鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.12 殺人犯と御対面

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   [Ⅰ]


 キエーザが壊れたように喚く中、俺は捕らわれているシムの所へ向かった。
 するとキエーザ一味は俺が近づくなり、シムを残して場所を開けてくれたのだ。
 明らかに、俺に対してビビってる挙動であった。
 その内の1人が、俺に恐る恐る鎖を渡してきた。

「あ、あの……これ、ど、どうぞ」
「へぇ、これで俺に、コイツと散歩しろとでもいうのか?」
「え? あ、いや、そういうわけでは……」

 俺はイラっときたので睨んだ。
 するとソイツは「ヒッ」と脅えながら、そそくさと後ずさったのである。
 なかなかの小心者のようだ。
 キエーザは、こんな取り巻きばかりを集めてたんだろう。
 俺はそこで短剣を手に取り、シムの首に嵌められている皮の首輪を切った。
 幾ら俺を殺した殺人犯とはいえ、そこまで非道にはなれんからだ。
 まぁとはいえ、どこか他人事のように感じてるのもあるんだろう。
 だって、俺は桜木小次郎で、元はべ・つ・じ・ん、だしぃッ!

「おい、シム! ちょっと一緒に来てもらおうか」
「あ、貴方は誰なんですか? なんで私の事を……」

 シムは怯えた表情で訊き返す。
 はい、無視です。
 というわけで、俺は強引にシムの腕を引いた。

「いいから来い! 貴方には殺人の容疑が掛かっている。よって署までご同行願おう。言っておくが黙秘権はない。つうか、来い!」
「え!? 殺人!? ちょ、ちょっと……あわわわ」

 俺はシムを強引に引っ張りながら、スグラムの出口へと向かった。
 するとそこで、老剣士が俺に駆け寄って来たのである。

「お、おい、ちょっと待て! どこに行く。お前は……いや、貴方は一体何者だ?」
「あっしは名乗るほどの者じゃあ、ありやせんよ。ただの流れ者でさぁ。構わねぇでおくんなせぇ、旦那。では」

 時代劇ドラマの渡世人風に誤魔化しておいた。
 もうここに用はないので、真面目に話すつもりはない。

「はぁ? ダンナ? お、おい! ちょ、ちょっと待て!」

 老剣士は尚も呼び止めるが、無視だ。
 関わっている暇はない。
 俺は老剣士を無視し、スグラムを出た。
 スグラムの外にいる野次馬達は、俺を見るや、ササッと道を空けてくれた。
 まるで、モーゼの海割りの如しである。
 だがしかし、今度はレティアがその先で待ち構えていたのだ。
 めんどくさっ。

「シュ……じゃなかった。コジローさん! 一体どういう事なんですか! アイツが手も足も出ないほどに強いじゃないですか! なんなんですか、アレは!」

 レティアは興奮気味に、そう捲し立ててきた。
 これも勿論、真面目に取り合うつもりはない。

「また今度な! 今はそれどころじゃないんだよ。おい、行くぞ。来い、シム!」
「は、はい、イタタタ」

 俺はシムの手を力強く引いた。
 だが、レティアはしぶとく俺達についてくる。

「それどころじゃないって、どういう事ですか? シム様を救出するだけじゃなかったんですか?」

 ああ、もう……早く仕事にいけよ。

「今はしなきゃならない事があるんだよ。だから、また今度ね」
「しなきゃならん事ってなんですか?」

 俺は夕暮れの空を指さした。

「レティアさん、もう日は暮れてきたよ。仕事に戻らなくていいの? こんな所で油売ってる場合じゃないよ。君はこれから酒を売るんだろ?」
「はぁ? 私は油を買うことあっても、売ったりしませんよ。なんですか、それ? それと酒場の仕事なんて、どうでもいいんです。そんな事より、どういう事なんですか。説明して下さい」

 なんて面倒臭い女だ。
 おまけに日本の慣用句が通じてない。
 何とかして帰ってほしいが、良い案が思いつかない。

「あのね、レティアさん。俺について来ても、良い事なんて何もないよ。ン?」

 レティアとそんなやり取りしていると、見覚えのある奴等がこちらに来たのである。

「あれ? コジローさんじゃないか!」
「あ、本当だ! なんで顔を半分隠してるの?」

 それはランドとユミルの兄妹であった。
 なんというバッドタイミング。
 とりあえず、何事も無かったように装おう。

「お、おう……どうしたんだ2人とも? 剣の納品は無事終わったのか?」
「ええ、無事に終わりましたよ。フレイさんはもう宿で休んでますから」
「そうか。俺もその内、宿に向かうよ。ところで何しに来たんだ?」
「俺達はシグルードに用があって来たのさ。折角マティスに来たんだし、妹をここに登録しようと思ってね」

