【完結】封印されし箱

かのん

文字の大きさ
1 / 1

封印されし箱

しおりを挟む

 その昔、僕の祖父は勇者であった。

 そして、僕の父も勇者であった。

 故に僕も勇者になった。

 そんな我が家には、祖父から引き継がれた封印されし箱があった。

 祖父は僕を鍛えながら言った。

「いいか、あれはワシがどうにか封印できた魔物じゃ。決して封印を解いてはいかんぞ。」

 木刀を音速で打ち合いながらも、祖父はワシも年を取ったのぉなどと言っていた。

 またある日、父は言った。

「あの箱はお前に引き継ぐ。俺だって我慢できたんだ。絶対に開けてはいけないぞ。」

 父は俺を宙へと投げ飛ばし、僕は必死に次来るであろう攻撃を予測し、受け身をとる。

「約束だぞ?」

 次の瞬間意識が飛んだ。

 毎日のように元勇者の二人にしごかれる日々を送っていると、だんだんと感覚は麻痺してくる。

 封印されし箱は、一見、ただの箱のように見える。

 だが、その箱には繋ぎ目がなく、回りには呪術の施されている後があり、開けるのは容易ではない。

「開けてはならん。」

「絶対に開けるな。」

 毎日のように聞かされる言葉。

 繰り返される勇者修行。

 僕は、必死に自分の中にある衝動を押さえつけた。

 ダメだ。

 ダメだ。ダメだ!

 決して開けてはならないと、祖父にも、父にも毎日のようにしごかれながら言われ続けたのだ。 

 開けてはダメなのだ。

 そう。

 けれど、開けてはいけないと言われると開けたくなるのが人の性である。

 これをずっと堪えてきた父はすごいと、心からそう思った。

 その日も鍛練を終え、そして水浴びを済ませて家へと帰った。

 封印されし箱は倉庫の奥深くに片付けてある。

 近くに置いておけば自分の欲求に勝てない気がしたからだ。

 だが、不意に机の上の書き置きを見つける。

 それは祖父と父が魔物の討伐に出かける旨の書き置きであった。

 今、家にいるのは自分一人だ。

 手が震えた。

 もうこんな機会二度とないかもしれない。

 そう思うと、足は自然と倉庫へと向かっていた。

 ダメだ。

 ダメだ。

 ダメだ!

 そう思うのに、引力に吸い寄せられるかのように僕は倉庫の奥にある、封印されし箱を手に取ってしまう。

 額から汗が流れ落ち、それを手でぬぐう。   

 手のひらも、じっとりと汗をかいていた。

 心が叫ぶ。

 開けてはダメだ!

 そう思っているのに、心とまるで体が分離してしまったかのように言うことを聞かない。

「ダメ・・だ。」

 箱を開けようとする手を、もう片方の手で押さえた。

 けれど、ダメであった。
 
 我慢が出来なかった。

 高度な呪術を一瞬にして僕は弾き、封印を解いてしまう。

 あぁ。

 やってしまった。

 僕は、ごくりと生唾を飲み込み、そして箱を開けた。

「え・・・。」




 箱の中には干からびた、魔物らしきものが入っていた。
   





 指でひょいとつまみ上げると、まるで砂のように砕けちり、風にさらわれて消えてしまった。 

 魔力のかけらもなく、絶命していたのは明らか。

 僕は、ゆっくりと箱を閉じて封印を戻した。

 そりゃあそうだ。

 密閉され、空気もなければ水もない。

 そんな場所に封印されて生きていられるわけがないのだ。

 僕は心がすっきりとして晴れやかな気持ちで眠りについた。

 あの箱の話を聞いてから初めてぐっくりと眠ることが出来たのである。

 こんなに心が穏やかなのはいつぶりであろうか。

 そして、次の日初めて、祖父にも父にも手合わせで勝利することが出来た。

「強くなったのぉ。」

「一皮むけたな!」

 僕はすっきりとした顔で、にっこりと笑った。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ねる
2019.12.21 ねる

読ませて頂きました。
色々考えさせられる話だなと思いました。

2019.12.22 かのん

感想ありがとうございます。

普段とは少し違ったテイストの小説でした。読んでいただけて嬉しかったです。

ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。