きだからの、それを調べに来たのじゃ」

 ロドロ先生の探求心をすごいなぁと私は思った。

 夢中になれることがあることは素晴らしいことだ。

「教えてくれてありがとうございます」

「なんのなんの」

 私たちはその後、パフェを美味しく食べ終わった後お店を出る。

「さて、わしはもう行くが、何かあれば知らせておくれ」

「はい! 先生にお会い出来て嬉しかったです」

「ふふふ。わしもじゃよ」

 そう言うと、ロドロ先生は私の頭を大きな手で優しく撫でた。

 その瞬間、ぞわっとしたものを一瞬感じた気がしたけれど、顔をあげればいつものロドロ先生だ。

 一体、あの感覚は何だったのだろうか……。
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