【完結】もう貴方とは離縁させていただきます！

十六話 シナリオ

　ユージーンに、リックが怪しい動きをしていると聞いたのは数日前の事だった。ラナはそれを聞き、すぐに自分が囮になることを伝えた。

「ダメだ。」

　ユージーンは何度も、何度もダメだと言ったが、ラナはハッキリと言った。

「私の為に、お願い。もう、夜に恐怖に震えたくないの。」

「ラナ・・・」

　リックと離婚した。もう自分の前にリックが現れることはない。

　そう何度も自分に言い聞かせたが、未だにラナは夜何度も飛び起きて、悪夢にうなされていた。リックが自分の所へやってくる夢。

　あんな男などもう怖くないと思っても、心の片隅に、恐怖が残っている。

　それを断ち切りたかった。

　自分の心に負けたくなかった。

　ユージーンは最終的に、ラナの言葉を受け入れた。

　ラナは表向きはユージーンの誕生日プレゼントを選びに行くことにし、護衛を最低限に着け、侍女には護符を持たせた。

　本当ならば襲われた直後にユージーンはラナを救い出したかった。だが、男爵家からミリアーナをどうか助けてほしいと懇願され、ラナはリックの隠れ住む家を見つける為に誘拐される事を選んだ。

「危険だ。痛い思いをするかもしれない。」

「でも・・ミリアーナがもし私と同じように・・酷い目にあっていたら？」

　あの苦痛の日々を思いだし、ラナは顔を歪めた。

　痛めつけられ、希望をなくされ、心が壊される日常の中に、落とされていたらと思うと、たとえミリアーナであっても、救いたいとラナは思った。

「・・・お願いユージーン。私は大丈夫。だって、貴方がいてくれるもの。」

「ラナ・・・」

　渋々、ラナに甘いユージーンはラナの言葉を受け入れた。そして、現在、ユージーンは鉄格子を破壊すると、ラナを抱き上げていた。

「だから嫌だったんだ。」

　ラナの髪の毛を優しく撫でると、ユージーンはリックを睨みつけた。

「商人の殺害容疑、ラナとミリアーナ嬢の誘拐、雑貨屋襲撃、全ての証拠が揃った。その他にも違法な売買など罪は山住だな。」

「っくそ・・・」

　リック逃げようと小屋の扉を開けるが、そこには武装した騎士らが待ち構えており、すぐにリックに縄がかけられた。

「くそくそくそ！」

　声を荒げるリックに、ラナははっきりとした口調で言った。

「これで、貴方は終わりよ。さようなら。」

「くそぉぉぉぉぉぉ！」

　ラナはその姿を見ながら胸をなでおろし、そして胸の中に残っていた恐怖が消えたのを感じた。これでリックがもう二度と自分の前に現れる可能性はない。

　その時、ミリアーナが女性騎士に抱きかかえられているのが見えた。

　ミリアーナはラナを見ると、涙を流しながら声を上げた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。・・・・ありがとう・・・ありがとう・・・・・・・」

　体を震わせ、頭を下げるその姿に、ラナは小さく息を吐いた。

　ユージーンはそんなラナをぎゅっと抱きしめると言った。

「大丈夫？」

「大丈夫よ。だって、ユージーンがいるもの。あ、ミミーは！？彼女は大丈夫！？」

　ラナの言葉に、ユージーンはため息をつくと頷いた。

「大丈夫だよ。頭を打って、怪我はしたけれど、命に別状はないよ。」

「あぁ、ミミーには悪い事をしてしまったわ。謝らなくては。」

　その様子にユージーンはわざとらしく大きくため息をつくと、ラナの鼻をぎゅっと握って言った。

「僕だって心配した。」

　ユージーンの瞳を見て、ラナは静かに頷くと、ぎゅっとユージーンの首に手を回して抱きしめた。

「ごめんなさい。でも、ありがとう。」

「ん。でも、もう二度とこんな目には合わせないからね。」

「うん。」

　ユージーンの体温を感じて、ラナはほっと息を吐いた。