鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.19 アラトリアの遺跡

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   [Ⅰ]


 俺は骸骨剣士のような奴を、一刀のもとに斬って捨てた。
 その刹那、骸骨剣士は黒い煙と共に灰になって生滅した。これで8体目。
 そう、エルファナの加護を受けた武器ならば、こんなサイズのヤグルは敵ではないのだ。
 上手く胴体や首を斬り落とせさえすれば、切り口から黒い煙を発し、灰になってゆくからである。
 だが、この加護も限界がある。
 そこまで長くは続かないからだ。
 恐らく時間にして2、3分程度だろう。
 その間にできるだけ沢山斬り捨て、ヤグルを倒さなければならないのである。
 とはいえ、これだけの面子が揃っていたならば、そうそう大事に至る事はない。
 やはり数の力は強いからである。
 周囲を見ると、もう戦闘は終わっており、粗方片付いたようなモノであった。
 新手のヤグルもいないようなので、俺はそこで鞘に納刀した。

「これで終わりかな」

 コイツ等アンデッド系の魔物は、恐怖という感情がないので、どんな体勢からでも襲い掛ってくる。
 その為、油断のならない魔物であった。
 そして万が一、コイツ等の餌食になって命を落とすと、やられた者もまたヤグルと化してしまうのである。
 但し、某漫画や映画のように、噛まれたからといって、ヤグルと化すことはない。
 あくまでも死んだ場合に限り、ヤグルと化してしまうのである。
 恐らく、死者を動かすのは、魂や霊的な何かなんだろう。
 とはいえ、オカルトやファンタジー的なモノにそれほど精通してるわけではないから、俺が考えたところでわかるわけもない。
 俺は目の前のヤグルを始末するのみだ。
 
「流石、コジローさんね。あっという間にヤグルを8体も斬っちゃうんだもの」

 ユミルがそう言って俺の傍に来た。
 続いてランドも来る。

「俺と妹が2体倒している間に、一杯斬ったねぇ、コジローさん。こりゃ、キエーザさんじゃ敵わないわけだ……」

 ランドは少し引いてる風だった。
 コイツも稽古つけてもらってるうちに、何かが見えるようになってきたんだろう。
 成長してるようだ。

「ランドとユミルは、怪我はないか?」
「うん、大丈夫よ」
「俺は全然さ」

 と、そこで、シムとレティアもこちらに来た。

「また随分、斬りましたねぇ、コジロー様……どこで覚えたんですか、その剣術? オヴェリウスの剣術と違う気がするんですけど……」
「本当に惚れ惚れする剣裁きだわ。無駄がないのよねぇ。ヤグル1体を一度の剣裁きで、簡単に仕留めるんだもの……」

 やたら褒めてくるが、コレに関しては濁すとしよう。
 鬼一兵法はこの世界のモノではないからだ。
 まぁその前に、刀の切れ味も当然あるがな。

「俺の剣術は自己流だよ。まぁでも……人知れず修行はしていたけどね」
「え? いつです? オヴェリウスにいる時からですか?」

 シムが眉根を寄せて訊いてくる。
 仕方ない、嘘を吐こう。
 俺は頷いた。

「ああ、そうさ。実はな……俺は誰もいない自分だけの時、密かに部屋で訓練していたんだよ。深い瞑想の修行法を用いてな」

 ルザリアをおかずに千摺りの行をしていた時、突如、目覚めたのだぁ!
 という事にしようかと思ったが、流石にやめておこう。
 確実に引かれる。

「本当ですか、シュ……じゃなかった、コジロー様。貴方はそんな方でしたっけ? そういう方じゃなかったような……う~ん」

 シムは腕を組みながら首を傾げていた。
 コイツは、俺を間近で見ていたから、流石に訝しんでいる。
 だが押し通す! 

「でも実際、凄く強いから、何とも言えないのよね……どんな修行なのか気になるわ」

 レティアは興味津々とばかりに俺を見ている。
 あんまジロジロ見るな。ハズいから。
 まぁそれはさておき、ヤグルは全滅したので、シグルードの戦士達は撤収し始めていた。
 心なしか、俺をチラチラ見てるのが気になるが、知らんふりしておこう。

「さて、旅の再開だ。もう終わりのようだから、俺達も馬車に戻るぞ。ニーサさんとイデークさんも荷台で待ってるし」

 2人は覗き込むように、荷台からこちらを見ていた。
 この神官達は魔法を付加した後、戦闘に参加せず、馬車で待機してたので、暇だったことだろう。
 ニーサさんは祈る仕草をしながら、ニコニコとこちらを見ている。
 戦いが無事に終わり、一安心といったところか。

「ですね。ン? おや、コジロー様、誰か来ましたよ」

 シムはそう言って、その人物を指さした。
 するとそこには、今回の討伐隊の責任者であるロイアスさんがいたのだ。
 つまり、リーダーである。
 リーダーは俺の前に来ると、笑みを浮かべた。

「コジローさんは噂に違わぬ、相当な剣の使い手だね。流石は、キエーザを圧倒したという剣士だ。お陰で、かなり戦いが楽になったよ」

 ロイアスは20代後半のイケメン剣士だ。
 ブロンドの爽やかなショートへアに、銀色の鎧。風に靡く青いマント。なかなかにカッコいい出で立ちであった。
 ソレスさんの話だと、マティスのシグルードで最強の剣士らしい。
 今見た感じだと、戦い方も騎士道的なモノであった。
 つまり、正統派の剣士である。
 身長はシュレンとそんなに変わらないが、体重は向こうの方がありそうだ。
 落ち着いた雰囲気の男であり、キエーザよりも強いのは間違いなさそうである。

