【完結】お嬢様は今日も優雅にお茶を飲む

かのん

文字の大きさ
13 / 31

第十三話 迷える子羊(七宮勇太)

しおりを挟む
「嫌だ。もう死にたい。そうですわ。」

 比高はその言葉に呆然とし、背もたれに力なく寄りかかると顔を手で覆った。

「もう怖いのも痛いのも嫌だ。家に帰ってまた痛い思いをするのも、おじさんに殴られるのも、嫌だ。と言っているわ。」

「僕は殴ったりしない。」

「怖い。と言っているわ。」

 淡々と話をする桜子に、学は座っていると思われる勇太に目を向けた。

「勇太くんは、お父さんもおじさんも、同じだと思うんだね?なるほど、確かにおじさんは全く知らない人だもんなぁ。」

 桜子は、お茶を飲みかけていた手をピタリと止めた。

 そして驚いたように学を見る。

 その様子に、比高は首を傾げた。

「その、、、、貴方の家になら行っても良いそうよ。」

「え?」

 比高の視線が学に、向かい、そして何が苦いものを飲み込んだような顔をすると、言った。

「お願いします。僕は、勇太くんに生きていて欲しい。」

「え~っと、いいですけど、あまり知識はないのですが、確か本来ならば児童相談所とか保護施設とかに一時預かりになってからかと思うのですが。」

「そこは僕がもう一度彼女に掛け合ってどうにかします。お願いします。この子に死を選ばせないで欲しい。」

「えっと、俺でいいのなら。」

 すると、桜子が言った。

「病弱な子どもの世話を貴方が出来るとは思いません。おじさまの屋敷に貴方がしばらく厄介になりなさいな。」

「へ?」

「それでも勇太くんは良いだろうか?良ければ、僕も嬉しいんだが。」

「良いそうよ。」

「良かった。勇太くん。ありがとう。」

 学は良いのだろうかと思いながらも取りあえずは良かったのだと思うと、これからの事を比高と話した。

 三人は、勇太のアパートへと向かった。

 まずは母親と父親と話をしようと部屋をノックすると母親が現れた。

 その頬には殴られた跡があり比高は顔を青ざめさせた。

「比高さん、、、、。」

 力なくそう言った母親の肩に比高はそっと手を乗せると言った。

「君も、このままでは良くないと分かっているだろう?」

 母親は泣き崩れる、奥から父親が出てきた。

「あ?なんだ?またお前か!帰れ!」

「すまないが、女性に手を上げる人彼女達は一緒にしたくないんだ。」

「何だと?殴られてぇのか?あ?」

「僕は弁護士だけれど、良いのかな?」

 学も一歩前に出た。

「俺は警官です。」

「あ?なん、、、だと?」

 そういった途端父親の威勢が弱まるのを感じ取った比高は父親に名刺を渡した。

「今後のことについては、また追々話をしていきましょう。子ども達と母親は取りあえずこちらに来てもらいます。いいですね?」

 父親は怒りを壁にぶつけると、そのまま部屋の奥へと消えた。

 比高は靴を脱ぐと母親の了解を取って部屋の中に入り愕然とした。

 散らばる物。

 傷ついた壁。

 桜子は指を指した。

「その部屋に閉じ込められているって。」

「へ、、、や?」

 そこは押入れだった。

 部屋ではない。

 比高はゆっくりと押入れの戸を開けた。

 異臭と、ぐったりと横たわる男の子が一人。

 その手足はやせ細り、力なく倒れている。

 比高は、男の子をゆっくりと大切に抱き上げると優しく抱き締めた。

「すまない。、、、、すまない。」

 母親と勇太と妹を引き取り、比高は自身の屋敷へと車を走らせた。

 桜子と学は一緒の車に乗り、前を走る比高の車についていく。

 屋敷につくと、勇太と妹はかかりつけの医師に見てもらい、その間大人たちは話し合いの席につく。

 母親の路子は、頬を手当してもらっているがその顔色は優れない。

「ご、、、ご迷惑をおかけして、、もうし、、わけ、、ありませんでした。」

 頭を下げる路子の背を比高はさすると、首を振り、言った。

「迷惑なんかじゃない。それに君は、、迷惑でももっと早くに、、、誰かに助けを求めるべきだった。」

 少し厳しい口調で比高は言葉を続けた。

「君が厳しい立場だったのは分かる。だが、、、子ども達を守るべきな大人が、、、子どもを傷つけていいわけがない。」

 項垂れる路子に、比高は言った。

「頼むから、、僕を頼ってくれ。」

「け、、けど、私は貴方を、、裏切った。」

「そんな事はもういいんだよ。せめて、友達として手を貸しても良いだろう?」

 路子は嗚咽を漏らしながら涙を流した。

 桜子は学に立つように促し、しばらく二人だけにする事となった。

 桜子は、別室で学と向かい合って座った。

「あの父親は酷いですね。ちゃんと罪として罰せられるといいのですが。」

 憤る学に、桜子は微笑む。

「天罰はね、下るものよ。」

 どこか含みのある言いように、学は少し背筋が寒くなった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...