鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.10 闇金剣士

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   [Ⅰ]


 レティアの案内で、俺はフードを深く被りながら、シグルードへとやって来た。
 シグルードはゴート区域の近くで、街の一番外れにあった。
 とはいえ、周囲は土や砂利が剥き出しの野地であり、微妙に街の外感が漂う所だ。
 そして、魔物討伐の武芸者が集う施設というだけあり、割と大きな建物であった。
 形状は蒲鉾型の白いドーム状の建造物で、入り口部分はまるで、古代ギリシャやローマの神殿みたいであった。
 また、近くには訓練所のような施設があるのか、武術の鍛錬に励む者達の姿が少し見えた。
 少林寺の修行僧を思わせる「ハッ、ハッ!」という掛け声も聞こえてくる。
 その上、辺りを武装した奴等が食っちゃべりながら闊歩してるので、結構騒々しい場所であった。
 おまけに、それらは人間だけじゃなく、武装した猿人のヴァザンや、エルフみたいなルヴィンの姿もあるのだ。
 それ以外にも、寸胴のドワーフを思わせるクルガンという種族や、スロンという小人種族もいた。
 もうなんというか、異世界ファンタジー種族大集合といった感じである。
 現実世界ではお目にかかれない、ガチなファンタジー民達であった。
 シュレンの記憶がないと、何が何やらだろう。

   *

 話は変わるが、俺はこの転生記録を綴るに際し、人間や人という表現を使っている。
 だが、ここでの人間の正式種族名はアシェンと呼ばれるモノであった。
 なので、他の種族の者達は我々の事をアシェンと呼んでくる事を前もって記しておこう。
 というわけで、話を戻す。

   *
 
 シグルードに出入りする者達は、意外と多かった。
 今は夕方なので、依頼達成の報告や、報酬を受け取りに来ている者が、それなりにいるのかもしれない。
 おまけに、魔物や獣の生首を持参し、外にある換金所らしきブースに来ている者もいた。
 それはそれは、もの凄い野蛮な光景であった。
 戦国時代の合戦で、大将首を取った時は、こんな感じだったのかもしれない。
 その所為か、辺りは微妙に血生臭さが漂っていた。
 シュレンも放浪の旅で目にしてきた光景だが、倫理観が日本と違いすぎて、俺は少し戸惑うところだ。
 まぁとはいえ、衛生面的にやめた方が良い討伐確認方法だと思うが、俺の知ったところではないので放っておくとしよう。
 触らぬ神に祟り無しだ。

「コジローさん、恐らくキエーザは今、ここにいると思います。アイツは日が落ちる前、シグルードで待ち構え、お金を貸した者達から、報酬を巻き上げてるらしいですから。なんでも、凄い利息取ってるという話ですよ。アイツと関わったら、もう返済から逃げられないという噂です。エルファナをも恐れぬ不届き者なのです」

 エルファナとは、オヴェリウスやアルディオンで信仰されている神の名だ。
 勿論、この街にもエルファナ神殿がある。
 この世界も御多分に漏れず、宗教はやはりあるようだ。もはや定番の概念である。
 それはともかく、話を聞く限り、闇金が取り立てをしてる感じなんだろう。
 トイチとか、鴉金からすがねレベルの利息を取ってそうである。
 どこに行っても、金というモノは人を狂わせる悪魔の果実のようだ。
 そして、浅ましい考えを持つ者は、元いた世界と変わらず、どこにでもいるに違いない。
 お金なんてモノは所詮、世の支配者達が、人々を操る為の道具である。
 極論を言えば、通貨を発行する支配者側が、人と物を都合よく回す為のモノでしかないからだ。
 ただそうは言っても、国家というコミュニティーの中で生きてゆくには、金に多少支配されないと、やっていけないのもまた事実。
 だが必要以上にその魔力に魅入られた者は、欲に刈られ、こうなってしまうのである。
 ま、こういうのが出てくるのも、支配者側としては折り込み済みなんだろう。
 ほくそ笑みながら、社会悪として肯定的に思ってるに違いない。
 さて、そんな事はさておき、俺はレティアと共に、シグルードの中へと足を踏み入れた。
 すると中は、ホテルのロビーのように、だだっ広いフロアとなっていた。
 但し、ホテルのような上品さはない。周囲は場末の酒場並みに薄汚れ、石の床も土埃が舞っていた。
 そして中は予想通り、武装した輩達だらけだ。
 おまけに血と汗の臭いも凄い。
 ずっと鎧を着たままで、冒険をしてきたであろう奴等ばかりであった。
 鎧の下は相当蒸れているに違いない。
 ヤベー場所に来た気分だ。なるべく早く撤収したいところである。
 ちなみに、シグルードの内部は奥の受付以外、仕切りがない感じだ。
 吹き抜けになった天井には幾つかの天窓があり、そこから外光を取り込んでいた。
 ちなみにこの施設の明かりは、壁と天井に設けられた窓からと、グローと呼ばれる吊られたランタンのようなモノからだけのようだ。
 なもんで、全体的に薄暗い施設なのは言うまでもない。

「さて、レティアさん。奴はいるかい? それとシムも」

 中を少し進んだところで、俺はレティアに訊ねた。
 レティアはそこで立ち止まり、周囲をキョロキョロ見回した。
 そしてレティアは、受付と思われるカウンターの右奥にある壁を指差したのである。