「お褒めに預かり光栄です。ですが、エルファナの加護が続くうちにと思って、早く終わらせたかっただけなのです」
「それが、なかなか難しいんだよ。ヤグルは意外と動けるのが多いから。それはともかく、報告ではこの先はヤグルが結構徘徊してるようだから、存分に力を振るってくれ。ではよろしく頼むよ、コジローさん」――


   [Ⅱ]


 マティスを出て半日くらい経過したところで、俺達はようやく、目的の遺跡があるという、アラトリアの森の前へと到着した。
 但し、ここからは徒歩での移動となる為、俺達は一旦馬車を降りる事になるのだ。
 それにしても、道中、面倒な戦いがちょくちょくあった。
 最初のヤグルとの戦い以降、奴等が時々現れる為、俺達はその都度、戦闘と重ねる事になったからだ。
 とはいえ、マティスの近くにヤグルはいないので、どうやら特定の地域にのみ出現している感じであった。
 そして、それは森に近づくにつれ、若干多くなっているのである。
 その為、何か嫌な予感がする行軍であった。
 何もなければいいが……。
 まぁそれはともかく、ここからはロイアスさんが指揮を執る為、彼に従うとしよう。

「よし……皆、俺の前に集まってくれ」

 全員、ロイアスさんの元へ集合した。

「ではここからの行動を説明する。まず、馬と馬車の守りをスヴェン達の班に頼もう。引き受けてくれるな?」

 毛むくじゃらの猿人種族ヴァザンの戦士が前に出た。
 この男がスヴェンだ。
 長槍を持っているのもあり、西遊記の孫悟空を具現化したような戦士であった。

「ああ、俺達がこの場で待機していてやるよ。安心して行ってこい、ロイアス。ヤグル共が寄ってこないよう、ラグリアの薪をくべ、火を焚いて待っているぞ」

 どうやらここで、キャンプを張るという事なんだろう。
 ちなみにソレスさんの話だと、ヤグルはラグリアの木を燃やした時に出る煙と、火を嫌うらしい。
 その為、今回、ラグリアの薪と燃やす油を沢山持ってきてるそうだ。

「すまんな、スヴェン。今回は流石に、全員というわけにはいかない。馬がヤグルに襲われると不味いんでな。エルファナの神官には、数名残ってもらう事で話は付いているから、よろしく頼むぞ。さて……」

 と言って、ロイアスさんは俺達を見た。

「キエーザの代わりに来て頂いたコジローさん達には、我々と共に、アラトリアの森の中にある遺跡へ赴いてもらう。準備は良いかな?」

 俺は仲間達の顔色を窺った後、ロイアスさんに返事をした。

「大丈夫そうです」
「よし、では行こう」
「行こう」

 そういう事になったのだ。


   [Ⅲ]


 鬱蒼と草木が生い茂る薄暗い森の中を、ロイアスさんを先頭に俺達は進んで行く。
 ちなみに、ロイアスさんのパーティは5人で、俺達と同じ人数のようだ。
 それに加えて、エルファナの神官が4人いるので、今は計14人での行軍となっている。
 また、神官達の内、2人はニーサとイデークさんであった。
 面子が減ったので、少々不安だが、コレばかりは仕方ないので諦めるとしよう。
 まぁそれはさておき、森の中は日が満足に届かない事もあり、やや湿度も高く、それでいて肌寒い所であった。
 森の雰囲気的には、俺がこの世界で起動したあの森と似ている。
 木々も針葉樹と広葉樹が入り混じる感じで、枝葉が好き勝手に伸びていた。
 その為、ローブによく引っ掛かる。
 日本で見る森林の多くは、人の手によって枝打ちされているモノが多いので、これが自然本来の姿なんだろう。
 ただ、一応は細い道があるので、そこまで歩き難くないのが救いだ。
 それから今のところ、ヤグルとの戦闘がないのも確かるところである。
 余計な体力消耗は避けたいからだ。
 理由は恐らく、ロイアスさん達がラグリアの木クズを、お香のように燃やしながら進んでいるからだろう。
 まさに魔除けのお香といった感じである。
 そんな中、ロイアスさんはこちらに振り返った。

「皆、遺跡はこの先だ。付いてきてくれ」

 先頭のロイアスさんはそう言って、前方に見える明るい場所を指さした。
 どうやら目的地が見えてきたのだろう。
 俺達は草木を掻き分け、ロイアスさんの後に続いた。
 すると程なくして、俺達の眼前に、アラトリアの古代遺跡とやらが、ようやく姿を現したのである。
 そこは木々が殆ど生えてない開けた場所であった。
 辺りは背の低い草花の園といった感じで、近くにはそこそこ大きな湖があった。
 そして、その湖の畔には、朽ちかけた石の城塞に囲われる廃墟の建造物群が佇んでいたのだ。
 恐らくこれが、アラトリアの古代遺跡というやつなんだろう。
 見た感じ、相当な年月が経っていそうである。
 所々、苔や蔦で覆われているが、形状はなんとなくわかる。
 遥か昔は、城塞に囲われた街だったに違いない。
 ただそれよりも今は、別の事に気を配らねばならないようだ。
 
「さて……ヤグルのお出ましだな。皆、戦闘態勢に入れ。まずはコイツ等を始末するぞ!」

 そう、ご多分に漏れず、ヤグルが徘徊しているからだ。
 ここはさながら、死者の街といったところだろう。
 さて、それはともかく、これよりは戦闘だ。
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