【完結】玩具の青い鳥

かのん

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第十九話

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 突風が収まり、何が起こったのかわからず呆然と顔を上げると、そこには見知らぬ黒髪の男が立っていた。年は四十を越えたあたりであろうか、長い髪を漆黒の糸で束ねてある。

 長身のその男は、目が細く、鼬のような顔立ちであった。

「お前は竜であろうと臆する事がないようだから、人型で話をしよう。我の名は黒雷。始まりの竜であり、終わりの竜でもある。」

 その瞳はさきほどの竜の鋭さと同じであり、トイは同一人物であると認識すると言った。

「竜は自由自在に人型になれるんだ。」

「あぁ。お前たちのような半端者とは違う。それで、お前はあの娘が誰に連れて行かれたと予想しているのだ?」

 トイはその言葉に敏感に反応した。

「どうしてそこに執着するの?そこまで気にする必要のないことでしょう?」

「いいや。そうともいえない。物事とは予想以上につながっているものだ。」

「だからといって、僕が素直に話すと?」

 二人の間に嫌な空気が流れた時、グレンが二人の顔色を窺うように言った。

「少し冷静になったら?」

 この安易な言葉に、二人は苛立ちを覚えるとグレンを互いに一瞥した。

 冷たい視線を浴びせられたグレンは、一瞬それに怯んだように一歩後退したが、拳を強く握ると二人に向って声を上げた。

「言い争っている場合かよ。・・・・俺はそんなことするより、互いに協力したほうがいいと思うけど?」

 その言葉にトイは首をかしげた。

「拉致されたのに協力しますって簡単に言えると思っているわけ?」

「父親に幽閉されていたくせに、何言ってんだよ!」

 その言葉に、多くの息を飲む声が聞こえた。よくよく周りを見てみると、岩の陰や木の影からいくつもの息遣いが聞こえる。

 皆がトイと黒雷のやり取りを、息を飲み見守っていたのだ。

 黒雷もグレンの一言に急に表情を硬くすると尋ねるようにトイに言った。

「お前はアーロに幽閉されていたのか?」

「・・・長い間幽閉されていたわけじゃない。」

 答えにくそうに、トイは小さな声でそう呟いた。

 また多くの息を飲む声が聞こえた。黒雷は、トイをジッと見つめ、そして言った。

「お前は迫害されていたのか?」

 トイは眼を見張った。

「違う!そんなこと・・・・」

 迫害などされていない。

 そう言いきりたかった。

 けれど、言い切れるわけがなかった。

 幼い頃から長の息子として育てられた。人々から褒められようと勉学に励み、優秀なおもちゃ職人になろうと、発明家になろうと動いてきた。けれど、おもちゃの国の人々からは何故か認めてもらえず、そればかりか、誰もトイに近づこうとはしなかった。トイは自分が未熟だからだと思っていた。しかし、事実は違った。

 事実を知った時、おもちゃの国という籠に、長の息子という名目という籠に、自分が囚われていたことに気がついた。

 そして気がついてみると、恐ろしいくらいに自分が他人に見張られて生きてきたことが明らかとなった。

 けれど、それでもトイは自分が迫害されていたなど思いたくなかった。

 グレンは言った。

「暗い部屋に閉じ込められていたのはどこのどいつだよ?」

 トイは怒気をあらわにし、声を荒げた。

「黙れ!」

 たった一言。だが、その場に居た者全員が巨大な威圧感を感じ身動きが取れなくなった。

 冷たい汗が、グレンの額から流れ落ちた。

 黒雷はそんなトイを見つめ、そしてはっきりとした口調で言った。

「お前をここに連れて来たのは、人間の中の王に近い存在が我らの土地を奪ったからだ。今や竜の国に我らは一歩も足を踏み入れる事が出来ない。」

 その言葉に、トイはグレンから視線を外し、黒雷を見つめた。

「・・・何故王に近い存在だと思うんだ?人間は竜の国には近づこうともしないはずだ。」

「つい一ヶ月ほど前まではそうだった。人間は緑の国のまでは来ても、竜の国へと足を踏み入れる事がなかった。それがかつて交わした契約であり、血の盟約であった。だが、それが破られた。それを破る事が出来るのは、祖の血を分けた王の血脈だけだ。」

 トイは自分の頭が混乱するのを感じた。それを察したように、グレンが恐る恐る言葉をつけたした。

「お・・・お前が知っている昔話と、こっちで伝わる昔話は違うんだよ。そっちでは呪われた黒竜を竜の国へと封じ込めたみたいになっているけど、こっちでは、青き翼の者が竜を人間の手から守る為に、人間が踏み込めない竜の国を作ったことになっているんだ。」

