鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.11 剣闘会

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   [Ⅰ]


 俺の返事を聞き、キエーザは不敵に笑っていた。

「ほう……立ち合いを受けるか。大した自信だなぁ。クククッ、その自信をボキボキにへし折ってやるよ。ここじゃなんだ、向こうのスグラムに来い!」

 キエーザはそう言って、顎でどこかの方向を示した。
 そしてスタスタと、シグルードの出口に向かって歩き出したのである。
 そこで、取り巻き連中が俺を囲んだ。

「ヘッヘッヘッ……逃がさねぇぜ。逃げられると思うなよ。キエーザさんにあんな態度して、知らねぇぞ。お前、殺されるかもなぁ」
「馬鹿な野郎だ。キエーザさんはこのシグルードでも指折りの剣士だって知らねぇんだな。身の程知らずが!」

 揃いも揃って、小悪人の顔付きであった。
 ちなみに、全員人間だ。
 鎖に繋がれたシムは、ずっと首を傾げながら俺を見ている。
 事態についていけてないんだろう。
 また、少し離れた所にはレティアがおり、心配そうに俺を見ているところであった。
 近寄りたくても近寄れない感じである。
 この様子だと、ギャラリーとして見学に来そうであった。
 早く給仕の仕事に行けばいいのに。

「逃げないよ。さぁ早く、スグラムとやらに案内してくれ。アンタ達の親分はもう行ったぞ」

 取り巻きの1人が舌を打つ。

「チッ……いけすかねぇ野郎だ。来い!」

 そして俺は、子分達に付き纏われながら、スグラムとやらへ案内されたのだ。


   [Ⅱ]


 スグラムとやらはシグルードの隣にあった。
 どうやら、来る時に掛け声が聞こえていた訓練所のようだ。
 そこは、への字屋根の東屋みたいな所で、今も修練に励む者が数人いた。
 意外と広い。テニスコート2面分はありそうだ。
 床は全て石畳で、数多の戦士達が修練に励んでたのか、凸凹としている。
 なかなかの年季の入り具合であった。
 まぁとはいえ、そこまで足場は悪くない。
 問題は日が傾いてきたことだが、グローが全ての柱に掛かっている為、そこまで暗くはなかった。
 視界は十分といったところだろう。
 キエーザがスグラムに足を踏み入れたところで、修練に励む若い剣士達は一斉にこちらを見た。

「キ、キエーザさん!? ご苦労様です!」

 そして脅えたように、胸に手を当て、慌てて頭を下げたのだ。
 ビビってるねぇ。この態度見ただけで、コイツの悪評が推し量れる。

「おい、お前達、退け! 今から俺が使う」
「は、はい」

 若い剣士達は慌てて場所を空けた。
 するとそこで、年経た剣士がこちらに近づいてきたのである。
 白く長い髪を後ろで束ねた男で、剣士のような格好をしている。
 身長は俺くらいで、老人の割に逞しい感じの男であった。
 年齢はフレイさんくらいだろう。

「キエーザ……何をしに来た? 剣の鍛錬か? 珍しい」
「ふん、違うよ。このバカな自称天才剣士とやらが、俺に挑んできたんでな。少々、痛めつけてやるだけだ。ソレスのジジイは引っ込んでな」

 老剣士はそこで俺をチラッと見た。

「何者か知らんが、キエーザに挑むのか。こ奴は手加減を知らぬぞ」
「ああ、全然構いませんよ。マティスの剣士がどの程度の腕か、見たいだけです。がっかりしない事を願いますよ」

 とりあえず、挑発しておいた。

「な!? てめえ……」

 キエーザはイラっと来たのか、俺を睨んでいた。
 そして知らないうちに、この訓練場の外は、なぜか人だかりができていたのである。
 どうやら野次馬が見に来たようだ。
 シグルードでのやり取りを見ていた奴等がいたんだろう。
 その中にはレティアの姿もあった。まだいんのかよ。
 俺はそこでキエーザに向き直った。

「さて、キエーザ君とやら。どう勝負するんだ。真剣でやるのか?」
「当たり前だろ。ぶっ殺してやる」

 すると老剣士が俺達の間に入った。

「待て! ここで殺し合いはさせぬぞ! ここは修練をする場だ。やるなら、そこにある訓練用の刃引きの剣にしろ」

 老人はそう言って、少し離れた所にある細長い木箱を指さした。

「良いだろう。刃引きの剣でも大怪我負わすことは出来るからな。場合によっては死ぬ事もある。クククッ」

 キエーザはニタニタ笑った。
 この顔は殺す気満々で来そうだ。
 オラ、戦闘民族みたいにワクワクしてきたぞ。

「じゃあ、俺もそれで構いませんよ」
「仕方ない。誰か知らぬが、お前も無理をせぬようにな。キエーザは容赦せんぞ」
「そうでなくてはね。どんな腕前なのか見たいので」
「ったく、どうなっても知らんぞ。ほら、受け取るがいい。お前もだ、キエーザ」

