魔法使いアルル

かのん

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8話

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「あぁぁぁぁ。その顔はいい! 裏切られたとおもっているのですね! 最高です! さぁて、そろそろ頃合いですかね! ツルたちよ! 魔法使いたちに攻撃をしかけなさい!」

 先ほどまでは自らの意思で動いていたツルたちが、オロチの命令を聞いてこちらに向かって攻撃をしかけてきた。

 私はそれをよけるとオロチに問いかけた。

「どうして……! どうしてこんなことをするの!?」

 オロチは笑い声をあげると、ツルを撫で、それから言った。

「意味なんてありません。面白そうですから! さぁさぁ! 闇に染まったものは、黒い魔法使いの忠実な僕。ふふふふ。ひひひひ」

 その言葉に、お父さんが声をあげた。

「ならば、すぐに光に帰してやるわい! 光よ闇を打ち消せ!」

 お父さんの杖から光が溢れ、闇に染まったツルを照らす。

 光によって闇が消し飛んだかに見えたけれど、一瞬でまた闇に染まってしまう。

「ふふふ。そりゃあそうですよ。極上の闇の魔力です。ねぇ。姫君」

 にやりとしたオロチに、私は声を荒げた。

「素敵な先生だと思っていたのに! 信じていたのに!」

 オロチの瞳が、仄暗く輝く。

「自分以外を信じるなど……愚かなことですね。他人など……信じて何になるのです」

 その言葉に、オロチの心の奥底にある黒い闇がちらついて見えた。

「そんなことない! 人と人は信じあい、助け合うことができるもの!」

 お父さんに出会って私はそれを知った。

「あぁなんということだ……姫君は……過去を忘れたのですか?」

「……」

「誰にも愛されず、邪魔者扱いをされ、ごみのような扱いをうけたことがあるというのに?」

 オロチは私の過去も知っているのだな。

 たしかに、私はずっと一人ぼっちだった。信じられる人なんて誰も傍にいなかった。

 でも、今は違う。

「たしかに、昔は、ずっと一人だった。だから信じられないっていう気持ちも分かる。でも今は、信じたいと思うし、信じあえるものだってそう知っているもの」

 すると、オロチは、だらんと腕を下げた。

 がっくりとしているようなその様子に身構えていると、オロチがこちらをぎろりと睨みつけた後、くくくと喉の奥で笑い声を立てて、私に魔法の杖を向けた。

「そうですか……では、絶望を見せて差し上げます。どうぞ。それを見てもなお、信じられるか……教えてください。姫君」

「アルル! 避けるのじゃ!」

「危ない!」

 蛇の形を象った、魔法がこちらに向かって口を開く。お父さんが防御壁を魔法で出した瞬間それをツルが打ち砕き、お父さんとレオはツルに襲われる。

 そして私は杖を構え攻撃を仕掛けるも、それごと、巨大な蛇の魔法に、飲み込まれた。

◇◇◇

 水滴が落ちる音が、響いて聞こえた。

 ぽた……。ぽた……。

 暗い暗い、牢屋の中を、私は覗き込んでいるようだった。

「お父様……お母様……」

 無造作に伸びた長い髪の毛。

 床の上に転がっていたのは、細い、やせこけた男の子だった。

 今のオロチとは似ても似つかないのに、不思議とそれが幼い頃のオロチだと分かる。

 私は、オロチの記憶を見せられていた。

 かび臭い牢屋の中には、何もない。

 響いて聞こえてくるのは、男の子のすすり泣く声だけだった。

 すると、階段から誰かが下りてくる音が聞こえた。

「オロチ。さぁ、今日の食事を持ってきたよ」

「しっかりと食べるのですよ」

 男の人と、女の人だった。オロチの両親なのだろう。どことなく目鼻立ちがよく似ている。

 オロチは体を起き上がらせると、二人に向かって、手を伸ばす。

「お父様、お母様、お、お願いです。ここから、出してください」

 すると、オロチの両親は首を横に振る。

「すべての俗世から離れて、身を清めなければ」

「明日には神へ貴方は捧げられるのですからね。本来なら私たちも会ってはいけないのですよ」

 オロチは、泣きじゃくりながら、二人に手を伸ばす。

「いい子に……しますから。だから、だからお願いです。僕、ずっとお父様とお母様の傍に居たいです……」

 二人は不思議そうに首を横に振る。