 トイはそのことを聞き、目を伏せると口元に手をあてた。

 こうなってくると一体何が真実で何が虚実なのか区別するのが難しくなる。

 だがグレンの言葉によって今まで不思議に思っていた事が一本の線でつなげられたのも事実であった。

 気になっていた。

 何故青き翼の者は竜の国を造ったのか。

 緑の国とはフリュンゲル国で最も美しく、獣の楽園であり、自然豊かな土地だ。国とは呼ばれているが、緑深き大地でありそこに人は住まわず、獣達の国といっても過言ではない。そんな所に竜の国を作ったのは地理的にもおかしいと思っていた。何故なら、呪う相手に良い土地を与えるなどおかしい。それに呪われた場所にふさわしい場所はいくらでもあったはずだ。それなのに、最も豊かな楽園とも呼べる土地に竜の国は位置している。トイは小さな頃からそれが気になっていた。だがその理由が今わかった。

 竜を守る為に、竜が安全して暮らせる場所を造る為に、そうした昔話が偽って作られたのだ。

 そればかりではない。

 何故国民は空を飛んではいけないのか。

 その理由がここにあったのだ。

「我らを守るは青き血の盟約による結界。これは血でしか解く事が出来ず、また我らを追い出すためにはさらなる力が必要になるはずだ。王の血筋の者意外に誰がそんなことが出来る?」

 トイは顔を上げ、黒雷を見上げた。

「案外、王以外にも出来る者はいると思うよ。」

 黒雷はその言葉に眼を細め、そして疑うような眼差しでトイを見つめた。

「それはどういう意味だ?」

「そのまま。だって僕は十歳の誕生日、空を飛ぶおもちゃを造り、それによって幽閉された。その時、見知らぬ兵士が、国王の勅命だといって僕の血液を散々抜いていったんだ。これがその痕だよ。結構な量の血を僕から抜いていったからよく分からないけど、未だに痕がくっきりのこっているんだ。」

 トイは袖を捲くり、それを黒雷に見せた。

 その傷跡に黒雷はゆっくりと手を伸ばし、そしてその傷跡を確かめるように撫でた。

 トイはパッと手を引くと袖を下ろし、黒雷に言った。

「哀れみは必要ない。まあ・・・今回のこととつながっているかはわからないし・・あと、これは不可抗力だったから僕を攻めるのは筋違いだからね。」

 グレンがその瞬間トイを睨みつけたのがわかった。けれどそんなことをトイは気にも留めず言葉を続けた。

「だけど・・もしかしたら・・責任の一旦が僕にある可能性は無きにしも非。だから、僕に出来ることならば貴方達の力にはなろうと思う。」

 その言葉に、黒雷はトイをジッと見つめ、そして大きな黒い翼を人型のまま広げた。

「我らがするのは契約と盟約のみだ。契約と盟約の名の下に、ソナタの不利益につながりソナタの意に反しない以外我らに力を貸すと宣言するか?」

 トイは黒雷をジッと見つめ、そして言った。

「宣言する。」

 黒雷は自らの手を自らの爪で切り、血の滲む手のひらをトイのほうへ向けた。

「我の血とソナタの血を重ねるのだ。」

 トイは、腰に刺していた短剣を抜くと自らの手のひらを切った。そして、黒雷の手と重ね合わせた。

「ここに契約と盟約とが結ばれた。」

 その瞬間、二人を中心にして青い光と風がみなの体を吹きぬけるようにして広がった。

 黒雷は笑みを浮べるとトイの手をつかみ、軽く息を吹きかけた。

「き・・気色悪。」

 思わずそういって黒雷から手から逃れたのだが、手のひらの痛みが消えたことに気づいた。

 手のひらを見ると、先ほどの傷が消えている。

「竜の息吹は癒しを与える。」

 黒雷の言葉にトイは苦笑し、そして言った。

「ありがとう。それで?もう少し詳しい説明とこれから僕がしなくちゃいけないことについて話し合いたいんだけど、いつまでここの皆は僕を影から見ているの?」

 黒雷は空に向って声を上げた。それは人間から発せられる声ではないもので、思わずトイは耳を両手で覆った。

 すると、多くの竜の人々がぞろぞろと姿を現し、トイと黒雷を見つめてきた。

 黒雷は言った。

「まずは、こちらに来てくれ。皆はこの我らの仲間となった客人の休める場所をどこか作ってくれ。後に皆に事の次第を説明するので、不安がらずに行動するように。」

 皆が黒雷の言葉に恭しげに頭を下げるとその場から下がっていった。

 黒雷はこの国を取りまとめる巨大な力を持った存在だということを否応なしに感じさせられた。

 王という存在を目の当たりにし、トイは胸が締め付けられるような気がした。

 フェイナは、その王にならねばならない。

 それがどれほど重き荷なのか、トイはこの時それを感じていた。
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