【完結】お嬢様は今日も優雅にお茶を飲む

かのん

文字の大きさ
12 / 31

第十二話 迷える子羊(七宮勇太)

しおりを挟む
 比高は、ゆっくりとした口調で、重い口を開いていく。

 その瞳に生気はなく、どこか虚ろであり、学は大丈夫だろうかと心配になった。


 比高は二十代の頃、とても好きだった女性がいた。その人と結婚すると思っていたが、家族の反対があり、中々結婚までたどり着けないまま時間だけが過ぎていった。

 そして、ようやく周囲を説得して結婚の了解が出た時、女性に別れを切り出された。

 理由は、これだけ反対されて今後やっていけるかが心配になったと事。

 比高はどうにか女性の心を取り戻そうとしたようだが、不安には敵わず、別れた方が女性にとって幸せならと身を引いた。

 だが、学生の頃から一緒にいたので、共通の友人は多く、彼女の近況は誰に聞くでもなく耳に入った。

 数年後、女性が結婚したとの話しを知人から聞いた比高は幸せになって欲しいと願っていた。

 だが、周囲から話を聞くと所々におかしな点を見つけ疑問に思う。

 彼女が男の子を結婚のだいぶ前に出産していた事。

 結婚してから、人付き合いが無くなった事。

 男の子の姿をほとんど誰も見た事が無い事。

 人から聞くたびに、自分の考え過ぎだと思うようにしていた。

 自分がまだ未練が残っているからそんな事を思うんだと考えた。

 自分はストーカーではないし、これ以上踏み込んではいけないと思った。

 だが、もしも、の悪い予感が頭をよぎる。

 自分の考え過ぎな方が良い。

 だから一度確かめようと彼女の住むアパートへと話をしに行った。

「突然、すまない。」

「どうしたの?」

 彼女は酷く顔を青ざめさせていた。

「どうしても気になったんだ。、、、君には男の子がいたよね?」

「え?、、、、えぇ。」

「僕の考え過ぎなら、怒ってくれて構わない。男の子は、元気かい?」

 その瞬間に彼女の顔がひどく歪み、そして、中から粗暴な男が出てきた。

「なんだてめぇは?」

「彼女の友人だよ。挨拶が遅れて申し訳ない。僕は比高といいます。息子さん元気かと思って会いに来たんだ。」

 男はこちらを嘲るような顔を浮かべると、言った。

「死んだよ。じゃ~な。もう来んなよ。」

 バタンと扉を閉められて、僕はひどく動揺したんだ。

 冗談のような雰囲気ではなくて、やけに生々しく感じた。

 僕は、怖くなった。

 こんな事ならば早く来るべきだったのだと、何度も扉を叩いたが、扉が開くことはなかった。

 もし、あの男の言ったことが本当ならば、男の子は部屋でまだ苦しんでいるかもしれない。そう思うと胸が苦しくて。

 そしたら、桜子さんが僕に声をかけてくれたんだ。

 男の子を呼んであげましょうか。って。

 もし、男の子が現れれば、男の子はもうこの世にはいないという事。

 僕は、、、、、、、。


 そこで、比高は目からボタボタと涙を流し、ハンカチで顔を抑えた。

 学はそれを見て、思わず口を開いた。

「男の子が貴方の子どもとは限りませんよ?」

 きっと、比高はその可能性が高いことでこんなに気持ちが高まっているのではないかと学は思いそう口にした。だが、比高はカッと目を見開くと声を荒げた。

「誰の子でも構わない!友人の子が、いや、誰の子でも、小さな子どもが苦しんでいるかもしれないんだ。そうかもしれないと、、、思ったのに、、僕は何も、、、、出来なかったんだ、、!」

 比高は苦しげに最後はそう言うと、お茶を一気に飲み干した。

 学はそれを聞いて、この男は純粋に正義感で動いているのだと感じてほっとした。

 ここでもし母親への愛ゆえにの執着では、その男の子はうかばれない。

 桜子はお茶を一口飲み、比高に尋ねた。

「それで?どうなさりたいの?」

「もし、男の子が本当に亡くなっているなら、、、、、、、亡くなって、、、なんて、、いて、、、欲しくないが、、もしそうなら、、、安全な場所で、、、、休ませて、、あげ、、、たい。」

 涙がとめどなく溢れ、比高は苦しげにどうにかそう言い切った。

 桜子は目線を空席に向ける。

「もし、生きていたら?」

 比高はガバッと勢いよく立ち上がるとはっきりした口調で言った。

「何が何でも僕が引き取る。もう、後悔はしたくない。」

「母親と、あと妹はどうするの?」

「あの男と話をする。彼女が男を選ぶなら、友人として別れるよう説得する。それか駄目なら近くで見守って、一度でも暴力があれば、友人として、また説得する。」

「本当にそれができますの?」

「絶対に。」

 決意に満ちた表情に、桜子は笑みを漏らすと空席をまた見つめる。

 そして、しばらくしてからふっと息を吐いた。

「男の子。名前を勇太くんと言うらしいですわ。まだ、ぎりぎり、生きてます。」

 その言葉に、比高の目は希望に輝いた。

「ですが。」

 次の言葉に、比高は言葉を失った。

 



 


 

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...