「神に捧げられることは、栄誉なとなのだぞ」

「そうですよ」

 嬉しそうに二人が微笑む。

 オロチは絶望に染まった瞳で、涙を流し続けていた。

 私は、状況が分からずにいると、いつの間にかに、私の横には本物のオロチの姿があった。

「アルル様、これはね、私が七歳のころの記憶です。特別にお見せしましょう。人を信じることのなんと愚かなことかわかるでしょうから」

「オロチ……」

 すると、太っていたはずのオロチの姿が、痩せたひょろりとした青年の姿へと変わる。

「太った大人姿は仮の姿なんです。私の本当の姿はこれです。幻はね、私を守る鎧なんですよ……現実は、恐ろしいから」

 場面が切り替わり、オロチが泉のふちに縛られた状態で、立たされていた。

 そこには白い服を着た人たちがたくさん集まっており、オロチの両親もその中にいる。

 そして、目の前にある泉に向かって祈りを捧げている。

「お父様! お母様! た、助けてください。お願いします。僕死にたくない! 死にたくない! 嫌だ! 神に捧げられるなんて嫌だ!」

 泣き叫ぶオロチの元に、両親は歩み寄ると、そんなオロチを抱きしめた。

「信じなさい」

「神は貴方と共にいるのよ」

 何を言っても聞いてくれない両親のその様子に、オロチの涙は滝のように流れ落ちる。

 そんな過去の自分を見つめながらオロチは言った。

「私の両親は普通の人でした。そんな普通の両親の元に、神への信仰心を唱える方が来た。その日から我が家は狂っていきました。すべては神のために。神を信じ崇めよ。そうすれば救われる。両親はいとも簡単に信じ、そして信じ
て私を神の生贄に捧げた」

「そんな……」

 私は、純粋に怖かった。

 神様を信じることは悪いことではないと思う。

 だけど、信じたもののために、自分の子を?

「見て、アルル様。両親の嬉しそうな顔を」

 視線をオロチの両親へと向けると、オロチがみこしに担がれて、泉の中へと入れられていくのを嬉しそうな笑顔で見送っていた。

 そしてオロチが岩の上へと乗せられると、みこしを担いでいた人々は早々に泉の外へと上がってきた。

 皆がそして泉に向かって祈りを捧げる。

 そんな中、幼いオロチは泣き叫びながらこちらに向かって助けてと声をあげていた。

「子どもが泣き叫ぼうとも、神を信じれば救われる、幸せになれる、そう信じている人です。人間とは愚かだ。すぐに不確かなものを信じ、崇め、崇拝し、我が子すらも生贄に捧げる。信じると言う行為は……愚かなものなのですよ」

 オロチはじっと過去の自分を見つめながらそうつぶやく。

 次の瞬間、泉に巨大な丸々と太った蛇が現れた。一体何を食べればそんなに太るのだろうかというほどに、でっぷりとしている。

 神だと崇めるそれに向かって、人々は頭を下げて祈りを捧げる。

「我が子を捧げます! どうか幸福を!」

「お願いします! お願いします!」

「神様! あぁぁぁあ。なんと神々しいのだぁぁぁ!」

 オロチは言った。

「ただの巨大な蛇だ。現実を見れない人間のなんと愚かなことだ」

 人々の歓声の声が、一瞬で悲鳴へと変わり一体何が起こったのかと目を向けると、黒い闇を幼いオロチが生み出し、泉が真っ黒に染まっていく。

 そして、蛇はオロチの闇に呑み込まれて泉の中へと沈んでいった。

「お母様……お父様……」

 泣きながら闇を吹き出した幼いオロチが手を伸ばすが、両親は走って逃げていく。

「ば、化け物だ!」

「神殺しの化け物よぉぉぉ!」

 先ほどまで神だと崇めていた物を捨てて、散り散りに逃げていく。

 一人きりになったオロチの元へと、ノアが姿を現した。

「すごい闇ですねぇ……素晴らしい才能です」

「誰……」

「私はノア。闇の王を求める、黒い魔法使いです。どうですか? 一緒にきませんか?」

「暗い闇へ?」

「えぇ。皆をこちらへ招いてあげましょう」

 オロチは次の瞬間、幻影の魔法を使い、姿を太った男の人へと変えた。

「おや、素敵な見た目ですね。すぐに闇の力を操るとは、さすがです」

「……人間は見た目に騙されるからね……」

「ふふふ。なるほど。じゃあ行きましょうか」


 記憶は途切れるようにそこで消え、私はオロチと二人、暗闇の中に立っていた。
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