 ランドはそう言ってユミルを見た。
 なんかまた妙な話になってきてる。
 続いてランドは、背後にあるスグラムに視線を向けた。

「ところで、スグラムで何かあったんですか? 凄い人が集まってますけど……変な大声も聞こえますし……」
 
 野次馬達はまだスグラムの付近におり、キエーザの悲鳴のような叫び声も、まだ発せられていた。
 非常に気まずい空気である。

「さ、さあな。さて、それじゃあ俺達は急いでるから、また宿でな」
「え? 急いでる?」
「コジローさん、どこに行くの?」

 俺はとりあえず、適当に嘘付いておく事にした。

「実はこの方がね、失くし物したらしくて、一緒に探しに行く途中なんだよ。さぁ行こうか? シムさん」
「え? ええ!? なんですかそれ! さっき殺人がどうのこうのって言ってませんでした?」

 イライラさせる奴だ。
 人殺しのくせに、正論言ってんじゃねぇよ。

「何言ってんだよ、さっき自分で言ってたじゃん。ン?」

 するとその時であった。
 あの老剣士が、スグラムの中から俺をジッと見ていたのである。
 目が合った瞬間、老剣士は大きく息を吸い、声を上げた。

「お~い、アンタ、ちょっと話がある! こっちに来てくれ!」

 こりゃとっとと撤収だ。

「おい、このオカッパ糞野郎! 行くぞ!」

 俺は力を込めて、シムの手を乱暴に引っ張った。

「オ、オカッパ? あわわわ、そんな強く引っ張らないでください」
「ちょっと待って下さい、シュ……じゃなくて、コジローさん。まだ話は終わってませんよ」

 レティアも付いてくる。
 もう構わん。とりあえず、一刻も早くこの場を離れよう。


   [Ⅱ]

 俺はスグラムを離れ、一旦、街の外へとシムを連れ出した。
 街の外は緑の野が広がり、近くには人がいなさそうな林もあった。
 だが、今は夕暮れ時の為、そこそこ暗い。
 とはいえ、今からする事を考えれば、好都合な状況と言えるだろう。
 その為、俺は付近の林へ、シムの手を引きながら移動したのである。
 勿論、レティアも付いて来た。それにしても、しぶとい女だ。早く仕事に戻れよ。
 まぁそれはさておき、俺は林に入ったところで、シムを突き飛ばすようにして、解放した。
 突き飛ばされたシムは、慌てて俺に振り返る。

「イタタタ、いきなりなんなんですか、貴方は! なぜキエーザから私を解放したんです!」
「そ、そうですよ。急にどうしたんですか! 乱暴にシム様を扱ってますし。シム様を助ける為じゃなかったんですか?」

 シムとレティアが俺に非難の目を向ける。
 だがそんなのはお構いなしだ。
 ここからは俺のターンである。
 さぁて、尋問の時間だ。
 色々と聞かせてもらうぞ。
 俺はそこで顔を半分隠していた布を捲り、シムに素顔を晒した。 

「よぉ、シム。久しぶりだなぁ……元気にしてたかぁ? 会いたかったぞ」
「だ、誰ですか。貴方は?」

 この薄暗さと髭面では、流石にわからないか。

「よぉく見てみろよ。俺が誰だか、すぐにわかる筈だ」

 シムはそこで眉根を寄せ、俺の顔を凝視した。
 するとその直後、シムは大きく息を飲み、ぎこちなく後ずさったのだ。
 シムは腰を抜かしたのか、そこで尻もちをついた。

「あ……ああ……貴方は……」
「ようやく気付いてくれましたか」

 シムの顔はまるで、幽霊でも見たかのような、恐怖の入り混じる表情であった。

「あ……ああ……ああああ、貴方は……シュレン様! そ、そんな馬鹿な……なぜここに……」
「久しぶりだねぇ……会いたかったよ。殺人犯のシムさんよぉ」―― 
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