 老剣士は仕方ないとばかりに、俺とキエーザに同じ長剣を手渡した。
 刃渡りは80cmくらいか。まぁ普通の両手剣だ。
 とはいえ、訓練用というだけあり、何の飾りっ気もないロギン製の廉価剣であった。
 刃も削られて丸くなっており、模造刀といった感じである。
 また、背中の刀よりも軽い剣だ。

「お前達、1つ言っておくが、ここでの戦いはあくまでも訓練だ。先に相手へ剣を当てた方が勝ちだからな。それ以上の行為は許さんぞ」

 老剣士はムスッとした表情で念押ししてきた。

「わかったから、始めろ、ジジイ!」

 キエーザは俺を睨みつけながら、そう言った。
 そして気が逸るように、中段に構えたのである。
 俺は少しがっかりした。
 この不用心な構え……これはつまらない戦いになりそうである。
 身長や体格は、俺よりもやや大きいので力はありそうだが、それだけの気がした。
 つまり、全然強そうな気配を感じないのだ。
 ちなみに俺は構えをとってない。自然体である。
 奴があまりにも隙の多い構えだったので、なんとなく力量が読めてしまった。
 恐らく奴は、俺に斬りつける事で頭が一杯なんだろう。
 怒りで自分を見失う未熟者だ。

「では始め!」

 老剣士の開始合図と共に、奴は不用意に間合いを詰め、俺に斬りかかってきた。

「ぶっ殺してやる!」

 俺は構えを取らず、斬りかかるキエーザを見据えた。
 キエーザは俺を一刀両断するかの如く、力一杯に真上から素早く剣を振りを下ろす。
 なんというか、予想通りの行動過ぎて拍子抜けであった。
 力は強いが、これはつまらん。早く終わらせよう。
 俺は奴の剣を上段霞みに受けた。
 そして斬撃を受け流すと、その反動を利用し、刃で円を描きながら一気に奴へと踏み込み、急所の首を狙ったのである。
 それは瞬きする間もない、電光石火の動き。
 もう既に、刃の切っ先は奴の首筋に当たっていた。
 鬼一兵法……霞水月かすみすいげつ
 振るう剣を霞がかった水面に映る月に見立て、それを覗き込む相手の死角から、鋭い刃が急所に襲いかかる技だ。
 まぁ簡単に言えば、後の先を取るカウンター技である。

「な!?」

 やはりキエーザは、俺の刃の動きが見えてなかったようだ。
 あの程度の煽りで心乱す未熟者に、俺は負けないもんね。

「これで勝負ありだろ?」
「チッ……待て、今のは無しだ」
「無し?」

 何言ってんだコイツは。見苦しい。

「キエーザ……お前の負けだ。何を言っている」

 老剣士も憮然とした表情で、俺に同調した。

「いや、今のは無しだ。少し遊び過ぎたからな。これからが本番よ。どうやらお前を見縊ってたようだ」

 キエーザはそう言って、少し下がり構え直した。
 負けたくないから意地を張ってるんだろう。
 馬鹿な男だ。

「キエーザ! 見苦しいぞ!」

 老剣士はキエーザを諫めた。
 だが俺はそれを受け入れてやった。

「ああ、良いですよ。奴の言う通りにさせてやったらどうです」
「アンタな……良いのか? 奴はどんな手を使ってくるか知らんぞ」

 と言って、老剣士は眉根を寄せた。

「別にいいですよ。隠し武器だろうがなんだろうが、好きに使えばいいです。今ので、あの男の力量は読めましたんで。少し痛い目に遭わないと、負けを認められないんでしょう。ちゃんと打ち込んでやらなかった俺の責任です」

 俺は淡々と答えておいた。
 今の立ち合いで、戦いに興味を失くしてしまったので、後は教育的指導をしてやろう。
 老剣士は仕方ないとばかりに溜息を吐いた。

「まぁ、アンタがそれでいいなら、よかろう。よし、では始め!」

 キエーザは真顔になっていた。
 さっきのように迂闊に飛び込んでは来ない。
 俺を見据え、出方をジッと窺っている。
 今度は慎重にいくつもりのようだ。
 俺は先程と同様、特に構えはしない。
 しかし、今度は待てども、キエーザはなかなか出てこない。
 しょうがない。この後の予定がある。俺から行ってやろう。
 俺は構えをせずに、無造作に間合いを詰めた。
 次の瞬間、奴は掛け声と共に、勢いよく剣を突き込んできた。