「はい、いました。あそこです。あの受付の右奥の壁際に陣取っている大きい男です。取り巻きの連中がいますね。シム様も一緒のようです」
「へぇ、どれどれ」

 するとそこには、10人くらいの武装した集団がいた。
 その中心には、腕を組み、不遜な態度で受付カウンターを見ている長身のイケメン男がいた。
 ソイツは黒い布の服の上から銀の鎧と茶色いブーツを装備し、更に黒いマントを纏っていた。
 腰には長剣と短剣を帯びている。
 また、ブロンドの長い髪をワンレンにしており、今はニヒルな感じで嫌らしく笑みを浮かべているところだ。
 イケメンだが嫌な奴系の顔付きである。
 また、その取り巻き連中もヘラヘラしており、チンピラのような雰囲気を持つ集団であった。
 まぁ確かに、碌な奴等ではなさそうだ。
 そして……お目当ての人間の姿もそこにあった。シムだ。あの野郎。
 だが奴はしょんぼりとしながら、キエーザ一味の中にいた。
 しかも大きな黒い箱のようなモノを持たせられており、静かに待機しているのである。
 おまけに、シュレンが生前に見たシムの姿と全然違っていた。
 シムは俺の4つ年上で、中肉中背の赤毛オカッパ頭の男だが、今の奴は少しやつれている感じだ。
 薄汚れた茶色のローブを纏い、暫く頭を洗ってないのか、トレードマークのオカッパ頭はボサボサであった。
 顔も少し汚れ、頬には擦り傷があり、やや腫れたような感じだ。奴等に殴られているのかもしれない。
 また、首には犬のような首輪があり、そこから鎖のリードが伸びていた。リードの元を辿ると、行き先はキエーザ一味の1人であった。
 シムはSMプレイに興じる性癖はなかった筈なので、これは完全に相手の軍門に下っている状態なんだろう。
 レティアの話によると、かなりこき使われてるらしい。
 まぁ今の奴を見ていると、大体の状況は容易に見て取れるところだ。

「おお、いるね。確かにシムだ」
「どうされますか? 私が……行きますか?」

 レティアは勇気を振り絞って、訊いた感じだ。
 本当は行きたくないんだろう。
 仕方ない。俺が直接行くとしよう。
 女に、こんな事をお願いしたくはない。
 とはいえ、レティアの言う通りなら、かなりのクズに違いない。
 まともな交渉は期待できそうにないから、とりあえず、奴を焚き付けてこっちのペースに引き摺り込むとしよう。
 それに、なぜか知らないが武芸者としての血が騒ぐ。
 この国の剣士の技量を見てみたい。そんな自分がいるのだ。
 そう……平和な日本では使う事のなかった剣術、鬼一兵法。それを使いたい自分がいるのである。
 困ったモノだ。異世界に来て、俺も少しタガが外れてきているようだ。
 それに、イザとなったら魔法ドーピングもあるしな。

「いや、いいよ。俺が話を付けてくる」
「え、ですが……アイツは……」

 驚くレティアの肩に、俺はポンと手を置いた。

「気にするな。ここまで連れて来てくれただけで、レティアさんには感謝してるよ。ありがとう。さて、行ってくるわ」

 俺は奴等に向かって歩を進めた。
 そして俺は、一味の中心にいるワンレンのロン毛野郎の前へと出たのである。

「よう、アンタがキエーザという男か?」
「ああ、そうだが……誰だ、テメーは……」

 キエーザはそう言って俺を睨んだ。
 
「アンタに用があるんだよ。そこにいる首輪した男を少し貸してほしいんだ。良いか?」
「ああん? 何だって? コイツを貸せってか。物好きなヤツもいるもんだ」

 するとキエーザは、シムに伸びた鎖を乱暴に引っ張った。
 シムはその反動で、少しバランスを崩す。

「だが、そんな簡単に貸すわけにゃあいかねぇな。人に物を頼むんなら、顔ぐらい見せたらどうだ。誰だ、テメェ」

 俺はフードを捲った。
 シムも俺を見ている。
 だが、シムもすぐにはわからんだろう。
 俺は忍者のように、鼻と口元を隠しているからだ。

「俺の名は桜木小次郎。放浪の天才剣士だ。言われた通りに名乗ったぞ。さぁ、その男を少し貸してくれ」
「はぁ? サクラギコジロー? 天才剣士だぁ? おい、聞いたか、お前等! 放浪の天才剣士だってよ! 何言ってんだ、コイツ……頭おかしいのか。自分で言うかよ、普通。なぁ?」

 と言って、キエーザは仲間達に向かい、俺を嘲笑った。
 笑え笑え。これは、餌だからな。

「キエーザさん、コイツたぶん、新しい種類のバカ野郎ッスよ。身の程知らずもいいトコだぜ」
「コイツ、キエーザさんの事知らないみたいですね。調子に乗ったバカが来ましたよ。ヒヒヒヒッ」

 仲間達も俺を嘲笑しだした。
 そんな中、シムは首を傾げて俺を見ていた。
 わけがわからんのだろう。
 キエーザが腕を組みながら、因縁吹っ掛けるように俺へと近付いてきた。

「クククッ、身の程知らずのバカ野郎だな。何が放浪の天才剣士だ。顔を半分隠して、妙な剣を背中に担ぎやがってよぉ。クククッ、1000ラウム払ったら貸してやろうかと思ったが、気が変わった。お前、なんとかコジローとか言ったな。俺と立ち会え! 俺に勝てたら、コイツを貸してやろうじゃないか。なんだったらお前にやる」

 良い具合に、餌に食いついてきた。
 とりあえず、焚き付けるのは上手くいったようだ。
 こういう輩系は、妙なプライドだけは高いからな。
 さて、このキエーザという闇金剣士は、マティスのシグルードでも1、2を争うと聞いた。
 まぁ実際はNo、2のようだが、どのくらいの武芸者か興味がある。
 立ち会わせて貰おう。

「良いだろう。わかった。それしか選択肢がないなら、そうするとしよう」――
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