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第二十七話 迷える子羊(野宮 清子)
しおりを挟む気が付いた時には、暗い部屋の中に両手両足を縛られて椅子に座らされていた。
目の前にあるカメラが自分をとっているという事実だけが分かって、それが何でなのかも、どうしてなのかも、分からずに、心臓がうるさいくらいに鳴っている。
ここはどこだ?
自分は何故こんな所にいる?
どうしてこんなことになった?
全てが分からず、体が次第に震えだすのが分かった。
視点が定まらず、とにかく自分の状況を把握しようとせわしなく動かすが、目に見えるのは窓のない部屋に自分が椅子に縛り付けられてカメラで撮られているという事実だけ。
カメラの向こう側に扉があるが、開く気配はない。
「誰か、、、、ここは、、、どこですか?助けて?ねぇ、誰か、、誰か!」
声を上げてみるが、部屋に響くだけで誰にも届かない。
怖くて、何か考えていないとおかしくなりそうで、必死に頭を巡らせる。
記憶を辿り、最後の記憶を必死に思い出す。
そして、思い出してしまった。
昨日の帰り道、暗い道を通っていて怖いなと感じたこと。
後ろからついてくる足音が響いていたこと。
やっとアパートについたと思った時に、バチッと、何かが首に充てられたこと。
そして気づいてしまう。
自分は、何者かの手によってここに連れてこられたという事に。
そして、もしこれが悪戯でないのであれば。
頭の中に朝のニュースが流れる。
『現在、二十代から三十代の女性を狙った誘拐事件が発生しており、現段階で行方不明となった女性が三人いるとの情報が入って、、、、』
途中で切ってしまったテレビに流れていた誘拐事件。
詳細を聞いていなかった。
行方不明の女性は、どうなった?
怖い怖い怖い。
唇が震え、息が苦しくなる。
「はっはっ、、、、こ、、怖い、、誰か、、誰か!」
悲鳴にも近い声をだし、叫ぶが誰も現れない。
私は一体、どうなってしまうのだろうか。
「怖い、、、助けて!助けて!お願い!ここはどこなの!誰か!」
何度も何度も声を上げる。
悲鳴を上げる。
涙が流れ落ちる。
必死で叫ぶ。
けれど、誰にも届かない。
声は、誰にも、届かない。
「お願い、、、、誰か、、、怖い。」
何時間も叫び続け、何時間も泣き続け、次第に体が動かなくなっていく。
どのくらいの時が経ったのか。
時間の感覚が崩れ、そして意識がもうろうとしてくる。
あぁ、このまま自分は死ぬのだと瞼がどんどんと重たくなる。
こんな恐怖の中で自分は死ぬのかと、思うと悲しくなってくる。
一人か。
一人は、さびしいな。
薄れゆく意識の中で、そう思った。
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