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第二十話
しおりを挟む頭にズキリと痛みを感じていた。
自分に何が起きたのか、フェイナには分からなかった。
ただ、今はまだ目覚めたくない。
「起きて。」
女の人の声だ。
嫌。まだ起きたくない。
「起きろっていってるでしょ?どれだけ眠れば気がすむのよ!」
体に突然叩かれたような衝撃が走り、フェイナは眼をパッチリと開けた。そしてそれと同時に体を起き上がらせた。
あたりを見回すが、ここがどこなのかまったく思い出せない。
だが、目の前にいる女は誰か分かった。
「あなた・・・・もしかしてわたくしを叩いた?」
それは黒髪の美しい自分に仕える女中であった。
女中が時期王を叩くなど言語道断のはずだ。だがそれに女中は躊躇することなく頷いた。
「いっておくけど、私は貴方の忠実な女中じゃないわよ。」
「は?」
「私、貴方を私の国へ連れてくるよう任を受けていたの。けど、失敗した。そして貴方は国の人間に救われた・・のかと思ったけど、貴方をこんなところに閉じ込めるって事は、貴方を大切にするフリュンゲル国の人間じゃなさそうね。」
フェイナには意味がわからなかった。さきほどまでは、おもちゃの国でお茶を飲んでいたはずだ。それが、ここはあまり清潔とはいえない狭い納屋であり、しかも自分を乱雑に扱う女中と一緒である。
「ちょっと待って、連れて来るように・・任を受けた?貴方の国?」
「ええ。つまり私は女中ではなく誘拐犯。ちなみに私の名はアイス。デザートじゃないわよ?」
「誘拐?わたくしを?」
「ええ。貴方を。けど失敗したの。」
「え?」
「普通なら3人も竜がいれば負けるはずないんだけど、気がつけばあっという間。私はまだ女中のふりをしていたから、貴方と一緒にここに連れてこられたってわけ。」
「・・・・・・・・竜?」
「私、白竜なの。はい。」
そういうとアイスは背中から白い翼を出した。
「うっそぉ!」
フェイナは思わず眼を丸くしてそう声を上げていた。
アイスはすぐに翼を消すと、フェイナにいった。
「本当。」
「え?ちょっと待って、頭の中がこんがらがっているわ。整理させて。」
「いいわよ。っていうか、今トイ=ブルーバードと我らが父、黒雷様と契約と盟約を結んだわ。それ故に、私も国に急いで帰らなければならない。こんなところには居られないわ。」
「トイ?・・・・貴方達・・・まさかトイも誘拐したの?」
「ええ。貴方とトイ。どちらかが手にはいればいいという判断。本当はトイ=ブルーバードのほうが本命で、貴方は一応って感じだったのだけれど・・・・あの時貴方を手放して逃げればよかったわ。」
なんと言うことを言う女であろうか。
フェイナは自分のことをこんなにもぞんざいに扱う存在に出会った事がなかった。そのためその距離感覚がつかめずどうしたらいいのか分からなかった。
だがアイスにはそんなことは関係ない。
「悪いけれど、貴方をここに残して私は行くわ。」
「ちょ・・ちょっと待って!わたくしはどうなるの?」
「わたくし様は自分でどうにかなさい。」
「ちょっと!わたくしはこの国の時期王よ?そのわたくしを放っておくの?」
アイスは眉間に皺を寄せて少し考えると、ハッキリした口調で言った。
「時期でしょ?今王様なわけじゃないし・・それに、私には関係ないし・・」
信じられなかった。
フェイナは困惑した様子でアイスを見つめている。アイスはその視線に耐えられなかったようで大きくわざとらしく溜息をついて見せた。
「とんだ甘ちゃんね。人間ってみんなこうなのかしら。」
「ゆ・・誘拐された発端は貴方にあるんじゃない!」
思いがけず正論を言われ、アイスは苦笑を浮かべた。
「まあ、確かにそうね。」
「そ・・それに、トイだけで本当にいいの?わたくしは時期王よ?わたくしの方がよくわからないけれど貴方達の力になれるのではないかしら?」
その言葉に、アイスは少し考えた。そして、肩をすくめると言った。
「そうかもしれないわね。けど、貴方いいの?」
「え?」
「ここは貴方の土地だけれど、私が連れて行こうとしているのは、貴方の見方がいない場所よ?どちらのほうが貴方にとっていいのか、私には判断しかねるわ。」
確かに、それもそうである。もしかしたら、今自分を捕らえている人間のほうが自分のことを大切に扱ってくれるかもしれない。
だが、それは確信があるわけではない。
「たしかにそうかもしれないわ。けど・・・・私はトイがいるほうが信じられる。」
アイスはニヤリとした笑みを浮かべた。
「もしかして貴方トイ=ブルーバードに惚れているの?」
「ち・・・ちちち・・違うわ!」
フェイナは顔を真っ赤にするとそういった。けれどアイスはニヤニヤとした笑みを消さずに言葉を続けた。
「いやいや。惚れてるでしょその反応。なるほどねぇ~。時期王でも普通の女と一緒ね。」
「あ・・・あなたねぇ。」
「アイス。呼び捨てでいいわ。それより、一緒に行くなら私の楯になってくれる?」
「え?」
「私を信じて楯になってくれるなら、連れて行ってあげてもいいわ。」
フェイナは今まで守られた事はあっても人を守ったことなどない。
しかも何故誘拐犯を守らなければならないのか。
フェイナは笑みを浮かべた。
「良いわよ。わたくしで楯になるのなら。」
「度胸は据わっているのね。」
二人は笑みを交し合った。
女は度胸。
二人とも母からその言葉を幾度となく聞かされて育ってきた。その点においては同じだったのである。
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