「デヤァァ! 死ねぇ!」

 しかし、突きを入れるには少々勇み足だ。
 もう少し相手を呼び込んでからではないと、相応の相手には効果が無い。
 つまりコイツは、武器の長さと自分の腕の長さ、そして動ける行動範囲、それと相手の間合いを測ろうとしてないんだろう。
 さて、指導の時間だ。
 俺はわずかに動いて突きを躱し、一気に踏み込む。
 そして奴の手首へと素早く剣を打ち込んだ。

「グアァッ!?」

 その刹那、奴の嗚咽と共に、剣はカランと音を立て、床に転がったのである。
 ギャラリーから「おおッ!」という声が上がった。
 勝負ありだ。

「それまで! キエーザ……今度こそ、お前の負けだ」

 俺は手首を押さえて蹲るキエーザに声を掛けた。

「さて、キエーザ君とやら。剣を拾って、まだ続けるか? 結果は同じだと思うがね」
「クッ! オノレェェッ!」

 するとその直後、奴は腰の真剣を抜き、俺に向かって斬りつけてきたのだ。
 俺は少し下がり、その剣を避けた。
 キエーザの剣は空を斬る。
 悔しさからの逆上だろう。

「キエーザ! ここで本物を抜くのは許さんぞ!」

 老剣士は慌てて叫んだ。

「うるせぇ! ジジイ! お前は黙ってろ! コイツはぶっ殺してやるッ!」

 キエーザの目は血走っていた。
 もう我慢ならねぇ! といった感じである。
 キレちゃったようだ。
 周囲からはざわざわと声が上がっていた。

「キエーザ!」

 老剣士は尚も一喝する。

「うるせぇ! コイツは今ココで殺すんだよ! コケにしやがって!」

 面倒なので、俺は老剣士に言った。

「ああ、好きにさせてやったらどうです。完膚なきまでに叩きのめさんと、こういう輩は目を覚まさんでしょうから」
「おいおい、アンタなぁ。儂にも立場ってものがあるんだよ。こんな所で殺し合いはさせんぞ!」
「大丈夫。殺し合いにはなりませんよ。ああいう馬鹿は、ガツンと現実を見せてやらんとダメなんです。さぁどいてください。アイツは今、怒りで頭逝っちゃってるんで、貴方にも襲い掛かってきますよ」
「クッ……どいつもこいつも。おいアンタ、本当に殺しは無しだからな」

 老剣士はそれを念押しして後ろに下がった。
 そしてキエーザは怒りの籠った目で俺を睨みつけ、大きく口を開けたのだった。

「テメェは絶対に殺してやる! このまま引き下がれると思うなよ!」

 俺はそこで、訓練用の剣を手放し、床に落とした。
 剣が甲高い音を立て床に転がる。
 俺は無手のまま、奴と対峙した。

「さぁキエーザ君とやら、これで君の相手をしてやろう。さぁ遠慮はいらない。かかってきなさい」

 俺はそう言って無防備に両手を広げた。

「グッ……テメェ……舐めやがってェェェェ! だったら今すぐ切り殺してやるよ! セヤァァァァ!」

 キエーザは俺の挑発にまんまと乗っかり、勢いよく駆けてきた。
 そして俺に間合いを詰め、形振り構わず、剣を振り下ろしてきたのである。
 怒りという感情は非常に厄介だ。
 時に間違った判断をさせてしまう。
 いや、間違っていると心の奥底ではわかっているものの、攻撃性本能が剥き出しになってしまい、自分をコントロールできなくなるのだ。
 コイツはそれが出来ていないのである。
 さて、終わらすとしよう。
 俺は無手のまま奴の間合いに入った。
 続いて俺は、振り下ろされる剣の軌道から素早く身を外し、奴の手首を掴む。
 それから奴の軸足を払い、床に転倒させたのであった。
 これで終わりではない。
 俺は力が緩む一瞬の隙を逃さず、そこで奴の剣を奪い取った。
 そして、奪った剣の切っ先を、床に突っ伏しているキエーザに向けたのである。
 柳生新陰流の無刀取りではないが、それに近い柔術技といったところだ。

「あ、ああ……そ、そんな……なぜだ……なぜだ……そんな、なんでだ……」

 床に突っ伏しているキエーザは、唇を震わせながらそう言うと、脅えたように俺を見ていた。
 老剣士やギャラリーも驚きの目で見ており、この場は静まり返っていた。
 そんな中、俺はキエーザに言い放ったのである。

「どうする? 続けるか? 残念だが、お前程度の腕で俺は倒せんよ。あまりに未熟すぎる。お前は才能はあるのかもしれんが、恵まれた身体能力に胡坐をかいているだけだ。本当に技を収めた武芸者には通じんよ。さて……ではあの男は頂くとする。文句はないな?」

 そしてキエーザはタガが外れたように、頭を抱えながら、ただ只管、叫んだのであった。

「あ、ああ……ああああ、アァァァァァ! ウワァァァ!」

 答えになってないが、シムは回収するとしよう。
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